12.秘密の部屋で
昼休みのチャイムが鳴る。気が抜けたように騒ぎ出すクラスメイト達に混ざり、四時間目までうつらうつらとしていた高岡さんは、ゆったりと足取りで教室を出て行った。
「えええぇ……」
その後ろ姿を目で追っていた僕は椅子に座ったまま項垂れる。やっぱり昨日の部屋に行かなきゃいけないのか?でも承諾したし。助っ人だし。
「いや…昨日約束したもんな。話し相手なら良いよって」
話し相手の助っ人。話し相手の助っ人。僕は呪文のように呟きながら、お弁当箱を片手に教室を出た。
…………………
昨日は気付かなかったけど、連れ込まれたあの部屋はどうやら物理で使う部屋だったらしい。お弁当箱を持った僕は部屋の室名札を見上げて思った。
「ぶつ、り…じゅん、び?」
部屋の札には物理準備室と何とか読めるぐらいの掠れた文字で書かれていた。でも物理準備室は違う場所にあるから、ここは今は使っていないんだろうな。
「ノックした方がいいのかな」
職員室じゃないんだから、と誰かから突っ込まれそう。とりあえず居るかだけ確認しようかと緊張の面持ちで扉に手を伸ばした瞬間、ガラッと音を立ててドアが開いた。
「う、わっ」
そして予想通り中から高岡さんが出てきて「待ってたよ」と僕の手を引く。
「絶対来てくれると思った」
部屋に連れ込むなり僕のシャツに顔を埋める高岡さん。もうこんなの逢引きじゃないですか。お弁当を両手に持った僕は、それを天に捧げるように高く上げて彼女に自分からは触らないようにその場で固まる。
「あぁ……やっぱり好き」
「わ、た、高岡さん…昼ごはんは」
「私こうしてるから食べてていいよ」
「え…」
…食べれるか!こんな状態で。好きな女の子に抱きつかれたまま昼ごはんなんて、どれだけ酷いレベルの生殺し状態なんだ。性欲を食欲に置き換えろってことか?
「食べにくいよ……」
「確かにそうだね。なら椅子に座る?」
そういう問題じゃないんだけど。しかし僕の心を読んでくれる訳もなく、こっちへどうぞと手招く彼女。そして素直に従う僕。
やっぱりこの部屋、全体的には薄暗くて埃っぽいけど、彼女が使っているのか幾つかの机や椅子、それに床などは綺麗に保たれている。これを見る限り多分使い慣れてるっぽいけど、どれぐらい前から私用してるんだろう。
「ここに座ってもいい?」
椅子に座らされた僕の膝に、彼女は座ってもいいかと指をさして尋ねてくる。隣に座るとかじゃ無くて上に座ってもいいのかを聞かれたのは初めてだ。そして返事をする前に跨がろうとしてきた彼女を咄嗟に手で止めた。
「ちょっと待って、聞いてほしいことがあるんだ」
「ん、なあに?」
僕の目の前に立ったまま唇を尖らせた高岡さん。お弁当を机に置いた僕は彼女の方へ向き直る。
「あの…質問2つだけ、いいかな」
「うん。いいよ」
「ありがとう……まず、質問1ね。お昼ご飯は?」
「食べると眠たくなるからいつもお昼は食べないの」
食べなくても日中は眠たそうじゃないか?そう思いつつも、とりあえず今は分かったと頷く。
「じゃあ2つ目、…あのさ、今日は僕とお喋りして仲良くする時間にしてみないかな…」
「…それ質問じゃなくない?」
「高岡さんの最終的な望みは夜に眠れるようになることだよね」
「うん」
「なら昼間に寝ちゃダメだと僕は思うんだ」
「…………」
ふにゃと顔を
「それで、お昼ご飯はきちんと食べた方が…」
お弁当箱を開けて言った僕。ふんわりと食材の匂いが鼻腔を
「おえっ…!!」
引っ張られたお陰でネクタイの輪が狭くなり、キュッと喉が締まった。驚いて彼女の方を見れば、僕のネクタイを右手で強く掴んだまま高岡さんは笑っていた。
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