13.聞かないで
強く引かれたチェック地のネクタイと白いシャツに、普段なら付かないような大きな皺が入っている。僕を見下ろす高岡さんのワイシャツの隙間から、大人っぽい黒の下着に包まれた胸の谷間がチラリと伺えた。見ちゃいけない、でも無意識に視線がいってしまう。こんな時までやめてくれ、と自分の本能に言い聞かせた。
「お昼食べろだなんて、そんな事言いにわざわざ部屋まで来てくれたんだね…?」
高岡さんの声で谷間から現実に引き戻される。
「お説教するつもりなら、服脱がせて黙らせてあげてもいいんだよ?」
「え……………」
なんで服脱がせるの?シンプルに疑問に思ったけど、匂う為か…と謎に納得した。でも僕は説教の為に来たんじゃないし、違うと必死で首を左右に振る。
「そんなんじゃ無いし、責めてるつもりもないよ…!」
「ならどんなつもり?私はただ君の匂いが欲しいだけなの」
それは嬉しいんだけど、そうじゃなくて。高岡さんの助っ人になりたいんだ、僕は。それをどうやって伝えたらいいんだろう。いい台詞が思い浮かばずあたふたする僕を見て、高岡さんは頬を膨らませた。
「やっぱり約束、やめる…?」
悲しそうな顔で僕のネクタイを握りしめる高岡さんの手は小刻みに震えている。
お弁当の蓋を片手に持ったまま僕は彼女を見上げて思った。彼女は僕に、本当はどうして欲しいんだろう。"一緒に寝て欲しい"の本当の意味は何なんだろう。
何がそんなに悔しいのか、今にも泣き出しそうな顔をしている彼女はまるで物事が思い通りにいかないことを怒る子供みたいだ。それを見てるとなんだか僕も悔しくなってきた。
『乃慧琉のことは乃慧琉に聞けば』
頭の中の
「高岡さんのこと、分かりたいんだよ」
きゅうと、心臓が縮まる感じがした。それは僕のじゃない、彼女の心臓がだ。見た訳じゃないけど彼女が不意にそんな顔をしたんだ。
キツく下唇を噛んだ高岡さんは「嫌だ!」と叫んで僕のシャツに掴みかかる。
「うわ…!何すんの、高岡さん!!」
「何も話す事なんてない!!!!!」
途端に、ブチブチブチッと音を立ててシャツを半分に引き裂いた彼女。ぱんと弾け飛んだボタンと
「っ……!!!」
言葉にならない悲鳴を上げた僕。恥ずかしいとかじゃなくて、こんな芸人みたいなこと現実にされる時が来るなんて思わなかったのだ。それはもう衝撃過ぎた。
床に舞って散らばり、コロコロと転がっていく透明の小さなボタン達。そして僕の胸元でハァハァと荒い息遣いの高岡さん。いつも綺麗に整えられている黒髪はぐしゃぐしゃで、尖った顎先から汗の粒が伝って落ちる。思い出したように顔を上げた涙目の彼女は、やっぱり可愛い顔をしていた。
「……………う、ぅ」
小さな唸り声を上げ、高岡さんはズルリと力が抜けたように僕の膝に倒れ込んだ。慌てて彼女の体を支える僕。そして力を使い切ったみたいに彼女は動かなくなり、またいつものように眠ってしまった。
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