第131話
「つまり、この件は当初想定していたよりも遥かに由々しき事態である可能性がある──ということでの」
昨日と同じ応接室。
ドワーフの市長イヴリアは、少女のような顔立ちにやや
昨晩はずっと街のことを考えていて、ろくに眠れなかったのだという。
彼女がそうなったのは、無論、昨日俺たちが報告したロックワームの件が原因であった。
彼女の副官が資料をひっくり返したところ、とあるマイナーな引退冒険者が書いた冒険譚の記述の一つに、今回のケースと似た事例を発見したのだという。
俺もその冒険譚は読んだことがなかったから、話を聞いて驚いた。
「その『マザーロックワーム』というモンスター、本当に実在するのでしょうか?」
シリルがそう聞くと、市長の隣に立っていた副官の
「それは分からない。件の冒険譚を記述した作家の創作である可能性も捨てきれない。だが現にこのノーバンの坑道でイレギュラーと呼べる数のロックワームと遭遇している以上は、実在の可能性を無視するわけにもいかないな」
「そうですよね……」
シリルが思案顔でうなずく。
なお俺も、市長の副官の意見には賛成だった。
副官が探し出してきたその冒険譚には、ロックワームを生み出す母体、マザーロックワームというモンスターの存在が記されていた。
冒険譚の主人公──すなわち筆者が、仲間たちとともにとある遺跡を探索していると、そこで立て続けにロックワームに遭遇する。
冒険者たちがそうしたロックワームからの逃走を繰り返していると、やがて一つの大広間に出る。
そこにはうじゃうじゃと大量の小型ロックワームがいて、その中心には、何体ものロックワームを束ねたような形状の怪物がいた──という、若干ホラーテイストの話であった。
市長のイヴリアは、苦しげな面持ちで言葉をしぼり出してくる。
「もしそんな生き物がこのノーバンの鉱山内に棲みついているのだとしたら……このノーバンという都市そのものの存亡にも関わりかねない一大事だ。本来はお主らのような駆け出しの冒険者に依頼するような件ではないのだが……何とか引き受けてもらえぬか? 当然、それに見合った報酬は払わせてもらう」
俺たちが現在イヴリアから依頼されているのは、その実は昨日のクエストとほとんど変わらない。
坑道を調査し、ロックワームを見つけ出して退治してほしいというものだ。
一応、その際に何らかの情報を得たらそれを伝達することも依頼内容に含まれているが、こちらとしては実質やることは変わらない。
だが昨日の段階と違うのは、想定される危険度が大きく異なるという点だ。
一体でも冒険者パーティの一団を苦しめるロックワームだが、場合によっては、とんでもない数のそれと遭遇するかもしれないのだ。
それに加えて、そのロックワームの群れには親玉が存在する可能性があり、その戦闘力は未知数──
それはもはや、普通に考えればDランクのクエストなどでは到底なく、最低でもBランクの評価が適当なクエスト内容と言えるだろう。
本来ならば、俺たちのようなEランク冒険者が受けるようなクエストではない。
だが一方で、そのロックワームの脅威はいつこのノーバン市内を襲ってもおかしくない状態だ。
事は一刻を争う可能性もある。
それに対し、あらためてBランク以上のクエストとして近隣の都市の冒険者ギルドに発注しても、それを引き受ける冒険者パーティがいつ到着するかも分からない──
そうした状況ゆえに、ちょうど今この場にいる俺たちに探索・調査依頼をし、せめて情報だけでも補強しておきたいというイヴリアの気持ちは分かるところだった。
それらを踏まえた上で、俺はあらためてイヴリアに問う。
「表の門の前で二人のBランク冒険者に遭遇したのですが、彼らには?」
「もちろん依頼したとも。だがこのノーバンにある坑道の数を考えれば、彼らだけに任せるのも心許ないのだ」
この彼女の考えも、適切な判断と思えた。
確かに迅速な情報収集の必要性から、探索の手数は多い方がいいだろう。
となれば、あとは俺たちが受けるかどうかだが──
「サツキ、ミィ、シリル──どうする? この臨時クエスト、引き受けるか?」
「ウィリアムはどう思うですか?」
俺が仲間たちに問うと、逆にミィから質問を返された。
俺は少し考えてから、答える。
「俺の見立てでは、問題はないと思う。要は昨日と同じで、探索と撃退を繰り返す作業だ。無理な深入りをせずに慎重に事に当たることを心掛ければ、俺たちが命を落とす危険はほぼないと思える」
それが素直な俺の見解だった。
すると、それを聞いた仲間たちは、
「だったら引き受けるでいいだろ。報酬もウマいみたいだし」
「そうね。ウィリアムがそう言うなら、私も賛成」
「ミィもです。ウィリアムの見立ては信頼できるです」
と、いずれも二つ返事の賛成をしてきた。
俺はそれを受けて、イヴリアに返事をする。
「ではそのクエスト、引き受けさせてもらいたい」
「そうか、助かる。よろしく頼む」
そう言って頭を下げるイヴリアに、俺はしっかりとうなずいてみせた。
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