第一章 光魔法師の候補生①
デッキの手すりにかじりつき船の上から海を
「見えた! 見えたよルーくん! ほら、あそこ! あれウルビス島だよね?」
「ああ……本当だな」
新生活の始まりを祝福するかのような、晴れた大空。視界を
ウルビス学園。この国リバルマに存在する唯一の砂魔法師を育成する教育機関だ。ウルビス学園のあるウルビス島には、学園以外にも生徒や教員たちが生活を営むための飲食店や
「あー、わくわくする! 本当に二人とも入学できてよかったー……でもルーくん、どうやってお金を工面したの?」
あの後、現れた男は在学費用を出してくれると言い、その話をルーナは他に選択肢もないために受けたのだが、ルカは突っぱねたのだ。
男が一年目の在学費用を出す条件として挙げたのは、入学後に与えられるチーム課題で優勝しろというもの。在学期間である三年すべてには言及されなかったが、優勝すればさらに二年目も在学費用を出すとまで言ってくれた。
十二
ルーナは男が出した条件に
──ただ、学園を去ってもらうだけです。十二賢者になる素質がないのなら、学園に残ってもらっても
そしてルカは男の話を
それでルーナは、結局ルカがお金をどう
「親方から金を借りた。教科書代と、在学費二ヶ月分くらい」
ルカの働いている
「二ヶ月……? え、ルーくん、二ヶ月しかいられないの!?」
「いやいや、二ヶ月の間にまた工面するから
「大丈夫って……」
(いやでも、ルーくんが言うなら大丈夫なんだよね……)
なんたって、街で無敵と思われている
手すりから
「それにしても、ルーくん、制服すごく似合ってるね! でも、それ本当に学園指定?」
黒シャツに白いズボンと、黒い
「いやー……あんな全身白とか着こなせんの、ごく一部の人間だって。俺には無理」
そう言って顔をしかめるルカだが、別にルカなら十分着こなせるだろう。男のわりに顔は小さめの造りで、手足は長く、
「それに、制服はある程度なら
「そうなの?」
「ああ。それよりルーナこそ。制服、似合ってんな」
ルーナのほうは、カスタマイズ一切なしの白ワンピースに、銀の装飾で飾られた白いコートを羽織っている。
「本当? 変じゃないかな。こんなにきれいな服着るの初めてで
ルーナは肩の下で切りそろえた
「変じゃないよ。ルーナは何着てもかわいいけど、制服はひときわかわいいな」
びっくりしてルカの顔を見た後、ルーナは目を細めた。
「ルーくん……そういうことさらっと言うよね。ルーくんの顔でそういうこと言うから、女の子泣かすことになるんじゃない?」
街ではルカの
「え? いや、ルーナ以外には言ってないけど……ていうかルーナ。泣かすとかそういう話、どこで聞くんだ?」
「市に行くと街の人が教えてくれるよ。誰とデートしてたとか、誰を泣かせてたとか」
「なっ……まさかとは思うけど、それ全部信じてるわけじゃないよな!? 別に俺は!」
ルカが主張を始めようとしたところに、熱い視線を感じて二人は
「あ、あの……ルカ様」
(様!?)
「さきほどはハンカチを拾っていただきありがとうございます。あ、あの、ぜひお礼でもと思いまして……少し、二人でお話しできませんか?」
「あー……いや、今はちょっと」
ルーナより彼女を優先することに
「いいじゃない。お話ししてあげなよ。どうぞ、兄をよろしく」
後半は女子生徒にほほ
ルーナは海を眺めながら、手すりに沿って歩いた。最後にちらっと見えた女子生徒は、頬を紅潮させ夢見
(ハンカチを拾ってくれた人が運命の人、なんて。そんな話、そうそうあるとは……)
ふと、腰のあたりが軽くなって足を止めた。続いて聞こえたのは、ガラスが
「え……」
まさかと思い腰に手をあてると、さっきまであった砂器がなくなっている。ルカが働く鍛冶屋に特注で
あわてて振り向くと、ルーナが落としたらしい砂器を拾う青年の姿があった。
「あ……」
銀色の
「君のだよね」
ルーナは息をのんだ。ルカは全身白の衣服なんて選ばれた人しか着られないと言っていたが、本当にそうだとすれば、まさしく彼がその選ばれた人なのだろう。綺麗な顔立ちと甘い
だが容姿どうこうよりも、ルーナは彼に感じた
「リーくん……」
「それは、君の知り合いか
「え……あ」
青年の言葉に
ルーナは急いで
「すみません。ありがとうございます。砂器をなくしたら学園でやっていけないところでした」
砂器は
「めずらしい形の砂器だね。どこの商会の?」
「商会? えっと……これは、知り合いの鍛冶屋に作ってもらったんです。お金がないからガラスをひねって作ってもらって。
答えながら、ルーナはもう一度青年の顔を
「……なるほど。どうりで」
何かその砂器に引っかかるところでもあったのだろうか。きょとんとするルーナを見下ろし、青年はくすりと笑った。
「見たことがない形をしているから。まあ……四属性を入れる砂器なんて、そうそうお目にかかるものではないけれど」
「そう……なんですか?」
ルーナの砂器は、火、水、風、土、すべての属性を入れる器になっている。それがそんなにもめずらしいものなのだろうか。
「そう。四属性が使えることはとても特別なことなんだよ。学園内ではともかく、少なくとも外では
「そうなんですね……あの、ありがとうございます」
もう一度ほほ笑みを見せた後、彼は近くの
「あの方、三年の……メディスツァ
「あら……失礼。私、ピンスーティ
勝ち気そうな顔立ちに人の
「あ……はじめまして。私、ルーナ・クピスティと言います」
にこやかだった彼女の表情が、ルーナの自己
「クピスティというと……ごめんなさい。どちらの州の方かしら? 聞き覚えがなくて」
「え? あ、聞き覚えなくて当然です。私、別に貴族とかじゃないですし。バラッコボリの出身なんですけど、親がいないので
「バラッコボリってまさか、犯罪地域で有名な……それでその特進生の制服って」
こわばった彼女の顔が、今度は一瞬にして
「あなたが
「え? 補欠?」
「どう考えても特進クラスにふさわしくない、才能のない子が入るって聞きましたわ」
(才能のない子……)
ふと、ラルフの言葉を思い出す。全選定の判定
「あの、私補欠ではないんですけど……そもそも特進生の補欠入学ってあるんですか?」
入学前に高度な砂魔法師の素質ありとされた生徒は、十二
「補欠っていうのは
さっぱり分からないというルーナに、嫌悪感を顔に示したまま少女は続けた。
「全選定のお
「!」
ルーナは言われた言葉とあきれた視線に、「初耳は初耳だし!」と言い返したくなるのをこらえた。確か彼女は、伯爵家と言っていた。伯爵家といえば大貴族だ。
「真っ当に努力してきた私たちからすれば、政治的な理由で運良く入ったあなたは許容できない存在ですわ」
「政治的な理由?」
「本当に何も分かっていないんですのね……言いましたでしょう? 全選定のお触れが正しかったと言いたい連中がいるって。貴族でない中流階級の人間や、改革派の連中とかね。……この国では
最後のぼそっとしたつぶやきは独り言のようだった。
(第二王子って……エリゼオ王子のこと?)
ルーナでも知っている名前だ。フィリップ第一王子は将来の国王として誰もが知る名前だが、同じくらいにバラッコボリにいても第二王子の名前を聞くのは、彼が全選定の発案者だからだ。
(全選定の後命を
ふと、投資だと言い在学費用を出してくれた男のことを思い出す。あれも、ルーナが砂魔法師になれば得する人の一人なのだろうか。
(だけどあれはあくまでお金の話であって、全選定の時に来た人たちは、みんな砂魔法師の素質があるって言ってくれて……)
なによりそのうちの一人が、君なら十二賢者も夢ではないと言ってくれたのだ。
「私が特進クラスに入れたの、誰かの後押しがあったからって言ってます?」
「不当な後押し、ですわ。実力もないのに入ったのでしょう? そのあげくに犯罪者とか……すぐにお帰りになることを
「犯罪者って……あの! 犯罪地域って呼ばれているからって、バラッコボリに住む全員が犯罪者なわけないと思いませんか? 当然、私も罪を
「そんなこと、本人に主張されて信じる人がいまして?」
(いや、この人が言ってるのがすでに貴族の共通
ルーナはなんとか
「何か誤解があるようですけど、とにかく、私は
「よろしくお願いしないでくださる? 私は伯爵家の人間ですの。何度も言いますけれど、スリだの
「ほんと、よりによって特進生とか……学園の良識を疑いますわ!」
そこまで言ってくるりと身を
(あー……ミートパイミートパイミートパイ……とりあえず、去ってもらえてよかったと思おう!)
ルーナがぐっと
「あ、ルーくん」
曲がり角から顔を出したルカが、ルーナを見つけて息をついた。
「ルーナ、あんま一人でうろうろすんなよ。変な
過去に命を狙われてから、ルカは見知らぬ場所でルーナが一人になることを心配する。今の質問はそういう意味だろう。
「うん。
(まあ、変な子には会ったけど……これから
特進生は全学年共通で特進クラス専用の授業を受けるが、一年生だけは夏休みまでの数ヶ月間、
「それよりルーくん、学園生活、楽しみだね!」
「──ああ」
ルーナの笑顔を見て、ルカも表情をゆるめる。海に視線を
(あの学園を卒業して、私たちは
ルーナは昔から変わらない慣れた気配を
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます