第23話 強くてニューゲーム
百合子の人生に不平不満はないと言ったけれど、それはサラちゃんの記憶があまりに強烈すぎただけで、実際、百合子には百合子なりの後悔がある。
「小学生に戻ってやり直したい」
時折夜中に考えて苛々することがあった。でも、その真意は「小学校から人生をやり直したい」という意味ではなかった。四十の百合子は、大人の自分が好きだったし、受験勉強やら就職活動やら婚活をまたやらねばならないのは面倒くさかった。ただ、何度思い返しても子供時分の記憶が理不尽すぎたので、その部分だけやり直して、いや、やり返したかった。何せ、学校という場所は、自己主張が強くはきはき発言する子が得をするシステムにできている。それに気づかず真面目で大人しく無口な子供として過ごした百合子は散々辛酸を嘗めたのだ。
「滑り台で遊ぼう」
「えー、ブランコがいい」
「うん、わかった」
大体、いつもこんな感じだった。不穏な空気にならぬよう相手に従ってばかりいた。何故百合子が折れなければならなかったのか。その子がブランコに乗りたいことと、百合子が滑り台で遊びたいことは同等だ。今回はブランコに譲るけれど、次は滑り台にしてくれるなら辻褄は合う。しかし、我慢するのはいつだって気が小さくて嫌だと言えない百合子だった。内弁慶だったから、何度か親に泣きついたことがある。すると毎回、
「百合子が我慢して譲ったり、人の為にしたことはいいことよ。相手もいつかきっとあなたの価値に気づいて感謝する」
と返ってきた。「そうか、わたしのしていることは良いことで、神様がちゃんと見ていてくれて、わたしには良いことが起こるのだな」とその時は納得した。しかし、現実は良いことどころか、百合子が人の意見を否定せず黙って従う大人しい子になるほど、平気で面倒くさいことを押し付けてくる人間が増えていった。
「自分の嫌なことは人にもしたらいけないって先生が言っていたのになんで?」
思ったけれど反発する度胸がなくて更に我慢をした。掃除をサボる子の横で真面目に雑巾を掛けたことも、ぺちゃくちゃおしゃべりしている子の隣で実験器具を洗ったことも、
「百合子ちゃんに頼めばいいんじゃない?」
といいように使われたことも、
「いつかわたしの価値に気づいて感謝するだろう」
と自分を慰めて耐え忍んだ。が、大人になってふいに思った。「人に感謝されたからって何? というかわたしが陰ながら人の為にしたことなんて誰も見てくれていなかったし、全く感謝もされませんでしたけれど?」と。それどころか思い返せば、
「あ、こいつ、わたしが言い返さないことを見越して言ってきているな」
と感じたことばかりだった。あの可愛らしいクラスの人気者には絶対に言わないし、あの不良少年にはそんな態度をとらないし、あの貫禄ありまくりのぴしゃりと撥ねつける子にならば頼まない。わたしだから言ってくる。甘く見られている。蔑ろにされている。
「人によって態度を変えるのは良くない人間だって道徳の教科書に書いているのになんで?」
百合子の脳内にはエラーが出たけど、現実は構わず進んでいった。親の言うこと、先生の言うこと、教科書に書いていることを正しく守っていたけれど、世界はそんな理想論で回っていなかった。教えるならみんなに徹底しておいてもらわないと困る。守る子と守らない子がいるなら、兎とライオンを同じ檻にいれるのと同じじゃないか。黙っていたら「やらせておけばいい」と思われて終わるだけ。成長するにつれ現実、事実、真実に気付いて愕然とした。
「嫌なら嫌って言えばいいじゃない。何も言わないからいいかと思った」
とさらりと言ってのける人種が存在する。だから、あの時百合子は、
「あんた達が嫌なことはわたしも嫌よ」
とずばっと言い返さなければならなかった。百合子の主張は正論でちゃんと発言できたら相手は反論の余地もなかったはずだ。けど、どうしても告げられなかった。言わずに我慢することが美徳だと思ったし、いいことだと信じていた。それに、とても臆病で、いい人に思われたくて、周囲と波風を立てたくなかった打算もあった。気弱な偽善者で、真面目な正直者。みんなと一緒じゃないと怖くて、嫌いな人間にも好かれようと必死だった。馬鹿馬鹿しい。本当に間抜けな弱虫だ。だから、もう一度やり直したかった。
「どけよ。邪魔だ」
言われて泣きそうになり、俯いておずおず退いたあの時に返って言いたい。
「お前の廊下かよ。退いてくださいお願いしますだろ。口の聞き方に気をつけろよ、バカ」
本当にムカつく。クソガキが、マジで舐めんな。お前らなんて、顧客でもなければ、取引先でもなければ、雇用者でもなく、上司でもない、ただの同級生だろうが。だけれど、一番腹が立っていたのは、そんな連中が存外普通の大人になっていることだった。自己中が過ぎて、嫌われ者の大親分にでもなって、みんなに煙たがられる存在と化していたら納得いったのに、割合まともな良識ある社会人となっていることに不満が募った。百合子の心にはムカムカする記憶が鬱積しているのに、我儘三昧だった相手はしれっとまともになっていることに憤りを感じた。成長過程で色々と学んだのだろうけれど、だったらわたしだって子供のうちに我儘をいっぱい言っておけばよかった、と激しく思った。多分、百合子はあまり性格が良くなかった。大切にされたら同じ分を返すが、不道徳な人間にまで親切にしたくなかった。本音はいつも、
「あんた達ばかり狡いじゃないか」
と思っていたし言いたかった。だから殊更、報われもしないのに、人に合わせることは良いことだ、人に感謝される人間になろう、と妄信して我慢したことを後悔した。大人になったらできない「子供の我儘」をやらなかったことが悔しかった。もし、今の記憶を持ったまま小学生に戻れるならば同級生の顔色なんて見ないし、下手にもでない。不快なことははっきりきっぱり論破してやる、とくさくさ思っていたのだ。百合子の記憶が、後悔が、脳内で沸騰して熱い。だから、わたしは絶対に我慢などしない。
「右だ」
背後からのマールの声に思考を止めて振り向く。エメラルド宮へ向かう途中だ。
「わかってる」
答えて再び歩き始めると、マールも同じくついてくる。昔からマールは大体わたしの二、三歩後ろを歩く。いつもは特に何処へ行く当てもなく王宮内を散歩しているだけだから、わたしがあっちへ行ったりこっちへ来たり気ままに動き回るのを見ている。王妃教育が始まって「淑女たるもの男性のエスコートなしにうろうろしてはいけない」と習ってからも「ここにいる分にはいい」とわたしを勝手にさせていた。「そっか、わかった」と最初は疑問をもたずに頷いたが「ここ」とは王宮のことで「最も礼節を重んじる場所なんだけどいいの?」と思うようになってからもずっとだった。
「会わせたい令嬢がいる」などと意味深に言うから対面するまで教えてくれないかと思ったけれど、誰かと尋ねれば、
「伯爵家のエリィ・クローウェル嬢だ。デイビッド王の従兄妹の娘にあたる」
とすんなり予想通りの答えが返ってきた。おまけに、
「クローウェル伯爵は外務省で働いている。各国を転々としているが先々週戻って来たんだ」
と更に聞いてもいないことまでぺらぺら加えた。そんなことは知っている。今から二年後再びクローウェル伯爵に海外転勤の辞令が下り、エリィがいなくなって清々するのは束の間で、学校へ入学するタイミングでエリィとクローウェル伯爵夫人だけで戻ってくることも知っている。名目上は、この国の学校制度が整っていてエリィの教育に良いからという理由だ。でも、実際はマールの傍にいる為だとわたしは踏んでいる。デイビッド陛下はキャサリン妃を寵愛しているから側妃を娶らなかったが、元来この国の王族は一夫多妻制なのだ。
「きっとよい友人になれるだろう」
端正な顔を緩めてマールは言った。バカかよ。わたしとエリィが仲良くなる確率は、全世界から虐めがなくなる率に等しい。どういう了見でわたしとエリィを引き合わせるつもりなのか。会いたくなどなかったが、既にエメラルド宮に招いていると言うので、渋々向かうことになった。どう対処しようか考えあぐねて、前世の百合子の不快な記憶が高濃度で蘇ってきた。エリィは記憶の中のクラスのボスキャラ女子と被りまくるからだ。おかげでどうするべきかわかった。重い足取りが軽くなり、むしろ楽しみなほどだ。マールはわたしとエリィが言い争えばどちらの味方をするだろうか。
ちらりと振り向くとマールとまた目が合った。
「真っ直ぐだ」
だから、わかっているって。心配なら前を行けばいいのに。マールの強い視線を感じながら、てとてとと長い回廊に行く。廊下に差し込む日差しを避けながら歩く。領地へ行っている間にすっかり季節は夏へと移った。乾燥してカラッと暑い。湿気がなく過ごしやすい。喉が乾かず水分を取り忘れがちになる気候だ。
「昼食はバルコニーに用意をしている」
宮の正面まで来るとマールが言い放った。しんとして人気のない宮殿は平日の美術館みたいだ。ロイヤルガーデンの観覧に催されたあのお茶会の日とは別の建物に思える。マールは、扉を叩きつけた犯人を調べたりしていないのだろうか。誰にも見られていない自信があるから捜したところで見つけられないだろうけど。
「どうした?」
マールは悪びれた様子もなく、不思議な顔でわたしが屋敷内へ入るのを待っている。
「なんで?」
「ん?」
「なんで、クローウェル様に会わせるの?」
「同い年だし、仲良くなれるだろ」
「なんで仲良くなれるの?」
「エリィ嬢は社交的な性格だから友人も多い。お前とも仲良くしてくれるさ」
社交的な子供は大嫌いなんだ。無神経だから。
「ふうん」
気のない返事をすると、マールは小さく息を吐いた。マールの溜息はサラちゃんの地雷。わたしは、と言うと特に無視だ。
「人前ではちゃんと淑女らしく振る舞うように」
「何それ」
「先生に習っているだろ」
「わたしはちゃんとしているでしょ」
「そうか。期待しているぞ」
「人に言うなら自分もしないと駄目なんだよ」
むっとして返すとマールが鼻で笑った。十一歳のくせになんでこんなに嫌味ったらしいのだろう。
「ほら」
マールは傍まで来ると掌を差し出した。わたしは淡い青のワンピースでマールは茶色のベストとズボン。カジュアルな装いだから、教本通りのエスコートは若干仰々しいが、素直に手を合わせた。
宮の中へ入ると広いホール、その正面に大階段がある。マールは堂々と真ん中を上がって行くので連れられて従う。ちらっと振り返ると、ずっと離れてついて来ていたルークが入り口の側で微笑んでいる。
「前を見て歩け。危ないだろう」
本当にいちいちうるさい。
そのままバルコニーに向かうと、大きなパラソルと白亜の丸テーブルが設置されていた。ロイヤルガーデンが眺望できる。でも、見頃は終わっている。風通しがよくて涼しいから選んだのだと思った。
エリィは既に席に着いていた。わたし達の姿を捉えるとすぐさま立ち上がり、完璧なカーテシーをしてうやうやしく頭を下げた。
「よく来てくれたな」
「マール殿下。お招き頂き光栄です」
ぱぁっと花が咲いたような笑顔。場の雰囲気が一瞬で朗らかに明るくなる印象。肩のあたりで内巻きにカールされた栗色の髪とマールよりかなり薄い色だけど大きな赤い瞳。誰が見ても美少女だ。女の子の瞳は、必ず父親の色が継承されるわけではないから、赤くても崇拝対象にはならない。でも、王家の血を引いているエリィは別だ。そのことがサラちゃんにどれほど暗い影を落としていたか考えるまでもない。
「サラ、こちらは伯爵家のエリィ・クローウェル嬢だ。エリィ嬢、こちらは公爵家のサラ・ヒュー嬢だ」
マールを間に挟んで向かい合う。エリィはわたしより頭一個分背が高い。成長してもすらっとモデル並みで、かなり長身のマールとも釣り合いがとれて見栄えがした。
「初めまして。マール様から同い年だと聞いています。どうぞ、サラとお呼びください」
「初めまして。お会いできて光栄です。わたしのことはエリィと呼んでください」
にこやかに笑ってお辞儀した。それから、マールがエリィに席へ戻るよう勧めて、わたしも空いている椅子に座った。
「もう少し早ければそこの薔薇園が見頃だったんだ」
「あれが全部薔薇ですか? 素敵!」
「あぁ、秋になるとまた開花の時期になるから見に来るといい」
「本当ですか? 約束ですよ!」
マールは人前ではにこやかに話をする。つまり、外面がいい。二人の会話を黙って聞いていると、メイドが見計らうように食事を運んで来た。トマト味のリングイカが多量に入ったパスタだった。この間までエリィが暮らしていたバルト国の名物料理で、彼女の好物と聞いて特別にシェフに作らせたのだ、とマールが言えばエリィは嬉しそうに笑った。
エリィはこれまでバルト王国、ソネチア公国、ガロン王国の三国で暮らしてきて三ヶ国語話せるらしい。姉が二人、兄が一人いて、自分だけ年の離れた末っ子であること、父親と各地へ旅行へ行くのが好きなこと、外国で仲良くなった友達の話や変わった祭りの様子なんかを留めどなく話した。それに対しマールが色々と質問をしていく。わたしも時折口を挟んで笑って聞いていた。単純に知らない国の話は興味深く楽しかった。喧嘩する気満々で来たのに拍子抜けだった。わたしには前前世の柵があるが、エリィからしたら完全な初対面だ。当然と言えば当然か。こっちから嗾ける気はない。このまま和やかランチで終わるのか。若干残念ではあるが、まぁいいか。思った矢先、
「サラ様は、無口な方なんですね」
「え?」
「さっきから全然お話になっていらっしゃらないですよ」
やっぱり無理だと悟った。エリィとは生理的に合わないらしい。
また百合子の胸糞悪い記憶がフラッシュバックした。
あれは林間学校だったか。
百合子はクラスの目立つタイプの女子と同じグループに割り振られた。二人で野菜を切る係かなんかをやっていたと思う。苦手意識はあったけれど、大人しい百合子にしてはその子に合わせて結構ハイテンションで話をしていた。ぎこちないながら会話はそれなりに続いた。良かったと思った。が、別の係の子が様子を見に来るとその子は言った。
「わたしもそっちの班が良かった。だって百合子ちゃん、全然喋ってくれないんだもん」
瞬間、顔から火が出るような羞恥心に見舞われ、絶望的に悲しくなった。確かに会話は弾んではいなかった。でも、まずまず仲良くできていると思っていた。だけどその子は別の子が良かったのだと平然と言った。そしてそれは百合子がしゃべらなくて面白くないからだ、と。ショックだった。申し訳なかった。わたしが悪い。わたしが無口だから。わたしがつまらないから。泣きたかった。でも、泣いていることを知られたくなくて、
「わたし、人見知りで……」
とどうにか笑って小さく返した。頑張って喋っていたのにな、楽しい気持ちだったのにな、と涙を隠してへらへら笑って野菜を切った。
……はぁ?
理不尽すぎて、話にならない。なんだそれ。
「わたしはちゃんと喋っていただろうが。ただお前と話が合わなかっただけだ。わたしだって自分の仲の良い友達となら、もっと楽しく何時間でも話せるんだよ。だけどそんなことは言わないんだよ。お前に失礼だからな。会話は二人でするものだから、楽しくないのは半分お前のせいなんだよ。何を勝手にわたしのせいにしてくれているわけ? わたしからしたら、お前こそがつまらないんだよ!」
と大人の百合子は時折思い出してはブチ切れまくっていた。
自称「誰とでも仲良くなれる人間」は仲良くなれないことを相手のせいにするから始末が悪い。よほど百合子を下に見ていたのだろう。大泣きして大惨事にしてやれば良かった。目立ちたくなくて隠すなんて愚かだ。最低限「わたしも別の班が良かった。代わってもらえたらいいのにね」くらいの嫌味は返すべきだった。そう、だから、わたしは黙り込んで泣き寝入りなどはしない。
「どうしてそんなことおっしゃるの?」
「え?」
わたしの質問に今度はエリィが戸惑いの声を上げた。驚いている風にも見える。どう反応することを期待していたのだろうか。「わたし人見知りなんで、えへへ」なんて死んでも言いませんが。
「わたしは楽しく話をしているつもりだったのですが、エリィ様はわたしだけ会話に入っていないような言い方をされるので、どうしてそんなことをわざわざおっしゃるのか知りたいんです」
「え、いや、わたしはそんなつもりでは……」
告げるとエリィはたちまち更なる困惑の表情を浮かべた。予想外の展開なんだろう。大体こんな台詞を吐くのは「わたしがこんなに楽しい話をしてあげているのにノリが悪い」と言いたいだけにしか解釈できない。もし違うなら真意を教えて頂きたい。
「では、どんなつもりだったのですか?」
「……もっと沢山話したいな、と思っただけです」
「無口な方なんですね、と決めつけられたら余計話しづらくなると思いますけれど」
「サラ、何を言ってるんだ。エリィ嬢はお前に気を遣ってくれたのだろう」
マールが割って入る。女子の喧嘩にしゃしゃり出てくるな。尤もわたしは素朴な疑問を尋ねているだけだけど。
「わたしは悲しい気持ちになったので、それを気遣いと言われても困ります」
「サラ」
嗜めるようにマールはわたしの名を呼んだ。確かにわたしの発言で場の空気は悪くなった。だけど、言わなければわたしだけが不愉快だった。だったらこれで正解だ。エリィがわたしを不快にさせたのに、わたしだけが我慢する謂れははない。そういうのは一切やめたから。
「……ごめんなさい。余計なことを言って」
「エリィ嬢が謝る必要はない」
じゃあ、誰が謝る必要があるのか。マールと目が合う。明らかに謝罪を要求する目つきだ。いやいやなんで? 諸悪の根源はエリィでしょ。かつてのサラちゃんや幼かった百合子が、いつもいつも空気を読んで気を遣って我慢したから、こんな不穏は露見しなかったけれども、わたしは違う。無神経な相手に無神経に返しただけだ。
「いえ、別にいいですよ。無口が悪いわけでもないですものね」
謝罪するなら深く追求するのはやめる。マールの強い視線を感じるけれどパスタをフォークに巻き付けて口に運んだ。
「エリィ嬢、すまない。後で注意しておくから」
「え! そんな、マール殿下が謝ることじゃありません!」
だから誰が謝るべきだと言うのか。何の茶番だ。注意って何だ。馬鹿馬鹿しいので無視してパスタを食べすすめる。わたしが折れる様子がないとわかったのか、マールが取りなすように会話を繋いだが、空気は緊張したままだった。マールの問い掛けにエリィとわたしが交互に返事をして、エリィに何か言われれば応じたけれど、それ以外は真顔でパスタを食べ続けた。だって、わたしはそれまでエリィの話を感じよく笑ってうんうん聞いていたのに「無口でしゃべらない」と評価を受けたのだ。無駄な愛想を振りまくことはやめた。昔はこんな状態になるのが嫌で我慢したが、喧嘩両成敗ならぬ、不快両成敗でいいのではないか。
それから食事を終えると、メイドが冷えたママーレードのレモンゼリーを運んできてくれた。冷蔵庫がないから夏場に冷たいデザートは高級品だ。氷室で保存している氷を運んで冷却しているから。ゼリーもエリィの好物らしく、感動したように頬を上気させて喜んでいた。わたしはあまり好きじゃない。デザートまでエリィに合わせるのは不公平なんじゃないか。そんなにエリィをもてなしたいならマールが一人でもてなせばいいのに。まぁ、こっちもやりたいようにやるので構わないけれど。
かくして不穏の昼食会は幕を閉じた。マールの注意とやらが待っているなら、どうぞお好きに。わたしは何も悪くない。
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