第6話
俺は、獣人の盗賊のミィ、侍のサツキ、神官のシリルという三人とパーティを組んだ。
そして俺たちのパーティは、先のゴブリン退治のクエストを受けると、翌朝に都市アトラティアを出立した。
ゴブリン退治の依頼を出したミト村へは、早朝に都市アトラティアを出立して、その日の夕方に差し掛かろうという頃に到着した。
村長に会って話を聞くと、ゴブリンたちは村の北、森を分け入って半刻ほど歩いたところにある洞窟に棲みついたらしいという。
俺たちは休息もそこそこに、早速、教えられた洞窟へと向かった。
そして森の中を歩くことしばらく。
ついに洞窟が見える場所までやって来た。
俺たちは森の中、木々の合い間から、洞窟の様子を覗き見る。
「見張りがいるな……二体か……」
サツキが木の陰に隠れながら、顔だけをわずかに出して、洞窟の様子を注視する。
俺も見てみたが、洞窟前には二体のゴブリンが立っていて、どちらも俺たちの存在に気付いている様子はなかった。
ゴブリンというのは、人間と敵対する
人間の子供ほどの体格で、容姿は醜悪。
緑がかった肌、骨ばった奇妙に細い手足、尖った耳と大きな鼻、大きく裂けた口とぎょろっとした目などが特徴だ。
二十体ほどで一つの群れを成し、人里近くの洞窟を棲み処とすることが多い。
そして人間の村を襲っては、作物や家畜を略奪し、ときには人をも殺す。
非常に繁殖力が強く、どれだけ退治しても、どこからか湧き出てくるかのように、またわらわらと現れる。
人類に害をなす典型的な存在であり、冒険者への退治依頼も多い。
そんなゴブリンたちを遠目に据えつつ、サツキがミィに声を掛ける。
「ミィ、騒がれないようにやれるか?」
「むー、どうでしょう。一体ならほぼ確実にやれると思うですけど、二体だとあやしいです」
「そんなトコか。新入りはどうだ?」
サツキが今度は俺のほうへと視線を向けてきた。
さて、どう答えたものか。
となると、
あるいは、
「ひとまず眠らせるのが上策だろうな。始末はサツキたちに任せる」
俺はそう宣言して、魔術師の杖を掲げると、魔法語による呪文を詠唱する。
そして呪文が完成し、
その様子を見ていたサツキが、呆気にとられたように言う。
「……え? あれ、どうなったんだ?」
「言った通り、眠らせただけだ。普通の睡眠と同じだから、大きな物音を立てるなどすると目を覚ます恐れがある。迅速かつ静かに始末するべきだ」
「はあ……魔法ってすげぇのな」
眠ったゴブリンたちの始末に関しては、ミィとシリルの二人が洞窟前まで忍び寄り、片や
なおサツキはと言うと、「無抵抗の相手を一方的に殺すなんざ、侍のすることじゃねぇ」と、ゴブリンの始末を断った。
戦士としての矜持なのだろう。
そういった在り方には否定的な考えも浮かんだが、それが彼女の根幹に結びついたものであるなら、一概に否定するべきものでもないと考え直す。
するとサツキは、ゴブリンたちの始末が終わった後に、その光景を見ていて何か思うところがあったのか、俺のもとに来てこう言ってきた。
「……わりぃ、いきなり我がまま言って。でも、あれを曲げちまったらあたし、もう誇りをもって刀を振るえなくなる。身勝手なこと言ってんのは分かってる、でも……」
サツキはうつむいていた。
普段の粗野な雰囲気がどこかへ行って、ひどく怯えたような様子で視線を泳がせている。
多少の苦言は必要かとも思っていたが、彼女自身がここまで考えているなら、余計なことを言う必要もないだろう。
「いや、構わない。そうであるなら、こちらもサツキの考えやスタンスを前提に置いて、それに応じたやり方を考えるまでだ」
「……わりぃ。っつか、ありがと。……へへっ、あんたすげぇな。ちっと惚れそうだ」
そう言ってサツキは、俺から逃げるようにパタパタと離れていった。
それからミィ、シリルのところにも行って、何かを話していた。
俺に話したのと似たようなことを話しているのだろう。
しかしこの件は、俺にとっても良い経験になった。
冒険者パーティの一員として、他者と協力して事にあたるのであれば、単純な戦力計算だけでは測れない事情も発生しうるということだ。
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