第24話(初めて※)
視界が反転して、白い高い天井が見えた。自分の使っているものより大きいベッドを背中に感じて、咄嗟に手をついて上半身を起こす。すぐにベッドが軋んで先輩が上に乗ってきた。戸惑いながら先輩を見ると、肩をトンと押されて、簡単に体はベッドに再び沈んだ。目を細めた先輩が、俺のシャツに手をかけ、ボタンを一つ一つ外していく。俺はどうしたらいいのかわからないのと、恥ずかしさとで、何も言えずに顔を横に背け、シーツを握りしめていた。これから踏み入れる未知の世界に心臓は壊れそうなくらい早鐘を打ち、体には強く力が入る。
ギュッと目をつぶっていると、全てのボタンを外し終えた先輩がシーツを掴んだいた俺の手を取って、指を絡ませたまま甲にキスを落とした。水分量の増した目をそっと開けて見ると、すっかり雄の顔をした先輩と目が合う。焦げ茶色の髪とやや垂れた瞳、普段は前髪で隠れているけど、眉毛は思いの外キリッとしていて男らしかった。
「俺にまかさていればいいから」
再度深いキスを仕掛けられ、食いつかれるように開いた口から舌が侵入し、上顎を撫でたり、唾液ごと舌を絡めとられたり、息をする暇もなかった。時折「はぁ」と息を吐いては、素早く酸素を取り込むのが精一杯で、ぴちゃぴちゃと響く水音に頭がくらくらしてくる。握っていた手は離され、首や耳をサワサワと撫でる。耳殻の凹凸を確かめるように指で挟まれたり、耳たぶを柔らかく揉まれる度に体がピクピクと跳ねた。キスで思考を奪われて、何が起きているのか段々わからなくなってくる。
そのまま手は下へと滑っていき、大きな掌で胸に触られた。女性のような膨らみのない薄い胸元が浅い呼吸のせいで上下している中、乳首に指先が僅かに触れたのを感じて、意識が一瞬浮上した。でも、止まることのない舌の動きに翻弄されてすぐに頭がボーッとしてくる。ギフトの体は元々相手を受け入れるようにできてはいるけど、男性でもあるから、いきなり乳首で快感を拾ったりはしない。それをわかっているように、先輩の指は乳首の縁を円を書くようになぞっては、時折先端に優しく触れるという動きを繰り返す。もう片方の手は脇腹から腰に添えられ、性感を高めるよう撫でていた。くすぐったさに身じろぎをすると、不意に唇が離れ、今度はぬるりとした感触が耳を包み、ピチャリと音を立てて嫐られる。
「ひっ、ん」
耳を甘噛みされたことはあったけど、初めての刺激に引きつったような声が漏れた。食べられてしまうのではないかと思うように、食んでは舐められ、息をふっと吹きかけられる。その度に口からは短い吐息が零れた。徐々に胸のくすぐったさもむず痒さに変わっていき、もぞりと身じろぎをすると、先輩は耳から唇を離し俺の目を覗き込む。
「何か感じる?」
「なんか、変な感じで」
「うん、いいね」
腰にあった手が空いていた他方の乳輪に移り、触られていた方の乳首には唇がチュっと吸い付いて、舌全体で柔らかく舐め押しつぶされた。
「んぁっ」
与えられた刺激に反応して、自分でも聞いたことのないような声が漏れる。むず痒さの中に、ピリピリとした快感が混ざって、腰が勝手にはねた。それに気を良くしたのか、先輩の舌が遠慮なく乳首を弄び始め、先端を押しつぶすようにされると声を止めることができず、恥ずかしさに首を横に振った。パサパサとシーツと髪の擦れる音がする。
「あっ、ぁっ、んー」
「気持ちいい?」
「わから······ない」
それが気持ちいいということなのか本当によくわからず、横を向いたまま答える。すると、胸から離れた手がカチャカチャと素早くベルトを外し、制服のズボンを太ももまでずり降ろされた。
「うわっ、ちょっ!」
「濡れてる…···。ほら、ちゃんと勃ってきてる」
恐る恐る下を見ると、確かに自分のものが反応して膨らみ、下着をうっすら濡らしているのが見えた。恥ずかしくなって、とっさに両腕で顔を隠す。顔が燃えるように熱かった。自分ばかり痴態を見られているのが恥ずかしくて、唇を噛む。すると、下着がずらされ、性器が外気に晒されて、俺は驚きと焦りで声を漏らした。
「んぁっ!」
「ぇっ」
先輩の動きがピタリと止まる。心当たりは十分にあった。
「そうか、こっちは染める必要ないもんな」
先輩が笑っている気配を感じ、銀色の下生えを指でサワサワと触れられる。そこは唯一染めていない部分だった。そのまま掌で露になった性器をやんわり握りこまれ、急な刺激に声を上げて視線を移すと、あり得ないことに自分のそれが先輩の口の中に引き込まれる瞬間を目にしてしまった。
「あぁ!んっん、うぁ」
今まで感じたことのない快感だった。温かな口内が自身を包み、先端からにじみ出ていたものを舐められる。亀頭部分をちろちろと舐められ、時折唇がカリの部分に引っ掛かりながら上下する。俺は初めての刺激に口を閉じることもできずに、吐息なのか悲鳴なのかわからない声をあげていた。
「あ、あ······んあ、やめ······」
拒絶の言葉を口にしても、腰はビクビクと跳ねて自分のいうことを一切聞いてくれなかった。下生えが気に入ったのか、片手で触りながら、もう片方の手が陰茎を握り、唾液で濡れたそこをゆるゆると扱き始める。
「うぁ、あ、あっ······先輩······もう、も、いっ······」
童貞にはあまりにも強烈な刺激に、すぐに限界を訴えると、先輩はあっさりと手を止め、そこから口を離してくれた。すんでのところで止められたそこはふるりと震え、安堵と同時に射精できなかった物足りなさが下半身に鈍く留まる。はぁはぁと荒い息を吐き出している間に、先輩はいつのまにか脱いだシャツをベッドの下に落としていた。俺の腕に引っ掛かっていたシャツも引き抜かれ、パサリと音がして床に落とされる。細身に見えていた先輩の胸や腕はほどよく筋肉がついていて、締まったウェストには腹筋がうっすらと浮いて見えた。
「せっかくだから、初めてはこっちでね」
「ふぇっ?!あっ!」
そう言われて、先輩の指が俺の後孔に触れる。そこはすでに自分でもわかるほどヌルヌルと滑りを帯びていて、否が応でも自分がギフトであることを自覚させられた。それほど性欲の強くない俺は自慰もほとんど経験がなく、そのときにも後ろが濡れるなんてことはなかった。子宮が成長するにつれアナルが性器の役目も果たすようになるらしいから、それだけ胎内も変化してきているということだろうけど、他人からの刺激でそれを暴かれると複雑な気持ちになった。快感で濡れることへの羞恥心や、受け入れる性であることを突きつけられたような悔しさ、それなのに先の刺激を欲する浅ましい自分への惨めさが綯い交ぜになって、無意識に涙が込み上げてきて、頬を濡らした。その気持ちをどこまで組んでかはわからないけど、先輩がキスで雫を吸いとる。
「大丈夫。何も変わらない」
「うっ」
先輩の首に腕を回して抱きつき、胸元に涙の残る頬をすり付けた。
「俺のギフト。まだ、正式なパートナーにはなれないけど、ちゃんと愛させて」
「······んっ」
唇にそっとキスを落とされて、背中に手を添えられてベッドに倒される。俺のはいていたズボンも靴下もすべて剥ぎとると、先輩は自分のズボンのポケットから四角い小さな袋を取り出し、ピッと素早くそれを開けた。それがスキンだったと気付いたのは、開かされた足の間で俺の頬に張り付いた髪を払った先輩の陰茎に、いつのまにか装着されていたからだ。そこはしっかり反応して、興奮していることを表していた。他人の勃起した状態の性器を直接見るのは初めてだったけど、これから始まる行為のことよりも、自分が性の対象として機能していることに、場の空気を壊すような本音が漏れた。
「俺でも、ちゃんと勃つんですね」
「今さらそんなこと」
「いや、でも······」
「まだ引きずってる」
「だって······あっ」
黒髪だしという言葉は、先輩が指で濡れたそこの回りをくるくると撫でたせいで、言うことができなかった。少し不機嫌そうな顔で、指に粘液をまとわりつかせるようにまだすぼまった襞を確かめるように触れられると、ゾワゾワした感覚が腰からせり上がってきた。
「痛かったら言って」
すでに性行のための器官になりつつあるそこは、然したる抵抗もなく指一本を受け入れた。痛みはなく、指がそこを広げるように動く度にヌチッという音が聞こえる。先輩の視線がそこに注がれていると思うと、それも恥ずかしくて手で顔を隠すものの、自然と呼吸が荒くなっていく。
「あぁっ!!な、に······んふ、あっあっ」
一際甲高い声が勝手に口から飛び出て、慌てて手で口を押さえる。くるりと腹の裏側を擦られた途端、今まで感じたことがない衝撃が体を駆け抜けた。ぷくりとした一部を擦られ、トントンとノックされる度に、手で抑えた口からくぐもった声が漏れる。
「ん、ん······んん、ぁ······」
「もう一本増やすよ」
「んんー!!んぁ、ん······ふぅ、んん」
「ほら、手、邪魔」
口を抑えていた手を捕まれ、中に埋められた指でそこを擦られるともうだめだった。
「あっ、やだ······これ、なに、あぁ···あぅ」
「前立腺、変なことじゃないから声出して」
「あ、あはぁ···はぁ、あぁ、やぅ······やだ、ぁ」
「あぁ、すごい濡れてきてる」
二本の指でそこん挟むように触られたり、柔らかく揉むようにされると、気持ちがよくて仕方がなかった。これが快感だと体が即座に理解して、指の動き一つ一つに反応してしまう。それと同時に胎内が濡れて、下肢をどろどろに汚していくのを感じた。先輩の声も熱を帯びていて、三本目の指が早々に挿入される。性交時のギフトの体は、通常の女性よりもスムーズに相手を受け入れる態勢に入るから、後孔はすでに十分柔らかくほぐれていた。子宮があること以外、体の構造に他の男性と大きな違いはないけど、自身からは先走りの液がタラタラと漏れているのに、後孔からも体液がトロトロと溢れていく。中がビクビクと痙攣して、何か物足りないような切なさが体を苦しめた。
「先輩······なか、なんか······あっ、へん、体が変に······なってる、ん」
「大丈夫、そのまま力抜いて」
「んっ」
指がヌルリと引き抜かれ、足を大きく開かされる。羞恥心よりも先に、無意識に中に欲しいと思ってしまうのは、ギフトの本能だ。何もなくなったそこが、目の前のテイカーの体を欲している。前屈みになった先輩が、俺の腕をとって自分の背中に回させる。自然と抱きつくような形になって、目の前にあった肌に唇を寄せた。
「爪立てていいから」
言われてすぐ、指より太いものが後孔に宛がわれる。身構える隙もなく、指とは比べ物にならない質量の先端がグッと中に押し込まれた。
「あぁ!いたっ···ん、いぅ」
「さすがに最初はキツっ······」
「ぅうっ······ふぅ」
「力抜いて、そう······」
入れられたことよりも、中に異物が入ってきたことへの衝撃と痛みが強かった。受け入れる性といっても、初めての体は肉を開かれることを知らない。入り口は柔らかくほぐれていても、胎内のどこもかしこもそうというわけではない。言葉は悪いけど、刺激に反応しやすくて、すごく濡れやすい処女みたいなものだ。もちろんそんな体だから快感も得やすいけど、最初から経験豊富な人間のように感じられるわけではない。与えられる刺激が快楽だと心身が認識するには、やはり少しは時間がいる。
亀頭部分をいれたまま動かずに、先輩がゆっくり俺の頭を撫で、少し苦しそうに息を吐き出す。それでも体の力を抜けずにいると、陰茎を緩く扱かれ、息を詰める口にキスをされた。滑り込んでくる舌の動きと直接的な快感で、体から自然と力が抜け、中の痛みも少しずつ引いていく。
「少し、動くから」
「あ、んぁ······あぁ、あ、あ、そこ······だめ、やだっ···ゃん、んっん」
先端がさっき快楽を拾っていた前立腺を掠めると、腰からぞくぞくと快感の波が波紋のように広がっていく。明らかに声色が変わったことに気づいたのか、先輩のものがゆっくりと中を拡げて進んでくるけど、痛みは微かだった。媚肉を擦り、全てが胎内におさまる頃には、体は完全に刺激を快楽に変換していた。
「ふぅん······ぅぁ、あん」
「もう、平気?」
抱きついたままの先輩が耳元で囁く。返事をする代わりに、髪に隠れてちらちらと左耳に光るピアスごと耳朶を甘噛みすると、腕を外されベッドに体を寝かせられた。頭の下に枕をおかれ、先輩の匂いが微かにして、脳が溶けるような感じがする。若干滲む視界で先輩に視線を送ると、眉間に少し皺を寄せながら、熱のこもった目で俺を見る姿が映った。この人もテイカーの前に男で、自分はその欲望を受け入れているんだと思ったら、酷く興奮して、中がキュッと締め付けた。それを合図にするように、先輩がゆるゆると腰を動かし始める。前立腺を押しあげながら、肉壁を擦られると、言いようのない快感が体を支配していった。
「あぁ、はぁ······は、は、あぁ、ああ、っあ···」
「すごっ······中、ドロドロ」
「やめ······はずかしっ」
「可愛いな」
「はん、はぁ······んぁ······ああ、あぁ、はぁ、きもちぁ······ぅあっ、あぁ」
「陽生······ふっ、気持ちいいんだ」
もはや体からは力が抜け、腕はシーツに投げ出され、かろうじて指先がシーツを引っ掻く程度だった。先輩の言葉にこくこくと頷くと、一層深くを穿たれ、先端が胎内のある部分にぶつかった。本来男性にはないはずのその器官を突かれる。その瞬間、一際大きな嬌声が漏れた。
「ぇあ、ああ!」
「これが、陽生の子宮かな」
「あ、やめっ······んぁ、ああ、あっ、あっ、ぅあ!」
そこをトントンと突かれると、腰から頭にかけて電流が流れたような快感が襲った。飛びそうな快感は恐怖にも似ているのに、中はきゅんきゅんと喜んで、中のものを締め付ける。自分ではもう止められなかった。何かを求めているのに何かわからない。何かが足りないのに何かわからない。頭の中がぐちゃぐちゃになりながら、先輩に腕を伸ばすと、強く抱き締められた。先輩が動く度に互いの腹の間にある陰茎が解放を求めてビクビクと震えるけど、さすがに中だけではイけず、決定的な刺激が欲しくて、気持ちよさと苦しさが積み重なっていく。
「本番は、また今度······な?」
「んぁ?あ、ぁあ、うん、うん」
言われていることの意味がよくわからないまま、揺さぶられながらガクガクと頷くと、先輩の手が俺の陰茎を擦る。確実な刺激を受けて、頭の中が真っ白になった。
「あ、あぁ、イく······イくっ······ああ!あっ、あぁ、んぅ」
「ん、くっ······イく」
白い体液が腹の間に放たれた後、何度か中を上下した先輩のものもビクビクと震えたのがわかった。薄い膜越しに精が吐き出されるのを感じていると、急激な脱力感と心地よさに襲われ、意識がふわっと遠退いていく。あぁ、でも、これだけは伝えないと。
「······好き。す······き······」
最後に心のままに頭に浮かんだ言葉を呟いた。ぐったりと力の抜けた体を先輩が抱き止める。
「俺も好きだよ」
優しい先輩の声は、現実か夢なのかわからないまま、俺は完全に意識を飛ばしていた。
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