僕も幼馴染も恋人と長続きしない話

月之影心

僕も幼馴染も恋人と長続きしない話

 僕の部屋の僕の前に座っているのは、隣の家に住んでいる幼少から会わない日が無いくらい毎日のように顔を合わせている幼馴染の知佳ちか

 パッチリした目の可愛らしい子で学校でも一番とは言わないが結構人気のある子なのだが、今は何とも面白く無さそうな、不服そうな顔をしている。


「何かあったの?」


 日曜日の貴重な読書タイムに突然部屋にやって来て、目の前に座り込んでそんな顔で居られれば声も掛けようというもの。


「理不尽だと思わない?」

「な、何が?」

「思わないの?」


 開口一発目がそれで何を言おうとしているのか分かったら僕は超能力者だ。


芳樹よしき、アンタこの前、テニス部の1年生に告白されたよね?」

「何で知ってる?」

「女子の情報網甘く見ない方がいいわよ。」


 個人情報は保護されないのか。


「それはともかく、芳樹が1年生に告白されたって情報が回ったら、私、クラス中の友達に慰められちゃったわよ。」

「いい友達居るんだな。」

「いい友達には違いないけど違うっ!」


 知佳は僕の顔を睨んで全否定。


「何が違うんだ?」

「何で私が慰められなきゃいけないのよ!?」

「あぁ~そういう……」


 僕と知佳は幼馴染で、登下校はいつも一緒、母親がめんどくさがった時は知佳が弁当作ってくれるし、休日もこうして突然やってきて一緒に過ごす事が多いし、何なら家が隣りなのに『帰るのが面倒』とうちに泊まっていく事もある間柄ではあるのだが、お互いに恋愛感情は一切無く、『一番仲の良い友達』という位置付けに過ぎない。

 だが学校では、あまりの仲の良さに『本当は付き合っているだろ』とか『もう完全に夫婦じゃん』とか言われたりしていて、お互いが他の異性と仲良くしていたりすると心配して慰められる事もある。

 尤も、『ザマァ』と言わんばかりに陰でほくそ笑む輩も居ないわけではないが。


「これ、何とかならないものかな?」

「何とかって?」

「私と芳樹が付き合ってるって思われちゃう事よ。」


 僕は既に手に持っているだけになった本をテーブルの上に伏せて置くと、腕を組んで部屋をぐるりと見回した。


「でも、その告白受けたから言われる事も無くなるんじゃない?」

「それもそうk……って、え?」

「ん?」

「告白受けたの?」

「うん。無理に受ける事も無いかとも思ったけど、それより断る理由もそれ以上に無かったから。」

「彼女3人目だっけ?」

「そう……なのかな?」

「取り敢えずおめでとう。」

「ありがとう。」


 知佳はふぅっと息を吐くと、さっきよりは少し不満顔が緩んでいた。


「まぁこれでお互い彼氏彼女が居るから確かに言われる事も無いか。」

「あぁ、例の彼氏とは仲良く続いてるんだ。」

「ん~……まだ4ヶ月ちょっとだけど『仲良く』ってのはどうかな?。」

「何かあるの?」

「う~ん……何かよく分からないけど急に機嫌悪くなったりするんだよねぇ。」

「ふ~ん……」


 暫し沈黙。


「あ、そうか!」


 思わず感じていた違和感に声を上げてしまった。


「どうしたのよ?」

「前から思ってたんだけど、何で知佳は彼氏居るのに僕んとこ毎日のように来るわけ?しかも何で未だにほぼ毎日お弁当作ってくれるんだ?」

「は?何でって……ダメなの?」


 知佳は本気で分からない時の顔になっている。


「ダメって言うか、僕的には別にいいんだけど彼氏的には面白くないんじゃないかな?自分の彼女が自分以外の男の家に行くとか世話焼くとかって。それで機嫌悪くなってる可能性無い?」

「でも芳樹の事は付き合う前から話してたし、彼も『幼馴染なら仕方ない』って言ってるんだからいいんだよ。」


 そういう問題でも無い気はするけど。


「まぁ確かに最近は芳樹の話してもちゃんと聞いてくれないけど。」


 もう確定じゃん。


「じゃあ芳樹は彼女に悪いから私は来ない方がいいと思う?」


 叱責でも無く不満でも無く、普通に質問してくるような表情のまま知佳が首を傾げて訊いてくる。


「それはそれでつまらないな。」

「でしょ?でもさ……」

「ん?」


 知佳はその細い顎に指を添えて考え込むような顔になった。


「芳樹は彼女と一緒に学校行ったり一緒に遊んだり、彼女にお弁当作って貰いたいとか思ったりはしないの?」

「彼女の家ってちょうど学校挟んで反対側だから一緒に学校行くのは無理があるかな。弁当はなぁ……自分で『料理は苦手』ってカミングアウトしてたし。」


 とか言いながら思い返せば、何だかんだ僕も彼女に知佳の話を結構しているような気がしてきた。


「知佳の料理に勝てるのはお袋くらいだと思うよ。」

「そりゃそうでしょ。私の料理の師匠はおばちゃん芳樹の母なんだし、いつから芳樹のご飯作ってると思ってんのよ。」

「それもそうか。まぁ彼女も弁当作るのは腰が引けてる感じするし、最近お袋も僕のご飯は知佳に任せっぱなしなとこあるから知佳が作ってくれないと困るし、これからも頼むわ。」

「全然オッケーよ。私料理好きだしさ。」


 やっと知佳に普段の柔らかい笑顔が戻った時、知佳の携帯がマナーモードで振動していた。


「ん?あ、彼からメールだ。」

「どうぞ。」


 僕は知佳がメールに目を向けている間、頭を読み掛けの本に戻していた。


「およ……明日お出掛けしようだってさ。」

「ほぉ。いいじゃん。楽しんで来なよ。」

「うん。芳樹も彼女誘って何処か遊びに行ったら?」

「んー……そうだなぁ……どうせ暇だし誘ってみようかな。」


 そう言ってテーブルの上に置いたスマホに手を伸ばし、片手で彼女にお誘いのメールを入れた。

 知佳も彼氏に返信しているようだ。

 1分程でメールが着信する。


「さすが付き合いだしたばかりの彼女、返信早いねぇ。」

「そう?知佳も早い時はもっと早いと思うけど。」

「気分が乗ってる時ならね。」


 僕と知佳のメールは気分で返信の早さが大きく変わる。

 要するに『送りたいと思った時に手が空いていたら送る』という感じなので、早ければそれこそ『秒』で返ってくるが、遅い時は送った事を忘れるくらい間が空く事もある。


「OKってさ。僕も明日出掛けるよ。」

「うんうん。さて、面倒だけどそろそろ帰ろうかな。」

「面倒って言ってるのに今日は泊まっていかないんだ。」

「さすがにお互い明日デートだってのに泊まっていくわけにはいかないでしょ。朝の準備とかもあるだろうし。」

「そうだな。」

「うん。じゃあまた明日。」

「おう。」


 のそりと立ち上がった知佳は、本当にめんどくさそうに部屋を出て帰って行った。

 僕は明日の準備を済ませていつもより早めに寝ることにした。








 翌日昼過ぎ。

 僕と知佳は僕の部屋で床に座ってテレビのニュースを眺めていた。




「ねぇ。」

「ん?」

「何か今日さ、会った瞬間から彼氏暗い顔しててさ。」

「うん。」

「『どうしたの?』って訊いたらいきなり『別れよう』とか言われたよ。」


 僕も知佳も視線はテレビのアナウンサーに置いたままだ。


「ふぅん。奇遇だね。僕の方も同じような感じだったな。」

「そうなの?」

「うん。会って早々『昨日メールした時誰か居たの?』って訊かれたから『知佳と居た』って言ったら『もう無理』って。」

「何が無理なんだろね?」

「さぁ?」


 昼のニュースが終わって古いドラマの再放送が始まっていた。


「折角彼女出来たのに残念ね。」

「知佳だって半年続かなかったんだから似たようなもんだろ。」

「1ヶ月持たなかったのとはちg……はぁ……まぁどっちもどっちかぁ……今度こそ続くと思ったんだけどなぁ……」


 知佳は僕の左側に座っていたが、テレビから視線を外すとベッドに頭を乗せて天井を仰いだ。

 僕も知佳に倣ってテレビから目を外し、ベッドに頭を乗せた。


「知佳。」

「うん?」

「今まで付き合った彼氏で一番長かったのってどれくらい?」

「今日別れたのが一番長かったよ。」

「そっかぁ。」


 知佳が頭を動かすと、ベッドのたわみが僕の頭にも伝わってきて揺れる。


「芳樹は3ヶ月だよね?」

「何で知ってるんだ。」

「何でと言われても知ってるもんは知ってるとしか。」

「まぁいいや。はぁ……」


 僕は知佳の方を横目でちらっと見たが、知佳は再び天井を仰いで気怠そうな顔をしていた。

 僕も再度同じように天井を仰いだ。




「「何で続かないんだろうねぇ……」」




 僕も知佳もまた暫く、恋人の居ない学生生活が続きそうだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

僕も幼馴染も恋人と長続きしない話 月之影心 @tsuki_kage_32

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ