第一章 光魔法師の候補生②

 島に着くと新入生はりようへ案内され、部屋へ荷物を置いてから講堂へと集まるよう指示があった。ルーナも寮を出ると、人の波についていくようにして講堂へ移動した。

 講堂は全校生徒が集まる場所だけあり、ルーナの知る街で一番大きな教会よりも広かった。遠くに見えるてんじようにはステンドグラスがあり、太陽の光が色を変えて降り注いでくる。

 講堂内にはなく、生徒たちはざっくりと、後ろから一年、二年、三年でまとまっていく。ただし、特進生たちはまた別で、一番前に場所が用意されていた。

 入り口で受けた説明どおりに前方へ行くと、寮へ行く前に別れたルカと合流することができた。女子寮と男子寮は場所がはなれていて、船を下りたところで一度別れたのだ。

「ルーくん、寮どうだった?」

「おー、一人部屋で快適そうだった。ルーナは?」

「もうすっごくいいところだった! おとんふかふかだし、あまりもすきま風もぜんぜん心配ないれいな部屋で、感激だったよー!」

「それは何より」

 ルカはルーナの反応におかしそうに笑った。

「でも、これからはおたがい一人暮らしなんだね……さびしくなるな」

「同じ島にいるんだから、すぐ会えるだろ。毎日同じ学園にも通うんだし」

「うん……そうだね」

 ルカもルーナと同じで初めての一人暮らしになるが、まったく不安はなさそうだ。心配させたくはなくて、ルーナも笑顔でうなずいた。

 そうこうしているうちにほとんどの生徒が講堂内への移動を終えたようで、ルーナたちの周辺にも特進生がそろったようだ。その中には船の上で砂器を拾ってくれたせいぎんぱつのディーノや、人を犯罪者呼ばわりして立ち去った黄色ドレスワンピースのイヴェリーナもいる。後ろにいる通常クラスの生徒たちが、ディーノを見てきゃっきゃっと話している。視線に気づいて彼が笑顔を向けると、黄色い声がきゃーとあがった。

 ほどなくしてがやがやしていた講堂内が静かになっていく。周囲の生徒の視線がだんじようへ向かっていき、ルーナも視線を向けると、ちょうど学園長がきようだんに立ったところだった。

「全員集まったようだな」

 学園長は五十代だと聞いたが、四十代前半にも見える若々しさだ。白い長いかみを下ろしているが、老人めいた印象はない。落ち着いたふんだが、高そうな黒衣をまとい、背筋が綺麗にびた姿はげんに満ちている。

「一年生の諸君は、入学おめでとう。砂魔法師を目指すからには、砂魔法の技術だけでなく、私生活や教養についても一流としてじないようみがいて欲しい。さて。さっそくだが、全生徒へ向けた今年のチーム発表だ」

 生徒たちがざわついた。特に在校生のざわつきが大きい。一年生は入学式のつもりで来ているが、二年生や三年生は、チーム編成を知ることが今日一番のテーマなのだ。

「アメーラ先生」

 学園長がわきひかえる教師の名を呼んだ。呼ばれた教師が進み出て、砂器を取り出した。

(もしかして、砂魔法?)

 砂魔法師の資格を得た者のみがリスピ石の所有を、砂魔法の使用を許されるため、この目で見るのは初めてだ。例外的にこのウルビス島では生徒も砂魔法の使用を許されるが、リスピ石が配布される前の今は、当然砂魔法を使えない。

(それにしてもあれ……本当に先生?)

 かなり若く、下手すれば生徒のように見える。服装は制服と異なり、ピンクのドレスワンピースに、短い黒ボレロだ。かたで切りそろえたピンクの髪が、彼女の動きと共にれる。

「あの髪、いじってるらしいぜ」

 彼女に見入るルーナに、隣のルカが言った。

「いじってる?」

「人工的な髪色ってこと。砂魔法で作った薬を定期的に飲んで、色を変えてんだよ」

「あー……なるほど」

 確かに、ルーナたちがいた街では決して見ない髪色だ。

 ピンク髪の教師が砂器をった。色とりどりの宙にった砂に人差し指で星をえがく。ほどなくして、指でなぞった場所に光りかがやほうじんが生まれた。

(うわ、綺麗……)

 宙に舞う砂が、魔法陣の発動により光に転じる。それから少しして壇上に現れたのは、大きな灰色の石板だった。そこへ、白い石で石板を傷つけていくかのように人の名前が書かれていく。どうやら、チーム構成が書かれているようだ。

「うわー……すごいね! ルーくん!」

「ああ、すごいな」

 こうしてチームが発表されていく中、学園長がそうそう、と言葉を発した。

「砂魔法師は技術はもちろんだが、人間性も重視される。どこへ行っても重要な役割を任される立場だからな。その意味でも我が校では、チーム課題の成績を重視し、卒業時に国へ伝える成績へと反映している」

 砂魔法師にもランクがあると聞いたことがあるが、国に伝える成績というのは、それに直結するものなのだろう。つまり、この学園での成績が将来の地位にえいきようする。学園に入る生徒であれば全員知っていることがららしく、特段反応はない。だが、次の言葉に生徒たちはざわついた。

「しかし、これまでの結果は特進生のいるチームばかりが上位の成績をおさめている。これではチーム力など見られないという声もあり、また、今年は特進生が八名いるという異例の事態から、あらかじめ通常クラスと特進クラスを分けてチームを構成することにした」

 ルーナは首をかしげ、小声で隣のルカに問いかけた。

「……つまり?」

「特進生が四人のチームを二つ作るって話だな」

「わ……ということは、私、ルーくんと同じチームになれるのかな」

 確率は二分の一だ。ルーナは目を輝かせ石板に視線を戻した。



 入学式を終えて全生徒へ配布されるリスピ石を受け取った後、ルーナはとぼとぼとルカの隣を歩いていた。今は特進生用に用意されたチーム部屋へ向かう最中だ。

「あーあ。二分の一の確率だったのに、そこで外すかなあ」

「まあ、そういうこともあんだろ。けどほら、ルーナが楽しみにしてたリスピ石も受け取れたわけだし」

「そうだね……ついにこれで、砂魔法が使えるようになるんだね!」

 落ち込んだ顔から一転してがおになると、ルカが小さく笑う。

 ルーナはあらためてこしの砂器を取り出した。その中には、赤、青、緑、灰の丸い石が入っている。ガラスしにれると、不思議な温かみを感じた。

「なんだか、リスピ石に触れてると安心する。リスピ石に込められただれかのやさしさが伝わってくるみたい」

 全選定でさわった時にも思ったことだ。これが人生を変えるかもしれない宝石に思えたからかもしれない。触れると、石も直接ルーナの心に触れてくるようで、不思議な温かみを感じるのだ。

 反応のないルカの顔を見れば、めずらしくルカがルーナに向かって変な顔をしていた。

「え、変なこと言った?」

「あー……いや、無機物に対してその感想はあんま想像しなかったというか」

「無機物……無機物なのかな」

 リスピ石が感情を持っている気がするなど、おかしな考えなのだろうか。

「まあ、リスピ湖に落ちたいんせきからけずり取ってけんしたのがリスピ石だからな。正体不明の物体って意味じゃ、無機物とは言い切れないか」

「へー。リスピ石ってそうやって作られてるんだ! ルーくん、あいかわらず博識だね」

「昔、せいれいさいの開かれる日が隕石が落ちた日だって教えてくれた人がいたんだ。その時に聞いた。それより、そろそろ見えてきたな」

 校舎を出てからだいぶ進み、橋をわたって小さな川をえたところで、前方に大きな建物が見えてきた。

「いよいよチームメイトとの対面だね。きんちようするなあ。変な人がいたらどうしよう……」

「変なやつがいるかは分からないけど、とりあえずルーナのチーム、エリートばっかだぞ。メディスツァ家の子息は次のけんじやちがいなしらしいし、ピンスーティ家もゆうしゆうだって話だ」

「それ、どこで聞いたの?」

 ルカだって、ルーナと同じ街暮らしだったのだ。なぜルカだけそんなことを知っているのだろうと顔を見ると、ルカは目を泳がせた。

「あー……船の上でちょっと」

(ルーくん……まさか情報目当てで女の子に声をかけたとか?)

 だとしたら、ルカにひとれした少女があまりにもあわれだ。

(でも今はそれよりも)

「ここから先はルーくんと別行動かあ。ただでさえ学年も違うのに」

 ルカはルーナと同じく今日ウルビスへ入学したが、ねんれいでいえば二年生なのだ。飛び級という形で二年生あつかいになると聞いている。つまり、通常クラスの授業は受けず、いきなり特進生向けの授業を受けることになるのだ。

「まあなあ。けど、授業後は自由時間なわけだし。メシもさ、ルーナがほかに食べたい相手ができるまでは、いつしよに食おうぜ」

「うん……うん!」

 やがてルーナたちは、きゆう殿でんのような建物の前で足を止めた。大きな門の向こうに、青い丸みを帯びた屋根をかぶった、はくの建物が見える。

「ここ……?」

「入ろう」

 言うが早いか、ルカはもう門を開けていた。あわててルーナもその後に続く。重いとびらを開けた先のげんかんホールには二つの看板があり、一つの看板に自分の名前と他三名の名前が書かれ、大きく左矢印が書かれていた。ルカの名前のある看板には、右矢印が書かれている。

「ここからは別行動だな。また明日あした、食堂で」

「うん」

 ルーナは笑顔で手を振って、あっさり右のろうを進んでいくルカをちゆうまで見送ると、自分も左の廊下を進んだ。そしてき当たりの部屋に入ると、貴族のしきにありそうな一室が目に飛び込んできた。

 広々とした部屋には中央にい木目のテーブルがあり、それを囲む四つのがある。手前のかべには食器だながあり、まどぎわにはソファがある。これだけ食器があるのを見ると、この部屋以外にもお茶をれる部屋などがありそうだ。それだけにとどまらず、きっと他にも部屋はあるのだろう。外から見れば宮殿のような建物だった。

 チームメンバーは全員で四名。ルーナが最後のとうちやくだったようだ。すでに三人はテーブルにつき、だんしようでもしていたのかテーブルにはポットが一つとティーカップが三つ置かれている。

 その三人の顔を見て、ルーナは「げっ」と口の中で声をらした。相手のほうもめちゃくちゃ顔をしかめている。船の上でルーナを犯罪者扱いした少女イヴェリーナだ。ルーナと目が合うと、はちみつ色のくるくるのかみを派手に揺らし、ぷいっと向こうを向いた。

(ルーくんの名前にばっかり気をとられてたけど、そういえば看板にイヴェリーナって名前があったっけ……)

「あー……えっと、はじめまして。私、ルーナ・クピスティといいます」

 ルーナのあいさつには誰の反応もなく、何かちがえたかな、と不安になった時、テーブルについていた一人がにこりとほほ笑みかけてきた。

「僕ははじめましてではないけれど……覚えていないかな」

「もちろん覚えています! あの時は砂器を拾っていただいてありがとうございました」

 深く頭をさげると、彼はほほ笑みを深くした。なんだかゆったりと話す口調や彼のかもしだすおだやかなふんが、ささくれだった部屋の空気をじようしていくようだ。……と思ったが、そう都合よくはいかなかった。

「バラッコボリの人間と同じチームだなんて。断固異議を申し立てますわ!」

 イヴェリーナがダンッとテーブルに手をつき席を立った。前例のない、平民の特進クラス入学だ。多少の困難は立ちはだかって当然だろうとは思ったが、本当に最初からぜん多難なようだ。

(あーミートパイミートパイミートパイ……)

 目を閉じて、養護院のみんなとミートパイを食べる光景を思いえがく。外側はサクサクで、噛めばにくじゆうがじゅわっと出るあのミートパイ。すなほうになれば、あれが毎日食べられるのだ。くっきりしたイメージがいて気持ちが落ち着くと、ルーナは彼女に言葉を返した。

「あの、り返しになりますけど、私はバラッコボリ育ちだからって罪なんておかしたことありません。ですから、一緒に優勝を目指して協力していきませんか?」

 あらしが過ぎ去ればいいと思っていた船の上の時とは違う。同じチームとなれば、彼女ともうまくやっていかなければならない。

「けっこうよ。あなたとつるむ気なんてありませんわ。チーム課題なんて私一人で……」

「課題はチーム力を見るものだよ。個人の力で作りあげる成果なんて、すぐにかれるんじゃないかな」

 ディーノが穏やかな口調で口をはさんだ。確か、彼はこうしやく家の子息という話だった。イヴェリーナとはかくにならない名家なのだろう。ぐっと彼女がのどのつまった顔をする。

「では、このチームではやっていけないと教師にうつたえ、チームを変えてもらいますわ」

「今年は特進生で二つチームを作るという話だったけど、あちらはあちらでもう一人同じ街の出身がいると思うよ。確か、ルカ・クピスティって名前が……君のお兄さんだよね?」

「あ、はい! 兄も私にあわせて今年入学したんです」

 イヴェリーナがルーナをにらみつける。なぜここでルーナが睨まれるのだろうと思うが。

(なんか私とこの人のせいで、集まって早々に空気を悪くしちゃって申し訳ない……って、てる!?)

 チームメンバーは四人だ。もう一人の存在を見れば、ふさふさでもじゃもじゃの黒い髪が彼の顔をおおかくしている。そのせいですぐには気づかなかったが、うでを組んでうつむく彼は、ねむってはいないだろうか。横でこんな言い争いをしているのにどうだにしない。

 イヴェリーナがだまり込むと、ディーノがルーナにほほ笑みかけた。

「僕はディーノ・ウルヴィス・メディスツァ。メディスツァ州をとうかつする公爵家の長子だ。よろしく」

「……イヴェリーナ・ピンスーティ。ピンスーティはくしやく家の次女ですわ」

 さすがに目上の人物に名乗られれば、自分も名乗らざるを得なかったようだ。不承不承というようにイヴェリーナが名乗る。

「あ、私はルーナ・クピスティです。これからよろしくお願いします!」

 あらためて名乗ってから、まったく聞いていない様子のふさふさ頭の男をハッと見た。

「あの、すみません! すみません!」

 大声で呼びかけると、ふさふさ頭がわずかに上がる。顔は見えなかったが、目は開けてくれていると信じた。

「今、自己しようかい中なんです。私ルーナっていいます。あなたのお名前を聞いても?」

「名前……めんどい……好きに呼んで……」

 それだけ言葉を発すると、また髪の毛が下に下がった。また眠ってしまったのだろうか。

「ええと……メンドイさん?」

「あなたバカですの!? めんどうだって言われましたのよ!」

 イヴェリーナにりつけられるが、わざわざ説明してくれるあたりは意外と親切だ。

「じゃあ……まあ好きに呼んでって言ったし、ブロッコリーさんで」

 もじゃもじゃの黒髪がブロッコリーをほう彿ふつとさせる。

「あなた本当にバカですの!? その方は、カルミネ・コヴェリ。コヴェリしやく家の長男で、二年生ですわ」

 ディーノがルーナとイヴェリーナのやりとりを見て、くすくすと笑った。彼女が顔を赤らめる。思わず怒鳴り声をあげてしまったことが、良家のしゆくじよらしくないと思ったのかもしれない。

「まあ自己紹介もすんだところで。よろしくお願いします。ディーノせんぱい、イ……」

「ですから、あなたとよろしくする気はありませんの」

「…………じゃあせめて、リーダーを決めませんか? それを決めたら、イヴェリーナ様もその人に従えばよくなるし……」

「ではご自由に決めてくださいな。今日は私、もう帰りますわ」

「ええ!?」

「あなたと一緒の時点でチームの優勝はあきらめましたわ。私、個人成績でけんじや試験資格を得ることにします」

「ぐ……」

 本来ならルーナも同じセリフを返せばいいのかもしれないが、あの約束がある。チーム優勝をしなければ、学園を去るというあの約束だ。

「そんな……あの、カルミネ先輩も起きてください! 今大事な話をしているんです!」

 ルーナはカルミネのかたつかみ前後にさぶったが、黒いもじゃもじゃの髪がわっさわっさと揺れるだけで効果はなかった。ルーナが救いを求める目で、この場で一番まともに見えるディーノを見る。ルーナの視線を受けうるわしき青銀髪の青年はにっこりと笑った。

「いや……僕もね。個人成績のほうでもう賢者試験資格は持っているから、特にチームで成果を出す必要はないんだよね」

「なっ……」

 一番の味方かと思われたディーノは、どうやらこのチームで一番優勝する動機がないらしかった。カルミネはそもそものやる気がなさそうだし、となると、優勝してメリットのある人物はイヴェリーナくらいしかいないようだ。

 すがりつくように彼女の顔を見たが、返ってきた答えはある意味予想どおりだった。

「お話はこれまでのようですわね。あきらめて自分の居場所へ帰ったらどうですの?」

 まるで犯罪者は犯罪地域へ帰れとでも言っているようだ。

(もー、犯罪なんてしたことないって言ってるのに、しつこい!)

「あの!」

 思わず口から低い声が出れば、イヴェリーナが何よと言いたげな視線を向けてくる。

「私のこと気に入らないって言いますけど、せめて私を知ってからそう言ってくれませんか? 何も話す前から一方的にあれこれ言われても困ります! だいたい、バラッコボリのことだってなんにも知らないくせに……」

「知ってますわよ」

 え? とイヴェリーナの顔を見れば、彼女はルーナを睨みつけた。

「私がへんけんであなたをきよぜつしていると思っているのなら大間違いですわ。確かに外の世界も知らないころ、私はお父様に、労働者階級の人間と話すものではないと教わりました。最低限、しつやハウスキーパーと話すだけで十分。ましてや貧困街の連中なんて、同じ人と思うなとも言われました」

 特段おどろきもなかったので、黙って聞いておく。ルーナは貴族の知り合いなんていないからそこでどういう教育がなされているかも知らないが、もしも貴族がまともな人たちばかりなら、こんなにれいな建物が並ぶ国と同じ国であんな貧困街は生まれないと思うのだ。

「ですが、だから言っているわけではありませんわ。私、最初は貧困街の人だって、私と生まれた場所がちがうだけ、めぐまれていないだけで、私と変わらない人間だと思ってましたの。ですから国で一番の貧困街と呼ばれるバラッコボリへ行って、そこで貧困者に会い、快く自分の財をわたしました。そうしたらほかの人にも群がられて……宿しゆくはく代すら切りくずして恵んだのに、そのあとその人たち、私のことを頭の悪いむすめと言ってましたのよ!?」

「それは、なんて言ったらいいか……」

 けんまくで言うイヴェリーナの言葉に、毒気がかれる。

「それだけではありませんわ。私、花売りの娘から高値で花を買いましたの。そしたらさいをすられて……ああ、それからにせものつぼこうにゆうさせられたこともありました。そういう、人を人とも思わないことをする連中……そういうことが十度も続けば、この人たちは自分と同じ良心なんて持っていないんだって、いやでも分かるというものではなくて!?」

「イヴェリーナ様……」

(十回もだまされたんだ……)

 それは確かに、バラッコボリがきらいにもなるかもしれない。

 気づけば、ディーノが話を聞いていられないというように横を向いてこちらを見ないようにしている。一見すれば彼女の話に同情しているように見えるが、ルーナにはなぜか分かった。彼は、笑いをこらえている。

「なんか……十回も信じてくれたのに、期待にこたえられなくてごめんなさい」

「別に……あなたに謝ってほしいわけではありませんわ」

「そうかもしれません。でも、バラッコボリの人がかいな思いをさせたのなら同じ街の住人として謝ります。だけど、全員が悪人ではないし、少なくとも私は違うと証明します。ですからどうか十一回目。私を信じていただけませんか?」

 イヴェリーナはルーナが差し出した右手をながめた後、横を向いた。

「お断りですわ。あの頃は子どもだから信じられましたの。もう大人になったんですもの。真実は見えるようになっていてよ」

 冷たくき捨て、イヴェリーナは今度こそ部屋を出ていった。

 重いとびらが閉まる音を聞きながら、てんじようあおぐ。

(エリートの集まり、かあ……)

 別に期待なんかしていなかった。ルカがいるチームだって特進生の集まりだ。自分だけがチームメイトに恵まれているとは思わなかったし、貴族の中に飛び込むのだからと相応の反発もかくしていた。

(それにしたって、これはあんまりじゃない……?)

 あきらめるには早い。そうは思っても、あらためて自分を奮い立たせる時間は欲しいものだ。

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星の砂を紡ぐ者たち おちこぼれ砂魔法師と青銀の約束 三浦まき/角川ビーンズ文庫 @beans

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