第2話


 今日の昼食は売店で購入したお弁当、その中身はカツ丼である。そのお弁当のプラスチックの透明な蓋を外したところで、目の前の友人、椎名 雄二が話しかけてきた。


 「カツ丼かぁ……今日の昼食はがっつりいくなあ」


 「いやぁ、腹が減ってね。ほら、椎名は知らないかもしれないけど、僕って若いからさぁ」


 「知らないかもってなんだ、同い年の同級生に対して。それにしても売店のカツ丼か……」


 「なんだい?僕のカツ丼に文句でもあるのかい?」


 「いや、売店でお弁当を買うじゃないか、あそこって電子レンジが二台しかないから温めるのに人が並ぶからめんどくさいじゃないか」


 「あぁ、僕は温めないから大丈夫」


 「え、温めないのか?本当に?」


 「待ち時間がめんどくさいというのもあるけど、何気に僕は冷めたお弁当のカツ丼が好きなんだよ」


 「ほう、珍しくないか?温かい方が美味くないか?」


 「そうかな?勿論、揚げたてのカツをカツ丼にしたお店のも美味しいと思うよ?でもこれはこれで冷めたことによって落ち着いた味、汁の染みたご飯、美味いと思うんだけどな」


 「へー、面白いな」


 「うん、考えてみたら僕は他の人と比べて食感の好みは変わっているのかもしれない」


 「と、いうと?」


 「例えば、ハンバーガー屋のポテトあるだろう?皆は揚げたてのポテトがいいって言うじゃない?でも、僕は少し時間の経ったヘナヘナのあの食感が好きなんだよ。全部あれなら良いのにって思うくらい!」


 「そうなのか?知らなかった」


 「わざわざ言うようなことでもないからね。あとは、そうだな……揚げたての天ぷら、あれはそのまま天ぷらだけを食べるなら揚げたても良いと思うけど。天丼にするなら断然、天ぷらを汁にしばらくつけて、ふやけるぐらい味が染み込んだ方がご飯と食べるには好きだな」


 「あぁ、それは分かるかもな」


 「あとは、カップラーメンは早めに食べ始めるタイプだね」


 「麺は硬めが好きなのか?」


 「いやぁ、どうせ食べてるうちに伸びるだろう?だから早めに食べ始めるだけさ」


 「なんだそれは好みの問題じゃないのか」


 「ははは、でもたまに伸びた麺が好きな人もいるよね?やっぱり十人十色なんだろうね」


 そんな話を椎名としながらも、ちらりと隣の席の鳴海 零さんを誰にも気付かれないように横目で見てみると……何か腕を組んで考えているようだ。先ほどまで僕の話を聞いてコクコクと頷きながら小さなお弁当を食べていたのだが……何だろう?


 そんな隣の席の鳴海さんだが、次の日のお弁当は売店のカツ丼に……という訳ではなく、普通に家で作ってきたであろう可愛らしい小さなお弁当箱だった。横目でちらりと見た感じでは、彼女のお弁当箱には小さなカツの様なものがご飯の上にのっていたように見えたが……彼女のお家はソースカツ丼派なのかな?

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