第5話 情報が多すぎる

まず言おう。

お風呂は超快適だった。

少し熱めのお湯が疲れた体に染み渡り、広い浴槽を貸し切り。

露天風呂もあって旅館気分を楽しめる最高のお風呂でした。

極楽極楽……。

この屋敷は最高だ……。


お風呂から上がり、紙袋に入っている服を着る。

襟のところまで細かく刺繍のされたブラウスとダークブルーの膝丈のスカート。

水色の綺麗な石がついているループタイはなんだか意外だ。

うわぁ、初めてつけるかも。

ただ、これ絶対高いやつだ。

紙袋に印刷されてるブランド名がそれを示している。

うん、汚さないようにしよう。


お高いであろう洋服に複雑な気持ちになりながら水晶さんがいるという部屋に行く。

迷子にはならなかったけど広すぎるって、この屋敷。


あと、高級そうな物が多すぎる。

そこら辺に置いてある壺に触れるのが怖い。

そもそも、普通は壺なんか置かないって。


恐る恐る言われた部屋の襖を開けると、そこには水晶さんがいた。

真ん中に机が置いてあり、座布団の上に座っている。

水晶さんは私に気づくと、声をかけてくれた。



「おいで。大丈夫だった?」


「はい。ありがとうございます」



お辞儀をしながらそう言えば、水晶さんはホッとしたように顔を緩める。



「服とか知り合いが選んだやつだけど大丈夫そうだね」



「女の子の物はよく分からないし」と水晶さんが苦笑する。

向かい合うように座布団に座れば、目の前にある和菓子が目に入った。

……お腹空いた。



「すいません、これ食べてもいいですか?」


「いいよ。好きなの食べな」



お言葉に甘えて大福を手に取り、一口かじる。

ん、これチョコ大福だ。美味しい。

よくよく考えてみれば今は時計の短い針が三を指しているし、一日以上何も食べていない。


あっという間にチョコ大福を平らげ煎餅に手を伸ばそうとして、ハッとした。

水晶さんが現状説明してくれるんだった。

そんな私に水晶さんはクスクスと笑う。



「食べながらきいてて。今から説明するから」



こくりと首を縦に振れば、水晶さんは顎に手を当てる。



「うーん、どこから話そうかな……。あ、ちなみにここは僕の家だから好きにしていいよ」



おう、なんとなく察してはいたけどやっぱりこの人の家でしたか。

……ここ、家って呼んでいいのかな。

家じゃないんだよね、いろいろ。

屋敷なんだよね。最早。

あと、この屋敷で好きにしてって言われると旅館貸し切りをイメージしてしまうのですが。

そんなどうでもいい事を考えていると、水晶さんが話し始めた。



「まず、この世には怪異っていうのがいるんだよ」


「怪異?」



怪異って言うと、あの妖怪とかそういう類の?



「そう。怪異は強すぎる感情ゆえに壊れてしまった人間の成れ果ての姿。人間を襲い、時には殺しさえする」



怖。

それが率直な感想だった。

もう少年漫画みたいな出来事が起こりすぎてなんでもアリな気がしてきた。

頭の中で情報を整理し、繋げていく。



「えっと、その怪異を祓うのが水晶さんの言ってた祓い屋、という解釈でよろしいでしょうか?」



私の言葉に水晶さんは頷く。

どうやらあっているらしい。



「その通り。僕も祓い屋の一人で姉もそうだった。で、いろいろ省くけどこの祓い屋っていう職業には四つの由緒正しい……って言われてる家柄があるんだよ」



「四つの由緒正しい家柄」のところで水晶さんのトーンが落ちる。

え、なんでそこだけそんなトーン落ちるんですか?

何かそこの家とあるんですか?

疑問に思いつつもあまり突っ込まないでおく。

こういうのは突っ込んではいけないのだ。

水晶さんは普通のトーンに戻り、四本の指を順に折り曲げていく。



「金剛、柘榴、翡翠……それから、水晶。つまり、僕と姉は由緒正しい四つの家、通称、家宝家かほうけの人間なんだよ。それは君も同じ」


「私は水晶家と血が繋がってるって事ですか?」



そう問えば、水晶さんは首を横に振った。



「そうだね。正確には、水晶家と金剛家の血が混ざってる、だけど」


「それって、さっき言ってた家宝家のうちの一つの?」


「そうそう」



水晶さんはどこか遠い目をしながら話を続ける。



「家宝家ってさ、祓い屋としての能力値が基本的に高い子供が生まれるんだよ。でも、あんまり高いと扱いきれなくなる。それは血が濃い直系ほどそうなりやすい。だから、家宝家の直系の者同士で子供を生むのは禁止されてるんだよね。扱いきれないくらいの能力を持った子が生まれちゃうから」



そこで水晶さんが言葉を区切り……なんとなく、察しました。

あー、ハイハイ。

そういうわけですね。

つまり、母親は直系なのに金剛家の直系に騙されて私を生んだと。


水晶さんがその後に話した事は予想と同じだった。

そして、金剛家の方は黙り通し、水晶家の方で母親と生まれたばかりの私を死刑にする事で終わるーーはずだった。



「まさか姉と君が生きてるなんてね。思ってもみなかったよ。でも、君は祓い屋としての能力が強くとも暴走したりするような事はなかったし、あ、あの部屋に君を入れたのは暴走した時のためね」


水晶さんが微妙な顔で告げてくる。

成程。

私は存在自体がヤバいのね。

まあ、あの頭お花畑な母親だからなぁ。


……あ、夢園雅!

キャパオーバーしかけて忘れてたけどどうなったんだ?

母親は助からなかったにしても、加害者である彼女は?



「水晶さん、一つ聞きたいことがあるのですが」


「夢園雅、の事かな?」



大正解です。

私の思考を当てた水晶さんはふうっと息をついて腕を組んだ。

えーっと、何かあったのでしょうか。

もしかして、これが面倒な事に絡んできたりするのかしら……。



「夢園雅に関しては、いろいろあってね。彼女、お偉いさんの孫なんだよ」


「……」



お偉いさんの孫なんて既に嫌な予感がするんですけど。

確かに、育ちは良さそうだったような気がする。

でも、話の流れからして夢園雅は、



「それで、彼女死んでたんだよね。君の数メートル離れたところで」



やっぱり死んでたぁ!

やめてくれ、私が殺したみたいじゃないか、それは!



「……奏音。一応聞くけど、夢園雅を殺しては……」


「いません!」



アレは自爆だ!

むしろ私は被害者じゃない!?

それにしたって小一に罪をなすりつけるとか終わってるってこの世の中。



「それでも周りがうるさいんだよ。奏音を連れてくるのも結構大変だったし」



お偉いさんの孫だもんな。

頭痛が痛い状態になりながら頭の中で内容を整理していると、不意に水晶さんが立ち上がった。



「水晶さん、どうかしましたか?」


「来たね」



何が?

首を傾げれば、水晶さんは肩を竦めた。



「面倒事だよ。思ったより早いな。流石は金剛家と柘榴家の次期当主ってところか」



次期当主?

金剛家と柘榴家は水晶さんがさっき言ってた家宝家の名前だろう。

で、そこの時期当主の人が面倒事を持ってくる……って事?

柘榴家は分からないけど金剛家は私の実の父親の実家なわけで。

流れからして何も無いって事はないんだろうな……。

全く嬉しくないけど。


水晶さんは部屋を出て玄関があるであろうに方向に向かって歩き出す。

これは当事者(多分)としてついていったほうがいいのだろうか。

私も水晶さんの後をついて部屋を出るのだった。

……この判断が悪い方にいきませんように。











  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る