第3話
「チャーハンが食べたいよー」
「また唐突に……なんだ?チャーハン?」
「うん、今日の僕はチャーハンの気分なんだ」
いつものように後ろの席の椎名 雄二に僕から話しかける。今日の気分はチャーハンなのだということを無意味にアピールだ。
「……学校じゃチャーハンは食えないからな。帰ってから晩飯で食えよ」
「ノンノン、僕の求めるチャーハンとはお家のチャーハンじゃないんだよ」
「ほう、それじゃラーメン屋のパラパラとしたチャーハンなのか?」
「ふふ、ところがラーメン屋のチャーハンでもないんだよなぁ」
「ラーメン屋のチャーハンでもない?それはなんだ?」
「それは、中華料理屋のチャーハンさ」
「は?それはラーメン屋のチャーハンとは違うのか?」
「大違いだね。ラーメン屋さんのチャーハンはメインのラーメンの脇役としてのチャーハンだけど、中華料理屋のチャーハンはチャーハンがメインじゃないかい?」
「あぁ、ラーメン屋という定義の違いか?お前の考えるラーメン屋ってのは券売機があってラーメンを頼むついでに半チャーハンとかついでにつけられるようなラーメン屋をイメージしてるんだろ?中華料理屋の方はエビチリやレバニラ炒めやそういう中華料理がメニューにある店ってことだろ?」
「そういう感じかな」
「でも、ラーメン屋のチャーハンと中華料理屋のチャーハンってそんなに違うか?」
「大違いだね、椎名。僕が食べたいチャーハンってのはさ、そんじょそこらのチャーハンじゃないんだよ」
「そんじょそこらって、何が違うんだよ」
「僕は……中華料理屋のカニチャーハンが食べたいんだ!」
「あぁ、そういうことか。確かにラーメン屋のチャーハンは普通のチャーハンだな。そこまで豪華な具は使わんもんな」
「そうそう、これはとても大きな違いだよ、キミぃ。月とスッポンポンくらい大違いさ」
「スッポンだろうが!」
「ははは、洒落だよ洒落。やっぱりカニチャーハンは至高だよね」
「カニチャーハンが良いのか?海老チャーハンという選択肢もあるぞ?この二つが双璧じゃないか?」
「……あぁ、海老チャーハンねぇ、悪くはないさ。でも、チャーハンに大きな海老がのってるタイプの海老チャーハンってさ、店によっては海老が冷たいときがないかい?せっかくウキウキで食べ始めたらてっぺんの海老が冷たかったら……もうガッカリでさ。だから個人的にはカニチャーハンの方を頼むかな」
「それはその店が偶々ハズレだったんじゃないのか?」
「それはそうかもしれないけどね。あぁ、食べたいなぁ」
「食べに行けば良いじゃないか?」
「あのねぇ、椎名。そう簡単に言うなよ。中華料理屋さんは僕ら学生には敷居が高いんだ、家族で外食の時にしか食べに行くことなんてないよ」
「まぁ、なぁ……ラーメン屋やチェーンの牛丼屋も俺達みたいな学生が放課後に寄るにはちょっとしたイベントだしな」
「そういうことさ、だから僕は……自らの手で掴むだけさ!」
「なんだ?家で作るのか?カニ缶とか?」
「カニ缶は……無い!あっても勝手に使ったら怒られるし、買うお金なんて無い!」
「それじゃ、普通のチャーハンで我慢するのか?」
「だから、僕は……瓶詰めの鮭フレークでチャーハンを、そう、鮭チャーハンを生み出すのさ!」
「まぁ、お前さんがそれで良いなら構わないんじゃないか?」
「鮭チャーハン……いいよねぇ」
僕がうっとりと鮭チャーハンのことを思い浮かべている向こうには隣の席の美少女、鳴海 零さんが座っている。彼女は今日もコクコクと頷いていたが……彼女もチャーハンの気分になったのかな?さて、彼女はどんなチャーハンを食べるのか……それを尋ねる勇気は僕には無かった。
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