第5話

 冒険者ギルドには往々にして酒場スペースが併設されているもので、このギルドも同様だ。

 ミィに連れられてそちらへと向かうと、多数の冒険者らしき人々が飲んで騒いでいる場所へと足を踏み入れることになる。


 酒場で飲んでいる者たちは全体的に粗野な印象こそ強いものの、その人材のバリエーションは豊かであった。

 豪放にジョッキのエールを傾ける筋骨隆々とした戦士らしき男や、すました様子でワインに口をつけるエルフの女、酔っているようで油断なく周囲に視線を走らせている盗賊風の男など、様々な人物がいる。


 俺は前を駆けてゆくミィの姿を見て──この獣人の少女はパーティの紅一点、マスコット的な存在なのだろうなと何となく予想していた。

 男女混成の冒険者パーティは珍しいものではないようだが、それでもやはり、冒険者という職業に就くものは比較的男が多いと聞く。


 そして女絡みの人間関係が原因で崩壊する冒険者パーティも、なかなかに多いらしい。

 ミィはそういったタイプではなさそうにも見えるが、女は見かけによらないとも聞く。

 いずれにせよ、彼女とは必要以上に親密な仲にならないよう気を付けたほうがいいかもしれない。


 俺はそんなことを思いながら、ミィの後をついていったのだが──


「おう、ミィ、お疲れ。そいつが新入り候補か?」


 四人掛けのテーブル席のうちの二席には、確かに二人の人物が腰を掛けていた。

 そしていま声を掛けてきたのは、そのうちの一人だ。


 そこにいた二人の人物は、俺の漠然とした予想を見事に裏切っていた。


 二人ともが、少女だったのだ。

 どちらも人間のようで、ともに年の頃は俺と同い年か、それよりやや若いぐらい。


 うち一人、声を掛けてきたほうは、テーブルの上に足を投げ出した粗暴な様子の少女だった。

 黒髪をポニーテイルにしていて、瞳も黒。

 身に着けている衣服は、このあたりではあまり見かけないものだ。


 確か東方の国にああいった民族衣装があって、着物袴キモノハカマなどと呼ばれるものだった記憶がある。

 いま目の前の少女が着ているそれは空色を基調としたもので、彼女自身の端正な容姿とも相まってなかなかに見目麗しいものであった。


 また腰には反りの強い剣が一振り、鞘に収まった状態で提げられている。

 確かあれも、同じ東方の国のカタナと呼ばれる武器だったはずだ。


 一方、その場にいたもう一人は、神官衣らしき白いローブを身につけた少女だった。

 プラチナブロンドの髪はセミショートの長さに切り揃えられており、幻想的な紫色の瞳をたたえた眼差しは、きゅっと結ばれた口元とも相まって少女に真面目そうな印象を与えている。


 また彼女のさらなる特徴は──少し下世話な話になるが、彼女の白のローブを大きく押し上げたその胸の大きさと言えるだろう。

 それが少女のシルエットに、母性を司るような美しさを宿していた。


 ともあれ俺が驚いたのは、そこにいた二人が女だったということだ。


 しかし冷静に考え直してみれば、それは別段問題のあることでもない。

 女だから実力がないと決めつけるのは、必ずしも適切ではない。


 生物学的に見たときに女が一般に男と比べて筋肉量などの面で劣っているのは確かだが、一方で男と比べて体内を巡るオーラの量が大きい傾向にあるという研究報告もあるのだ。

 それが事実であるならば、冒険者の資質として女が男よりも劣っていると考えるのは早計であると言える。


 ゆえにそこは問題とするべきではない。

 それよりもいま意識するべきは、もう一つの奇異な部分だろう。


「戦士と神官、という話だったが、厳密には少し違うようだな。──確か侍といったか。東方の国の独特の剣術を扱う者たちだったと記憶しているが、それで間違いないか?」


 俺がそう聞くと、テーブルに足を投げ出していた黒髪の少女が、揚々と居住まいを正して食いつくように身を乗り出してきた。


「へえっ、あたしたちのこと知ってんだ! 正直|侍って言っても通じねぇから、もうしょうがないから戦士ファイター名乗ってたんだけどさ。そっかー、知ってんのか。そりゃ嬉しいね」


 そう言って黒髪の少女は、俺に向かって右手を差し出してくる。


「あたしはサツキ、見ての通りの侍だ。──あんたは?」


「俺はウィリアム、魔術学院で魔法やその他の教養を学んだ。侍を知っていると言っても、単なる知識としてだぞ」


 俺は差し出された手に握手を返し、自己紹介をする。


「なぁに、いいんだよ。知っててくれるだけで嬉しいってもんよ」


 そう言ってカラカラと気持ちよく笑う少女。


 俺はこのサツキという侍の少女を、裏表のない人間と評価していた。

 少なくとも悪い人間ではなさそうだ。


 そして、もう一方。

 サツキの隣に座っていた神官衣の少女も、同様に手を差し出してくる。


「私はシリル。光と正義の女神アハトナに仕える神官ホーリーオーダーよ」


「ウィリアムだ。よろしく頼む」


 俺はその手も握り返し、短く返事をする。


 彼女たちとパーティを組むかどうかまだ決めていたわけではなかったのだが、直観的に悪い人物たちではなさそうだと感じたし、そうであるならば条件的に断る理由もない。

 俺は彼女たちとパーティを組むことを即決していた。

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