第28話(契り※)
先輩とは昼前に、最寄り駅で待ち合わせをした。帽子や眼鏡はしていても、やはり俺の見た目は目立つのか、車内でも奇異の視線を感じたけど、そういう視線にも随分慣れてきた。これが自分の姿なのだから、引け目を感じる必要はない。学校生活や家族や先輩のおかげで、段々とそうやって自分に自信を持てるようになっていた。
駅に着くと、待ち合わせよりも十五分も早いというのに、改札前にはすでに先輩の姿があった。歯ブラシや洗顔料といったお泊りセットや着替の入ったリュックを背中で揺らしながら、右手に持ったお土産のケーキが崩れないように注意して駆け寄った。先輩と会うのこと自体卒業式以来で、なおかつ私服姿の先輩を見るのは1か月半ぶりだった。すでに春物のコートを着た先輩は、春から大学生だというのが嘘のように大人っぽく見えた。
「いつからいたんですか?」
「五分くらい前かな」
「早すぎですよ」
「ランチにピザをテイクアウトしてたんだ。帰ったら一緒に食べよう」
そう言って笑う先輩の顔は、受験から解放されたせいか、いつもよりさらに穏やかに見えた。先輩が俺の左手を取って、手を繋ぎながらマンションまでの道を歩いていく。その間、先輩は俺の学校での様子や何かトラブルは起きていないか、生徒会はどんなサポートをしてくれているかを細かく聞いてきた。これまでメッセージのやり取りでも散々何も問題は起きていないと伝えているのに、よほど心配なようだった。でも、本当に何も起きていないので報告することもなく、日比野先輩と近いポジションに収まっていて、平和なのだから仕方がない。それを聞いて、先輩は少し複雑そうな表情をして、「結果的には、先に公にしておいてよかったのかな」と言っていた。
先輩の家は一般的に言えば上流階級にあたるけど、天野先輩ほどの家柄ではなく、名声や力も及ばない。だから、周りがどういった反応をするかは半分賭けでもあった。そんな話をしている間に、あっという間にマンションに着いてしまった。昼間に来る先輩の部屋は、ブルーのカーテンが空いていて、日差しがレースのカーテンに透けて入り、前来た時よりも明るい印象がした。
「お邪魔します」
「荷物はデスクの上にでも置いて」
前回来た時には参考書や赤本が置いてあったデスクはすっかり綺麗に片づけられ、ノートパソコンと筆記用具が置いてあるだけで、すっきりとしていた。俺は言われた通り、デスクの空いている場所に自分のリュックを置いた。ケーキの入った紙袋を先輩に渡し、冷蔵庫に入れてもらう。
「ピザ、もう食べられるよな?」
「はい」
「おすすめの店なんだ」
先輩は買ってきたピザをローテーブルに置くと、取り皿とカトラリーを準備していた。俺もかぶってきた帽子をハンガーラックにかけると、眼鏡をリュックにしまい、先輩を手伝う。冷蔵庫から飲み物を出すよう指示されて、ミネラルウォーターと恐らく俺用だと思われるコーラを取り出し、目の前のグラススタンドからガラスのコップを二つ持っていった。
先に座っていた先輩の横に腰を掛けると、相変わらず広いソファには、俺たちの両脇に十分な余裕があった。ピザの箱を開けると、空腹を刺激するトマトとチーズのいい香りがして、思わず唾を飲み込んだ。すでに8つにカットされたピザの一つを先輩が取り分けてくれる。それぞれのグラスに飲み物を注ぎ、手に持って少し持ち上げた。
「改めて、合格おめでとうございます」
「ありがとう」
乾杯という言葉はなく、グラスの淵をそっとくっつけた。その行為が照れくさくて、すぐに目の前にある皿に手を伸ばす。零さないように皿を手元まで持ってきて、チーズのたっぷり乗ったピザの先を口に入れると、思ったより伸びたチーズが顎についた。行儀は悪いけど、口に入れたまま「おいひいです」というと、顎に垂れたままだったチーズを、まるで唇にキスでもするように食べられた。
「かわいい」
一瞬で赤くなった顔を揶揄われて、先輩の太ももをパシッと叩く。こういうことをサラッとしてくるから油断できない。俺は「早く食べますよ」と注意したけど、先輩はピザには手を付けず、今度は俺の髪に指を絡ませた。最後の染髪から随分時間が空いたせいで、俺の髪は根元から二センチくらいは完全に地毛になっていて、洗髪で銀色にした部分との境目が目立つようになってきていた。地毛は透き通るような銀髪で、今はまつげもそれに近い色になってる。眉毛は髪よりかは少し濃い灰色をしていた。先輩が俺の髪や瞳を特に好んでいることは十分知っているから、俺はかまうことなくピザをどんどん口に放り込んでいった。
「そんなお腹すいてた?」
「温かいうちに食べないと勿体ないじゃないですか」
「時間はたくさんあるし」と小さな声で続けると、先輩はその言葉に満足したのか、俺から手を放して自分も目の前にあるピザに食いついた。大きめのピザは二枚あったけど、あっという間に胃袋におさまってしまった。後片付けは後回しにして、満腹の体をソファに預けると、窓から入ってくる日差しの温かさもあって、うとうとと眠気が襲ってくる。
「眠い?」
「あんまりよく眠れなくて」
ぼーっとしながら答えると、耳元で「緊張で?」と笑みを含んだ声で囁かれた。確かにその通りだったから、目をうっすらと開けてすぐ横にある先輩の顔に目をやり、こくりと小さく頷く。すぐに頬にキスをされて、その優しい感触が気持ちよくて、口元が綻んだ。
「少し寝るといい」
「でも、せっかく久しぶりに会えたから」
そう言って重くなった体を動かそうとすると、「これから体力を使うから」と続けられ、すぐに脱力した。ああ、今日はそういう日だったと思い出し、それなら先輩の言葉に甘えてしまおうと、素直に再び目を瞑った。カチャカチャという皿やグラスのぶつかる音を聞きながら、俺の意識はぼやけていった。
気づくと体は横になっていて、体には薄地のブランケットがかけられていた。どれくらい寝ていたのだろうと窓辺を見ると、まだ外は少しだけ明るかった。体を起こし、あたりを見回すと先輩が窮屈そうにソファの空いた部分に座って俺のことを見つめていた。
「今、何時ですか?」
「五時半。随分寝てたね」
「…···起こしてくださいよ」
目を擦りながら、寝ぼけ眼で言うと「見てて飽きなかったから」と言われた。恥ずかしげもなくよくそういうことが言えるなと感心しつつ、小さく欠伸をすると、食事をしてすぐ寝たせいで、口の中が気持ち悪かった。
「歯、磨いていいですか?」
「あぁ、この前使ったのが洗面所に置いてあるから」
そう言われて、前回泊ったときに使った歯ブラシを置いていったことを思い出し、わざわざ持ってくる必要なんてなかったことに気づいた。自分のものが先輩の家にすでにあることがなんとなく嬉しかった。体をのろのろと動かし洗面台に向かうと、ミラーキャビネットの中から歯ブラシを出し、同じく前回買って一回しか使ってない歯磨き粉をつける。シャカシャカと歯を磨いているうちに段々と頭も覚醒してきて、最後に顔を水で洗えば気分もすっきりしていた。
綺麗に収納されているフェイスタオルを一枚借りて戻ると、部屋の入り口からは先輩の姿が見えなくなっていた。不思議に思いソファのあたりまで進むと、先輩はすでにベッドサイドに腰掛けて俺の帰りを待っていた。自分の隣をポスポスト叩き、隣に来るように誘われる。
「まだ、明るいですよ」
「明るいと、できない?」
「…···恥ずかしいじゃないですか」
別に拒否したいとかそういうわけではなく、羞恥心から言い訳をすると、先輩はレースカーテンだけだった窓にブルーの遮光カーテンをサーッと閉めてしまった。カーテンと床の隙間から僅かに光がもれているだけで、辺りが急に暗くなる。先輩がベッドサイドの間接照明をつけると、ベッドのある空間だけがぼんやりとオレンジ色に浮かび上がり、淫靡な雰囲気を醸し出していた。
「陽生」
名前を呼ばれて、その声色の優しさに抗えず、隣に腰掛けるとすぐに後頭部に手を回され、唇を奪われた。唇の形がぴったりと合わさるように重ねられ、舌先で閉じた狭間を突かれる。促されるままにうっすらと開くと、少し強引に舌が入り込んできて、唾液ごと舌を絡み取られた。ぬるぬるとした感触の心地よさと強く吸われる痺れに断続的に襲われると、その動きについていくのに必死で、頭の中がぼんやりしてくる。以前よりは息継ぎもうまくできるようになったとはいえ、はふはふと呼吸は徐々に荒くなっていった。上顎を攻められると、くすぐったいようなソワソワと感じが広がって、鼻にかかった甘えたような声が漏れる。電流に例えるには弱すぎる快感に少しずつ侵食されていき、体から力が抜け、無意識に先輩の首に腕を回していた。
先輩の手が頭からゆっくりと首、背中、腰と下がっていき、太ももの内側にかかると、体がピクリとそれに反応してしまう。焦らされるように内股を摩られ、身をくねらせると、今度は服の上から膨らみ始めた部分を触れられた。
「あっ…···まっ…···」
慌てて先輩の胸を押し返し、体を離すと、唾液が糸になって二人の間に垂れていった。先輩の目は欲に濡れていて、強い眼差しがテイカーの本能をちらつかせる。先輩は無言で俺から着ていたセーターと長袖のアンダーウェアーをはぎ取ると、自分もシャツを脱いでベッドの下に乱暴に落とし、俺の首筋に吸い付くようなキスをした。ピリッとした痛みが走り、痕をつけられたことに気が付く。
「止められないな」
そう言うと、先輩は余裕のなさそうな顔で苦笑した。ただ、今回はただのセックスではない。正式なパートナーになるためには、相応の手順がある。先輩は「はぁ」と興奮を落ち着かせるように大きく息を吐くと、片手で顔を覆い、その後濡れていた唇を拭った。
「パートナーの契りには条件があるんだけど…」
「…···知ってます」
「そうか。じゃぁ一つ目はお願いするけど、その後は俺に任せてくれればいいから」
「はい…···」
「ちょっと、この前より余裕はないだろうけど、辛かったりしたら言って」
先輩はこの前も自分に任せればいいと言っていたなと思い出し、そんなことを言われなくても、経験の浅い自分からできること等何もないのだからとその言葉に頷いた。先輩はベッドに乗り上げるとヘッドボードに枕を置き、そこに腰掛け、ベルトを抜くと履いているズボンの前を寛げた。それを追って、先輩の足の間に身を置き、下着の上から先輩の陰茎に触れる。頭上から、はぁ、と息を吐く音がする。それはすでに下着を押し上げるほどには大きくなっていて、下着のゴムに指をかけ少しずらすと、ブルンと姿を露わにした。その大きさを目の当たりにし、これからこれが自分の中に納まるのかと思うと、頭の中がくらくらした。
先端からは先走りが滲んでいて、まるで蜜に誘われる蝶のように、ふらふらと吸い寄せられ、そこに口付けた。どんどん溢れてくるカウパーを必死になって舐めながら、先端部分を口内に入れ、歯が当たらないように舌で括れたカリやその周りを刺激したり、少し奥まで含んで陰茎に舌を這わせたりした。右手の指で輪を作り、口を動かしながらオズオズとそこを上下に扱くと、先輩が頭を撫でてくれて、先輩のものを咥えながら上目遣いで見ると、口をうっすらと開けた先輩が吐息交じりに「いいよ」と言ってくれた。正直そんなに上手くもないだろうに、そう言ってもらえたことが嬉しくて、段々と自分も興奮して、夢中になって先輩のものを咥えた。ピチャピチャクチクチという音が自分の口や手の中から聞こえ、先端が頬や上顎を擦るたびに自分も快感を拾い始め、勝手に喉が鳴る。
「はぁ…···あっ…···イくから、いい?」
「ふぅ…···ん、うん」
陰茎がビクビクと跳ね、先輩が限界を訴えるのを聞いて、返事ができず首を縦に振ることで答えた。できるだけそれを喉の奥まで咥え、慣れない刺激に多少餌付きながら懸命に手も使って促すと、先輩の「ごめん」と言う声とともに頭を抑え込まれ、喉奥をぐっと突き上げられた。
「んっぁっ…···くっ!」
「んぐ、うっ」
「あぁ、はぁ…···陽生、飲んで…···」
喉の奥に叩きつけられるように出された粘度の高い白濁を、言われた通りに嚥下する。青臭い匂いが鼻について残るが、出されたものを全て飲み込んだ。喉に絡まるそれに咽ると同時に、先輩のものがずるりと口内から出ていった。
「えっげほっ、げほっ…···。俺、ちゃんと飲めました?これで大丈夫ですか?」
「あぁ、大丈夫だよ。ありがとう」
まだ精液が喉の途中に残っている感じに顔を顰めながら、先輩に尋ねると、頬を撫でられ汚れたままの唇にキスをされた。眉間にしわを寄せ、「まずいな」と先輩が表情を歪める。これで、正式なパートナーになるための準備が整ったことになる。テイカーの精液を口腔摂取した上で性交を行うことが、パートナーの契りを成立させる一つ目の条件になるからだ。つまりテイカーはギフトに精飲させることで体内にマーキングし、その上で子宮に直接性を注ぐことになる。初めて知った時にはその行為の生々しさに、そんなことできるものかと思ったけど、実際にその時になればできるものだなと熱で鈍くなった頭で考えていた。
「これ、飲んで」
そう言って、ベッドサイドからミネラルウォーターを渡される。ゴクゴクと喉に流し込むと、ようやく口内の苦みと違和感が消えた。ホッと息をつくと今度は先輩に腕を引かれ、自分がベッドの上に仰向けに寝た状態にされる。
「舐めてて興奮した?」
反応している陰部をやんわりと握りこまれて、恥ずかしさに視線を逸らした。勢いよくズボンと下着を取り払われると、勃ちあがったものが目の前に露わになる。
「こっちも立ってる」
乳首をチュッと吸われ、片方は指の腹で乳輪をなぞりつつ、先を押しつぶされ、舌と唇で愛撫された体がビクビクと跳ねる。前回よりも確実に快感を拾うようになったそこは、ピリピリチクチクとした弱い電流を腰に流しているようで、気持ちよさが体にどんどんと蓄積していった。
「あっ、あん…···やっ…···あ、あ、あぁ…···そこ、あぅ」
「ピンとしてる」
「んう…···あ、あぁっ!やだ···…擦らないで」
「こうするのがいい?」
「あん!ダメ…···やっ…はぁ、ああん、あっ···…んふぅ」
指で乳首を擦られると、気持ちがよくてたまらず頭をふる。時折わざと歯が先端を掠めるのさえ、刺激の一つとして受け取ってしまう。胸を愛撫されるたびに、そこがぷっくりと敏感になっていくのが自分でもわかった。触られていない下肢に熱が集中して、無意識に腰が揺れるのを見て、先輩が空いている手で陰茎を緩く扱く。解放されない欲が苦しくなってきて、「もう」と限界を訴えようとすると、そのまま手は陰茎から会陰部を撫で、アナルに触れた。俺はすっかり涙目になっていて、いまだ胸を弄り続ける先輩に目をやると、ばちりと視線が合った。口の端を上げて笑ったその顔は今までに見たことがないくらい嫌らしく、欲に濡れた瞳に自分の姿が映っているのがはっきりとわかった。理性のタガが外れる直前のような、危うさと欲望に満ちた表情と体が目の前から離れていく。
「ああっ!!」
直後に与えられた刺激に俺は一際大きな嬌声を上げた。自分の胎内から流れ出た粘液を潤滑剤にして、先輩の指がぐっと入り込み、まるで外から見えているかのようにピンポイントで前立腺を押し上げて擦る。その度に体は跳ね、口からは勝手に声が漏れた。
「あ、そこ、ダメ…···触るの、やっ…···やん、あっあ、あ、あ」
「嘘つき」
「はぁ、あぁ…あん、指…···押すの、やっ、やら」
「そう?」
「んあ!あ、あっ…···ん、んぅ」
ギフトとして受け入れる体勢に入った体が、勝手に花開いていく。大して慣らしていないアナルは簡単に指を三本も飲み込んでいるし、前立腺を揉みこまれると、肉壁は溶けて内部からトロトロと涎を垂らした。
「ふっ、うぁっ…···あっ」
「すごい濡れてる」
「あ、もう…···も、それ…···」
さっき飲んだ精子のせいなのか、子宮があるよりも上の腹の部分までじんわりと熱くて、切ない気持ちになってくる。指の届く範囲だけでは物足りなくなった体が、もっと奥への刺激、指より太いものを求めて疼いた。腕を伸ばし、俺のアナルを弄る先輩の手に自分の手を重ねてぎゅっと掴むと、意図を察した先輩がずるりとそこから指を引き抜く。
「入れるよ?」
「うぁっ、あぁ!あっあっ、あぅ」
「んっ、柔かっ…···」
「はぁ、奥…···あつっ、熱ぃ…···はぁ、あぁ」
いつの間にか下衣を脱ぎ捨てた先輩のものがグッと中に押し入ってくる。入り口が僅かばかりの抵抗でそれを飲み込むと、待っていましたと言わんばかりに中の肉壁がキュンキュンと入ってきたばかりの肉棒を締め付け、絡み付いた。ズッと先輩が腰を押し進める度に、擦れた部分から熱が生まれて、頭が沸騰しそうだった。先輩の下生えが尻臀にくっ付き、陰茎が全ておさまったことを知る。俺は入れられただけで半ば放心状態になって、荒い息を吐きながらシーツを握りしめ頬をベッドに擦り付けていた。
「陽生、陽生」
「はぁ、はあ、ぁっ」
「こっち向いて」
「んぇ?な、に?あ、ぁあ」
体の熱にうかされながら、言われた通りに正面を向くと、うっとりと自分を見下ろす先輩と目が合った。下腹部の毛をサワサワと擽った後、唇を指でなぞり、涙の滲む目元を撫でたかと思うと、両手で髪の毛をくしゃくしゃと触られた。
「ほんと、綺麗な色。肌も唇も瞳も毛も、全部…···奪いたくなる」
「先輩?」
「違うだろ」
「…···なる、み?」
促されれるまま、躊躇いがちに名前を呼ぶ。先輩は胎内に埋め込んだままのものを動かすことなく、両手を繋ぐと前かがみになり、俺の耳元で「止められそうもない」と低い声で呻くように言うと、中のものをズッと引き、突然最奥を思い切り突き始めた。
「ああぁ!!あっ…···や、激し、うあ、ああ、あっ」
「はぁ、やばっ…···」
「あ、あ、そこ、ダメ…···ゃっ、イく、イく、あん…···んあぁ」
突然の衝撃に限界を訴えると、前立腺だけでなく、精巣の裏側も一緒に刺激され、中をグチグチと攻められた。両手にギュッと力が入ると、抑え込むように握り返され、前を直接触られることなく、二人の間で揺れていた俺のものから勢いもなく白濁が吐き出される。それでも先輩の動きはとどまることなく、イってビクビクと跳ねる体を無視して、奥を押し上げる。
「あ、イって、イッてる…···奥、やめ、ゃっ、やぁ」
「っく、下りてきてる。子宮、わかる?」
「わからなっ…···あ、あぁ、それっ、それダメ」
「あ、俺の…···」
「当たってる、奥…···はぁ、あ、気持ちいっ…···あっ、ほしっ、ほしい」
ギフトの本能か、下りてきた子宮がそこに来るべきものを欲して、中がきゅうきゅうと収縮する。それが余計に自分の快楽も高めて、何をしても気持ちがよくなっていた。ただ、一番奥に目の前の人の精子を出して欲しくて、無意識に強請るような言葉が漏れる。
「中に…···お願い、ぁ、ねが…···はぁ、ああっ、あっ」
「あぁ、イくっ」
「あぁ!はぁ、あ、あっ」
理性の欠片もなくなったように、腰の動きが容赦のないものに変わり、グッと奥を突き上げたと同時に、中のものがビクビクと痙攣し、熱いものが胎内に広がったのを感じた。その瞬間、ガリっという音とともに左の耳の耳輪を耳たぶと一緒に思い切り噛まれる。酷い痛みと、いまだ治まらない中の快楽に翻弄されて、頭は何も考えられなくなっているのに、内側から溢れ出る恍惚感と充足感でボロボロと涙が流れた。しばらくそのままの体勢で息を整えていた先輩が、唇で涙を吸い取ると、ゆっくりと陰茎を中から抜き出す。それさえも中を擦る刺激になりながらも、俺の腹の上には白い液溜まりができていて、自身はくったりと力を失っていた。白濁をティッシュで拭き取ると、先輩は心配そうに俺の名前を呼んだ。
「陽生…···」
「ん、耳…···痛っ」
「ごめん、そんなところにするつもりじゃなかったんだけど」
先輩は一瞬天井を仰ぎ手で目元を覆うと、すぐに申し訳なさそうに項垂れた。パートナーの契りの最後の行為である、外的なマーキングであるバイトは、所謂『花を咲かせる』ために、子宮への射精の直後に、テイカーがギフトの体のどこかに噛みつくことを意味する。それは首筋だったり、背中だったり、腕だったり、ギフトの体であればどこでも問題がなく、噛まれた場所に正式なパートナーとなった証である赤い花のような形の痣が残るのだけど、耳というのはあまり聞いたことがなかった。
「これ、どこに痣が残るかな」
そう言いながら、恐らくかなりくっきりと残っているであろう耳の噛み痕に先輩が触れる。それだけでズキとした痛みを感じ、つい「いたっ」という声が出てしまった。
「血が出てる。すぐに消毒しよう」
珍しく慌てた様子の先輩が、下着も身に付けずにバタバタと洗面所から救急セットを持ってくるのを、上半身だけ起こしてベッドの上からぼぉっと眺める。てきぱきとした動作で耳に消毒液を吹き掛けると、「絆創膏は貼れないな」と独りごち、再び溜め息を漏らしていた。その姿が面白くて、可愛いくて、愛しくて、胸がいっぱいになった。
「ふふ」
笑みとともに、目にじわじわと涙が貯まっていく。一言では形容しがたい感情が、体の奥から湧き出てきて、先輩に思いきり抱きついた。背中に腕を回し胸元に頬を寄せると、ぎゅっと抱き返され、そのまま一緒にベッドに横になった。背中を擦られ、頭を抱き込まれると、守られているようで安心できる。そっと体を離すと、優しい声で「これで、正式なパートナーになれた」と言われた。その言葉を裏付けるように、これまで感じたことがない幸福感が体を満たしていく。髪に鼻を埋めるようにしてこめかみにキスをする先輩に返すように、左の首筋にある黒子に唇を寄せた。
そのまま体を休めていると、ふと先輩が体を起こし、「ピル、飲まなくて平気?」と聞いてきた。中に出しているので、確かに場合によっては飲まなければならないものだけど、俺は主治医からまだ子宮が妊娠できる状態にはなっていないと言われているから飲む必要はない。それをそのまま告げるのは恥ずかしくて、一言「まだ、大丈夫みたいです」とだけ答えた。それだけで先輩は察したようで、「これからは俺も一緒に通院にいくから」と言われた。通院にパートナーが同伴するのは普通のことだけど、つい本当にパートナーになったんだなと意識してしまう。
「もう少ししたら、一緒にお風呂に入って、夕飯を食べよう」
「俺、ガッツリしたものが食べたいです」
「そうだな、豚カツなんてどうだ?」
「いいんですか?」
「じゃぁ、届けてもらえるよう注文しておこう」
先輩はベッドの下に脱ぎ捨てられていた下着を身につけ、スマホを取りに行くと、その場でさっさと予約を済ませてしまった。そのままバスルームに向かったのか、すぐに浴槽にお湯をためるような音が聞こえ始める。噛まれた耳に触れると、指先に少しだけ血がついた。これは髪を洗うときにしみるかなと思いながら、その痛みさえ今は嬉しくて、先輩がベッドに戻ってくるのを待った。
時刻はまだ八時。冷蔵庫にはお祝いのケーキが食べられることなく入ったまま。体は少しの倦怠感を訴えていたけど、二人でいられる時間はまだたくさん残っていたし、これから二人の時間がどんどん増えていくかと思うと、自然と笑みが漏れた。
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