You Win
十年前。あの頃の赤塚仁は、ヒーローだった。
その言い方は多少大袈裟かもしれないが、それでも少なくとも、今の仁よりは明るく社交的で、人脈豊富だった。まぁ、人脈と言っても、ようは同級生の友達が多かった……というだけのことなのだが。
それはそうと、あの頃の仁は、今の仁とは真逆の存在だった。
少数よりも多数を好み、静謐よりも騒乱を好み、寡黙よりも多弁を好み、不干渉よりも介入を好み、子供とも大人とも、広く温かく交わり続けることを良しとした、快活な子供だった。
特に当時からゲームが得意だった仁は、近所のホビーショップの大会などにも積極的に参加し、小学校低学年ながらに上級生にも対等以上に渡り合い、地元のジュニア大会では何度も優勝を果たした新進気鋭の若手(もクソもないが)ゲーマーだった。その頃は、誰もが仁の事を「仁ちゃん」「仁ちゃん」といって、一目置いたものだ。
子供の世界とは狭いもので、そうやって遊びでも何でも何かに一芸に秀でるだけで、社会的地位が保証される。あの頃から既にちょくちょくオンライン対戦でも猛者に揉まれていた仁は、それこそ子供相手には無敵の存在だった。今思えば、年齢はともかくとして、実績を鑑みれば、その腕前で近所のホビーショップのジュニア大会を荒らすというのは、やっていることは立派な初心者狩りでしかないので、多分に自省するところはあるが。
閑話休題。
あの頃の仁にとって、ゲームこそがアイデンティティであり、ゲームこそが人生だった。それを一切疑いもせず、それを一切省みもしなかった。だが、他に得意な事がないものだから、子供たちが少しずつ大人になり、ゲーム以外にも関心を持ち始め、同じゲームでも最新の違うゲームへと皆関心を移していくにつれて、不器用でそれしかできない仁は徐々に孤立していった。
それでも、仁はゲームを取った。
自分の『好き』を取った。
自分の『夢中』を取った。
自分の『興味』を取った。
少しでもゲームから離れて腕前を落とすのが嫌だった。負けるのが悔しかった。昨日の自分より今日の自分が弱くなるのが嫌だった。友達と少しずつ疎遠になるより、そちらの方がよっぽど我慢ならなかった。
幼稚で意固地だったと、今の仁は思う。もう十年ぶち込んでしまった今の仁からすれば、馬鹿な事をしたものだと少しばかり呆れてもいる。
今の仁は、ゲームは『好き』ではあるが、『夢中』ではないし、『興味』もさほどあるわけでもない。この十年で上には上がいると散々思い知った以上、負けるのが悔しいとは別に思わないし、昨日の自分より今日の自分が弱くたって、そもそも対人戦をあまりしてないんだから当然としか思わない。『好き』ではあるが、『熱意』はない。
じゃあ、何故やっているのかといえば、恐らくは惰性である。
もう十年続けてしまったからという、後ろ髪にだけ引かれて続けている。
辞めたら勿体ないから。
恐らく、その程度の理由で、その程度の『好き』だと思う。
世間でいうところの、コンコルド効果と言う奴だ。
開発に手間と費用を注ぎ込み過ぎたが故、いくら赤字を垂れ流しても「これで辞めたら勿体ない」という感情的な理由だけで運用され続け、最終的には多くの富と資材を腹に抱えたまま、それを親元に還元する事もなく翼を折った世界で唯一の音速旅客機。
仁のやっていることは、それと何も変わらない。
そういう自覚がある。
それでも辞めない。
辞められない。辞めたくない。
その理由は。
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