第4話 異母兄が愚兄だった件

水晶さんの向かった先はやはり玄関だった。

ここもやけに広くて、なのに掃除が行き届いていて綺麗だ。

でも、建物自体は新しいわけではないのか水晶さんはガラガラと音をたてながら扉を開けた。



「どうしたの、三人揃って」



扉を開けてすぐに水晶さんが口を開く。

扉の向こうを見れば、そこには夢園雅と似たような制服を着た青年が三人立っていた。


一人は黒髪に黒い瞳の色白の青年。

三人の中では一番細身で気弱な感じがする。

今も戸惑ってるっていうか自信なさげな表情してるし。


二人目はオレンジっぽい色の癖のある短髪に同じ色の瞳の青年。

少し猫目で長身のしっかりした体つきをしている。

呆れたような顔をしていて黒髪の青年とはタイプが真逆だ。


最後は銀髪碧眼の青年。

……この人も既視感ある顔してるな。

オレンジ髪の青年に呆れたような視線を向けられても気にとめてないっぽいし打たれ強いのだろうか。

その銀髪の青年が一歩前に出て話し始める。



「水晶サン、四宝持ちの罪人を庇うのはどーかと思いますけど」


「おい疾風はやて、お前当主に向かってどういう口の利き方してんだ」



疾風と呼ばれた銀髪の青年の肩をそう言ってオレンジ髪の青年が掴んだ。

シホウ持ち?罪人?

あ、私の事か。

シホウ持ちは意味わかんないけど、罪人って……。


複雑な気持ちになりながら顔を見上げれば、黒髪の青年と目が合った。

青年はギョッとした顔をして後退る。

いや、そんな顔しなくても良くないですか?



「疾風、かける、あの子……」



黒髪の青年が私を指さして小さな声で二人に告げれば、視線がこっちに集まった。

えーっと。

私は一体どうすれば?



「青みがかった銀髪に金色の瞳……お前か。罪人は」



やっぱ罪人は私ですか……。

疾風さんの言葉に軽く落ち込む。

あと、普段は染めたりカラコンしてるけど私の地毛と瞳の色おかしいって。

なんか、頭の色がカラフルな人たち集まってるけど。



「違うよ、疾風。この子は夢園さんを殺したわけじゃない。君たちからしてみれば同級生でもそれ以前に彼女は祓い屋であり、死ぬのはしょうがないことだろう」


「そもそも、四宝持ち自体が罪だって言ってるんですよ!」



静かに言い放つ水晶さんとは対照的に疾風さんは声を荒らげる。

え、生きてることまで罪なんですか、私は。

水晶さんの話からヤバいんだろうなぁとは思ってたけどそこまでとは。

よく分かんないけど。



「お前はちょっと黙ってろ!」


「いっ!?」



水晶さんに向かってギャンギャン吠える疾風さんに翔さんがゲンコツをお見舞いする。

疾風さんは小さく声をあげるとその場にうずくまった。


あーあ……。

そして、ゲンコツをした翔さんは水晶さんに向き直り、改めて口を開く。



「すいません、水晶さん。コイツがうるさくて」


「まあ、元気なのはいいことだよ」



果たしてアレをただの元気と言っていいのだろうか。

暴言を吐かれた立場としてはなんとも言えない。

翔さんはしゃがむと、水晶さんの後ろから様子を伺っている私に笑いかけた。



「初めまして。俺は蒼矢あおやかける。コイツがごめんな」



疾風さんを指さす翔さんに私は首を横に振る。

それから、ペコリと頭を下げた。



「大丈夫です。初めまして、水瀬奏音です」


「よろしくな。それにしても幼いのにしっかりしてるな〜」



ただ単に自己紹介をしただけなのに翔さんは感心したように褒めてくれる。

ふむ。こういう風に普通に褒められるのも新鮮で悪くない。

と、黒髪の人が遠慮気味に話し始める。



「あの、水晶さん。疾風は罪人とか言ってますけど、本当は質問しに来ただけなんです」


「あー、そうだったな。でも、似てるしやっぱりそうなんじゃないか?」



翔さんの言葉に疾風さんがカッと目を開けて立ち上がる。



「おい、翔、夜斗やと!余計なこと言うなよ!」


「ご、ごめん」



疾風さんの怒鳴り声に夜斗と呼ばれた黒髪の青年が肩を揺らして謝る。

完全にいじめっ子といじめられっ子の図だ。

そんな二人の間に翔さんが立ち上がり割って入る。



「つまり、コイツはそこにいる奏音ちゃんが自分の腹違いの妹なのか確かめに来たんですよ」


「翔!」



疾風さんの叫び声もお構い無しに水晶さんは納得したような顔になる。



「ああ、成程ね。そうだよ。この子は疾風の妹」



ということは。

この人が私の、兄。義理だけど。

知ったばかりの事実にしげしげと疾風さんを見る。


銀髪に青色の瞳で顔の系統は水晶さんに近いが柔らかい印象を受ける水晶さんに比べてこちらは勝気そうな印象を受ける。

で、そんな二人がミックスしたような顔をしてるのが私である。

母親にはあまり似ていなかったので初めて血の繋がりを感じる瞬間だった。



「なっ……違え!そもそも俺はあんなのが母親だとも親父だとも思って……」


「疾風、諦めな。どんなに喚いても変わらないものは変わらないよ」



水晶さんの底冷えするような声が疾風さんの言葉を遮る。

怖い。

真顔が怖い。

疾風さんが唇を噛み締め、私を指さした。



「大体、こんなのが妹だって言われて納得出来るわけねーだろ!」


「……愚兄」



思わず思ってたことを口に出す。

待って、この人さっきから失礼すぎません?

兄を謙遜する時とかの言い方だけどさ。

これは愚かな兄でそのまんま愚兄。

私だって顔が似てなきゃ兄だなんて思わんわ!

でも顔が馬鹿みたいに似てるんだよ!

疾風さん、いや、愚兄はピキリと額に青筋を浮かべる。



「誰が愚兄だって?」


「貴方ですけど?」


「……喧嘩売ってんのか?」



あからさまにキレている愚兄を私はさらに挑発する。



「そうですけど?私の事をとやかく言う前に貴方はその性格を直した方がいいのでは?会ってすぐ言うのも難ですけど」



(訳)会ってすぐでも分かるその性格の悪さをどうにかしろよ。

そんな挑発にのって愚兄は私に掴みかかろうとしてくる。

子供か。小学生か。



「お前、小学生相手にキレてんじゃねーよ!」



翔さんが最もなことを言いながら愚兄を羽交い締めにして抑える。

水晶さんの後ろにコソコソと隠れれば、ヒョイと抱き上げられた。

細身に見えるが力は普通にあるようで片手で私を持ち上げながら時計を見ている。



「もうこんな時間か。三人とも、行こうか」


「「「は?」」」



三人の声が見事に重なる。

顔を見上げれば、水晶さんはニコニコと笑っていた。



「あの、どこに行くんですか?」



夜斗さんの質問に水晶さんはニコニコ笑顔のまま返す。



「フツーに怪異退治」


「はぁ?なんで俺らも行かなきゃなんねーんだよ」



翔さんの羽交い締めから抜け出し、愚兄が水晶さんを睨む。

しかし、睨まれた本人はどこ吹く風。



「君たちの担任の先生に頼まれたんだよ」


「あんの鬼畜教師……!」



愚兄が分かりやすく怒りの篭った声で呟く。

鬼畜教師?

ああ、でも気性が荒そうなこの人の担任が出来てるってことはそういう部類の人なのか。

一人納得していると、翔さんが首を傾げて私を見た。



「奏音ちゃんも連れていくんですか?」


「んー?もちろん連れてくよ」



あ、私も連れてかれるんだ。

その怪異退治とやらに。

なんか響きは鬼退治っぽい。

でも、病み上がりの人にあんまり無理させないで欲しい。

あと、わけわかんないし。



「ああ、別に大丈夫だよ。僕がこのまま連れてくし、この子は祓い屋として生きることが決まってるから怪異を見とかないと」


「……ん?」



祓い屋として生きることが決まってる?

聞き間違い?初耳なんですけど。



「あの、水晶さん。祓い屋として生きるというのは……?」



恐る恐る聞く私に水晶さんはあっけらかんに答える。



「奏音。君は確かに疾風の言っていた通り罪人だった。だからね、君を生かしておく条件付きで僕が引き取ったんだ。その条件の一つが、」


「私を祓い屋にすること?」



水晶さんはコクリと頷く。

……水瀬奏音、小学一年生。

この歳にして将来が決まってしまいました。






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