第10話 メサイア級の闘争 2/2
「ハハッ、ツカまえたッ! このままワタシのモノにしてあげる……」
歓喜の声をあげたラムダは宙吊りとなったアルの体をツタで侵食し始める。
不快感にアルの表情が歪むが、すぐに左手の剣でツタを切ると、そのままバックステップで後退する。
「ニがさないッ……」
逃げるアルにラムダが追いすがる。
ここで同じメサイア級の体を手に入れられればもっと強くなれるのだ。これを逃さない手はなかった。
だが、それを見たアルは不敵にニヤッと笑う。
ラムダがその意味を理解する前に横から一台の車が衝突し、華奢な体を吹っ飛ばした。
「アンタ、こんなところで戦闘してたの?」
「ナイスタイミングですッ。ナナさん」
バギーの運転席にいたナナに軽く礼を言って、後尾座席に積み込まれていた棺桶に触れる。
「
声と共に棺桶は持ち主の命に従って形態を変化させ、やがて六本の銃身を持つガトリングガンに形を変える。
腰だめに構えたアルは十五メートル以上離れたところにいるラムダに向けて弾丸をバラ撒いた。
絶え間なく続く銃撃の雨がラムダに降り注ぐ。
ガトリングガンを斉射したままナナに大声で話しかけた。
「ナナさんッ。ひとつ、作戦があるんですが協力してもらえますか?」
「……どんな作戦?」
至極単純な作戦の詳細を説明し、それを聞いたナナは驚いた顔でこちらを見返してきた。
「本気? それでアンタは大丈夫なの」
「この程度、覚悟のうちですよ」
苦笑気味にそう答えるとナナは首を縦に振って頷く。
「時間を稼いでッ。他はこっちのタイミングでやるわよ」
「頼みます」
短く答えると、ナナは愛用の狙撃銃であるサックスを手に取ってどこかに走っていく。
その姿が見えなくなるまでを見届けていると、鞭のようのしなったツタが振り下ろされその場から飛びのいた。
バギーはツタの直撃を受けてひとたまりもなく大破し炎上。
それを横目で収めながら地面に着地して引き金から手を離し、意識を集中させる。
「
一度元の形に戻った棺桶は形を保ったまま再び展開していき、洗練されたひとつの形を成していく。
銃器教典の中でも最高クラスの威力を誇る武器――小型の
土煙から現れたラムダはあれだけの攻撃を受けながらほとんど無傷といっても支障ない程度の傷しか負っていなかった。
両者は互いの隙を窺って無言で睨み合う。
先に動いたのはラムダだった。
ツタを触手のように飛ばしながら自らも前方へと大きく踏み込んで距離を詰めてくる。
それに連動して引き金に力を入れようと動くが、ラムダのツタが一歩早く襲いかかって体を掠めていく。
そして距離が十メートルを切った瞬間、レールガンに装填された飛翔体が発射された。
身体の芯に響くような重い衝撃と共にラムダの左上半身が抉られたように消え失せる。
しかしそれで二人の勝敗は決していた。
第二射を放つよりも先に、束ねられたツタが深々とアルの胸部に突き刺さったのだ。
「ワタシの……、カちだ」
一気にツタを侵食させ、核の制御を奪おうとする。
その不快感に耐えながら、アルは口から言葉を絞り出した。
「……いいえ。僕の勝ちです、ラムダ」
「なんだと……?」
彼の言葉の意味が分からず、ラムダは怪訝な表情をしたが、すぐにその意味を悟る。
アルの胸部には何もない空白が広がっており、どれだけツタを這わせても核が収まっているはずの場所には何もなかったのだ。
そんなラムダの混乱を気にせず、アルは言葉を続ける。
「僕は……人との間に繋ぎました。あなたには見えず、諦めたものをです。だけどもっと繋がなきゃいけない。あなたを倒すことがその第一歩です」
「ナニを――」
その瞬間ラムダの体がガクンっと揺れた。
数歩たたらを踏んでからゆっくりと視線を下げると、胸部には穴が空いて露出した中身がスパークを放っている。
自らの核を撃ち抜かれたラムダは、射線を辿ってゆっくりと背後を振りかえった。
百メートルほど離れた場所――見張り台の窓からスコープ越しにラムダを見たナナはその額にピタリと銃口を合わせる。
「これで――終わりよ」
ナナが引き金を引く。
弾丸は吸い込まれるようにラムダの額にめり込み、暴力的な運動エネルギーがその頭を爆散させた。
制御を失った体がゆっくりとその身を地面に横たえる。
そうしてメサイア級第十一号機――ラムダはあっけなく機能を完全に停止した。
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