第10話
最初の
一つ目は、ゴブリンが五体いた最初の広間。
二つ目と三つ目が、最初の広間から伸びた通路が枝分かれした先にあって、そのうちの片方が、先のゴブリンが八体いた広間になる。
そしていま向かっているのが、枝分かれしたもう一方の先にある広間だ。
この広間を超えた先に四つ目の広間があり、そこがこの洞窟の終着点になる。
さて、それはさておき。
俺には今日の洞窟探索の手際を見ていて、一つ感心していることがある。
それは何かというと、ミィという獣人の少女の、盗賊としての有能さだ。
冒険者における盗賊は、盗みを主な生業としているわけではない。
聞き耳や罠探知などの様々なスキルを活用してダンジョン探索のリスクを軽減するのが、冒険者パーティの中での盗賊の主な役割である。
ミィはそんな盗賊という役割に求められている行動と結果を、目立った粗もなく、そつなくこなしているように見える。
別段特筆すべきところがあるわけでもないのだが、何をやっても及第点以上といった印象だ。
目端は利くし、聞き耳などの能力においても的確な結果を弾いている。
将来的にCランクの冒険者になれるのは、こういう人材なのだろうなと感じる。
もっともそれも、途中で命を落とさなければの話ではあるわけだが。
そして、そんなミィの面目躍如の一幕が、三つ目の広間で起こったのである。
「──ウィリアムが言ってた通り、ここにはゴブリンいねぇみたいだな。ちょっと拍子抜けするよな」
三つ目の広間にたどり着いたところで、サツキがそんな気楽な感想を漏らした。
そこは前二つの広間とは違い、ゴブリンたちの姿はなかった。
「気持ちは分からないでもないけれど、せめてダンジョン探索の最中ぐらい、もう少し緊張感を持ったら?」
シリルがサツキに向け、そう苦言を呈する。
しかしサツキは、あまり意に介した様子はない。
「シリルはいつも気を張りすぎなんだよ。そんなんじゃいつか糸が切れちまうって。だいたいあたしの役目は、敵をぶった斬ることだろ。ウィリアムの話じゃこの奥にボスがいるってんだから、あたしが気ぃ張るのはそんとき──」
サツキがそんな持論を展開しながら、先頭を切って広間を縦断しようとしたときだった。
「……待つです、サツキ」
「──あん?」
ミィが鋭い声色でサツキを制止した。
サツキは足を止め、振り返ってミィのほうを見る。
「なんだミィ、小便か? いいぜ、ウィリアムはあたしが見張っててやるから、ちゃっちゃとしてこい」
「サツキはミィのことを野良猫か何かだとでも思ってるですか。そうじゃないです。よく見るです」
歩みだした獣人の少女はサツキの横を通り過ぎると、広間の中央少し前ぐらいで立ち止まる。
そしてその先の地面を、強く蹴り飛ばした。
すると──そのミィが蹴り飛ばした部分の地面が、ぼこっと崩落した。
その部分の地面に、ぽっかりと穴が開く。
「げっ。何だそれ」
サツキがミィの横に駆け寄って、自分も同じように、目の前の地面をおそるおそる蹴ってみる。
するとやはり、その部分の地面が抜けて、穴が空いた。
そしてミィが、地面を注意深く見極めながら、特定のスペースを縁取るように移動しつつ、同様に地面を蹴ってゆく。
ぼこっ、ぼこっと穴が空いていって──そしてあるタイミングで、そのスペース全体が一気に崩落した。
結果、広間の中央に、大穴ができあがった。
出来上がった穴を、サツキが覗き込む。
「うへぇ……こりゃ、落とし穴か?」
「そうです。この部分だけ、少し土の色が不自然でした」
俺もサツキの傍まで寄って見てみると、傾斜の急なすり鉢状になった穴は、人の背丈の三倍ほどの深さまで掘り抜かれていた。
穴の底をたいまつで照らしてみると、そこには尖った岩がいくつか、先端部を上にして置かれていた。
「……あのさ、これ落ちてたら、相当ヤバかったんじゃねぇか? 最悪、あの岩に頭ぶつけたら……」
「死んでたですね。でもこんなの落とし穴としては甘い方です。底に槍が上を向いて敷き詰められてるパターンもあるです。遺跡なんかだと、強酸のプールであっという間に骨になるとかいうのもあるらしいです」
「マジかよ……」
ゾッとした顔で、穴の底を覗き込むサツキ。
その横で、同様に穴の淵に寄ってきていたシリルが、誰にともなくつぶやく。
「でもこれで、この洞窟に知能の高いゴブリンがいるのは確定したわね。ウィリアムの言っていた通り──」
そう言ってシリルは、広間の先にある通路の行く手を、鋭い視線で見すえる。
そして、緊張感をはらんだ声で、その言葉を続けた。
「──この奥に、ゴブリンメイジとゴブリンロードがいるわ」
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