閑談しよう!

@narumihotaru

第1話


 「ベーコンって最強だと思うんだよね」


 「相変わらず唐突だな。会話というキャッチボールにはお互いが話題というボールを受け取れるように始めは心構えというものが必要だと思うんだが……それはそれとしてどういう意味なんだ?」


 「ベーコン最強伝説か?」


 「既に伝説なのか……いつの間に伝説になったんだ……」


 呆れ顔の友人、椎名 雄二という男が聞き返してくる。僕たちは学校の昼休みに昼食の弁当を食べたあとにいつものように教室の席に座りながらだらだらと雑談をしている。同じ中学から同じ高校に進学してきた椎名とは同じクラス、そして席も前後並ぶという現状はものすごい確率だと思う。そんな椎名に僕は自分の考えを披露することにした。


 「ふむ、ベーコンが何故、世界最強なのかといえば、ベーコンはどんな主食とも組み合わせられると思わないかい?」


 「そうか?」


 「あぁ、フライパンでベーコンを下に敷いた半熟の目玉焼きを作って、熱々ご飯にのせて黄身に醤油をかけて崩しながら食べると……至福のどんぶりだと思わないかい?」


 「あぁ、安上がりで、手早く作れて、まぁ無難に美味いわな」


 「同じものを食パンにのせても良いだろう?こちらは個人的には塩コショウだな」


 「あぁ、昔の有名なアニメでもそんな食べ方してたな」


 「米、パン、そして残るは麺だが……そう、パスタ。ナポリタンに使ってもよし、ペペロンチーノの具にしても最高だ。どうだ?ベーコン最強伝説は揺るがないだろう?」


 「……それじゃ、反論させてもらうが、どんな主食ともって言ったな?それじゃ他の麺とはどうなんだ?例えばうどんとかは合わなくないか?」


 「……なるほど、そうきたか。うどんか……それじゃ、焼きうどんの具なら文句はないだろう?勿論、豚肉がベストだとは思うが、豚肉が無いときの代用としては文句ない食材だと思うがね。同じようにラーメンと合わせようと考えるからいけない、焼きそばの具なら文句ないだろう?」


 「……蕎麦は?」


 「……焼き蕎麦」


 「おい!焼きそばの麺は蕎麦粉の麺じゃないだろう!?」


 「ははは、何事にも例外はあるさ!でも、ここまでの説明だけでもベーコン最強伝説は納得してもらえたと思うんだが?」


 「わかった、ベーコンの食材としての便利さは認めるが、ツナはどうだ?ツナの守備範囲の広さも凄くないか?」


 「ツナか……」


 「そう、ツナはコンビニの定番になっているツナおにぎりや、個人的には肉がないときのチャーハンの具に使用しても合うと思う。そしてパンには勿論、ツナサンド。パスタのソースにもツナマヨネーズのパスタソースが売っていたりと守備範囲の広さ、そして缶詰ということから賞味期限が長く、お手軽さはベーコンに勝るとも劣らないだろう?」


 「……そうだな、確かにツナは有能だ。でも……やはりベーコンには劣るな」


 「……何故だ?」


 「……椎名、わかるだろう?ツナはどこまで頑張ってもやはり魚なんだ。若い僕たちは肉味を求めてしまう。これは、悲しいけれど仕方ないことなんだ……」


 「なんだそりゃ、結局は好みの問題じゃないのか?」


 「ははは、まぁ、良い暇潰しにはなったろう?」


 「まったく、それじゃ授業が始まる前にトイレにでも行ってくるかね」


 席を立ち、教室を出ていこうとする椎名を見送るついでに隣の席に座る女子をちらりと見る。彼女は学校でも有名な美少女、鳴海 零という。彼女のイメージは孤高、物静かでマイペースなお嬢様、そんな言葉が似合う女の子だ。勿論、ごく僅かだが仲良い友人もいるようだが、誰とでも仲良しという訳ではないようで、隣の席の僕も生憎と彼女とはそんなに会話をしたことがない。そんな彼女なんだが……


 先ほど、僕と椎名がくだらない話をしていたら、彼女は聞き耳をたてていたのか、こちらを見ずに僕の主張を聞くたびにコクコクと頷いていた。そんな姿は可愛らしく、彼女は噂とは少し違い、ユニークな人なのかもしれないと思わされた。勿論、そんな様子には椎名は気づいていなかったようで僕だけが彼女のそんな貴重な様子をうかがうことができた。


 そんな彼女を見ていたら、彼女もこちらの視線に気づいたらしく、僕を見てニコッと笑った。これはヤバい……なんて破壊力だ。彼女のそんな笑顔を見たら普通の男ならたちまち恋に落ちてしまうだろう。本当にヤバかった。


 そんな鳴海さんだが、次の日のお昼休みには手作りのサンドイッチを食べていた。横目で見たところ、どうやらBLTサンドのようで……それを彼女はもしゃもしゃと食べていた。美味しそうで何よりだと思った。


 

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