You Lose
雨上がりの商店街。転倒注意の看板が林立するが、人気も往来もまるで感じられないアーケード街の一角で……仁は缶ジュース片手に、昔日に思いを馳せていた。
通学路から外れた寂れた商店街は、十年前から寂れていたが、あの頃は今よりはまだ多少マシだった。少なくとも、今よりは活動圏が狭かったあの頃の仁達にとって、此処は格好の遊び場であり、同時に盛り場であり、貯まり場であった。
それが、今ではこの有様。通販がいよいよ強くなり、郊外に大手ショッピングモールが建設された昨今、此処には中高年もあまり足を運ばない。少ない地元客で細々やっているだけの、いつか消えるしかない商店の群れでしかない。その多くが、昔からの想い出や、今更辞めるのも億劫と言う感情的な理由で、軒を連ね続けている……と、どこかで他人事のように聞いた。
辞めるに辞められないという意味では……この街は、仁と全く同じだった。
仁と同じ、過去にしがみ付き続けている残骸だった。
熱意や覚悟でそうしてるわけじゃない。
惰性でこうしている。
言葉ではそう言えるが、実際は違う何かがある気もする。
だが、それを言葉にすることに、何の意味もない。
どうせ、結果は同じだし、誰に語る事もないのだから。
アーケードが、途切れる。
商店街の隅も隅。昔は毎日のように通ったホビーショップ。
玩具のクロサワ。
自然、足はそこに向いていた。
かつての仁の聖地。
仁が英雄として凱旋していた場所。
仁の全てがあった場所。
ああ、だから、思い出した。
確か、ここで使われていた。
その時は、確かアカウント名じゃなかった。
誰かのリングネーム。
大会に登録されていた、普通の横文字や英単語の組み合わせの中にポツンと一つだけ混じった、異質なリングネーム。
それが確か。
『you3829』
使用者は、玩具のクロサワの一人娘。
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