第5話 ガチで出る心霊スポット

水晶さんに抱っこしてもらいながら着いたのはどこかの山奥だった。

まだ十分太陽の出ている時間のはずなのに木の葉っぱがその光を遮っているため少し薄暗い。

何より異様に不気味だ。



「あったあった。あそこだよ、今回の目的地」



軽い感じで水晶さんが指さしたのは廃墟の屋敷だった。

おそらく、誰ももう住んでいないのだろう。

木の枝や葉が屋敷全体をおおっており窓は割れている。

今にも崩れそうでホラー映画にでも出てきそうだ。

翔さんがスマホを見て口を開く。



「確か、そこそこ有名な心霊スポットですよね?」


「そう。なんでも、ここの持ち主がお家騒動のゴタゴタで怪異化したらしく。心霊スポットとして面白半分で来てる人達を襲ってるらしいんだよ」



水晶さんの言葉に私は思わず顔を歪める。

そんな心霊スポット行きたくない……。

心霊スポットって本当に霊がいないからこそ楽しめるものじゃない?

殺されたらたまったもんじゃないわ。


まあ、その祓い屋とかいう職業のこちらの方々はいつもの事なのか普通に入ろうとしてますけどね。

慣れって怖い。


ギィ……


水晶さんが大きなドアを開ければ、ホラー映画にありがちな不気味な音がした。



「毎度の事ながら嫌な音だなぁ」



夜斗さんがそう言い、溜息をつく。

やっぱり毎度の事なんですね、この音。


廃墟の中は薄暗く、やはり広い。

昔は素敵な屋敷だったんだろうなぁと思いつつも変わり果てた廃墟に苦笑いする事しか出来ない。

埃をかぶったシャンデリアに薄汚れた元は深紅であったであろう絨毯。

光沢を無くした壺や絵画の入っていない額縁が所々に飾られている。

愚兄はそんな屋敷を見回した。



「怪異はいねぇな。取り敢えず奥行くか」


「そうだね。ずっとここにいてもしょうがない」



愚兄の言葉に水晶さんが頷き、ドアの正面にある螺旋階段を上がっていく。

蜘蛛の巣がはられているとはいえ、磨けば光りそうなものが山ほどある屋敷を見回す。

その怪異?とかいうのは今のところいなさそうだ。

二階の廊下を暫く歩き翔さんが不思議そうに首を傾げる。



「いつもなら出てきてもいい頃だと思うんですけど。出てきませんね」


「まあ、厄介なやつなんじゃない?疾風の言う鬼畜教師から直々に連れてけって言われたし」



アハハと水晶さんが笑う。

その鬼畜教師、気になる。

愚兄を唸らせるってことは水晶さんくらいかそれ以上に圧でも強いのだろうか。

水晶さんはパッと見は美青年だけどヤバそうな感じするし。

それ以上は怖いなぁ。



「これだけ広いと、別れた方が手っ取り早いかもしれません……」



話が脱線しかけたところでおずおずと夜斗さんが手を挙げて提案した。

この屋敷は二階建てだが外から見るよりずっと広い。

いや、外から見ても広そうだったんだけどね。それ以上なのよ、この元屋敷。

下手をすれば学校より広いかもしれない。

何より似たような景色が続くので何かを目印にしないと迷いそうだ。

水晶さんの家みたい。

夜斗さんの意見に納得したのか愚兄と翔さんは顔を見合せ、頷く。



「確かにそっちの方が効率がいいかもしれません」


「じゃ、別れるか」



三人の意見がまとまり、水晶さんは口を開く。



「そしたら、翔と夜斗は下見てきてくれる?」


「「はい」」



二人は返事をし、素早く一階に降りていく。

足、速。

祓い屋ってなんなの?

超能力人軍団なの?

……でもって二人が居なくなれば残るのは愚兄なわけで。



「水晶さんはいいけどなんでお前が」


「会った時から失礼すぎませんか」



あからさまな程に嫌な態度の愚兄に思わず顔を顰める。

こっちだってそんな平気で悪口言う人と一緒にいたくないわ。

見た目は幼い私にもうちょっと配慮しろ。



「二人はそりが合わないね。ほら、行くよ」



そんな嫌味の言い合いは本格化する前に水晶さんに強制終了させられ、屋敷の中をまた歩き始める。

それから数分経った、その時だった。



「来るよ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る