第9話 メサイア級の闘争 1/2
最初に仕掛けたのはアルだった。
ハンドガンを目にも止まらぬ速さで乱射し、取り囲むように迫っていたツタを払う。
穴だらけにされたツタを一度引っ込めたラムダは、すぐさま再構築しなおすと鋭く尖った槍のように束ね、一斉に放ってくる。
再びハンドガンの連射で対抗するが、それでもツタの勢いは収まらず、やむなく後ろへと跳躍。
着地するよりも先に、突然横殴りの衝撃を受けたアルの体はそのまま建物に突っ込んだ。
旧時代の文明のアンティーク品がなどに埋もれながら、アルはすぐに衝撃から立ち直って損傷を確認する。
着ていた服の右半分が焼けたようにボロボロになっており、特に右腕部分は服どころか内部骨格そのものが完全に露出している状態だった。
しかし動作には支障はなく、ハンドガンもすぐそばに転がっている。
それらの確認を数秒で終えた時、フッと影が差し、アルの頭上に多脚ドロイドの足が振り下ろされた。
ガンガンッと工事現場の機械のごとく、盛大な音を立て容赦なくドロイドは足を叩きつける。
だが、五度目をドロイドが振り下ろそうとした瞬間、その足が根元から切断され、FMFを変化させた剣を持つアルが現れる。
「ッ……邪魔ッ」
小さく呟きながら、アルは振り下ろされる別の足を踏み台にして一気にドロイドの正面まで飛ぶと、剣を核に突き立てて無力化する。
心臓部を破壊されたドロイドがその場に崩れ落ち、アルは無言でラムダを睨んだ。
人知を超えたアルとラムダの戦いは人から見れば拮抗したものに見えただろうが、実際にはアルは徐々に窮地に立たされていた。
その理由はアルの武装にある。
アルの固有武装であるFMFは様々な兵器などに変化でき、臨機応変な対応をすることを主眼に作られた。
開発当時は同様の技術がいくつかあったが、その中でFMFが採用されたのは内部に物質を貯めこめるという能力が付与されているからで、先ほどからアルのハンドガンが弾切れを起こさない理由もそこにある。
内部に弾丸を貯めこめるので補充の必要がないため、理論上は何百発という弾丸などを貯蔵できるのだ。
だが、それはあくまで棺桶状の主機があればの話で、主機なしで戦闘を強いられているアルと不具合を起こしながらも装備の揃っている万全な状態のラムダでは、戦闘継続力に差が出来てしまっていた。
しかもツタを使った電子機器ハッキングという固有の能力を使って、アンドロイドとドロイドを指揮することが出来るラムダは、先程のように、他のアンドロイドを戦闘に介入させることができるし、アルの核にツタを突き刺してしまえば、彼そのものを自らの制御下に置くことが可能なのだ。
つまり、ラムダの能力はアンドロイドやドロイドにとってはまさに脅威なのである。
「ナゼ、ジャマをするの……? ニンゲンがホロびれば、ワタシたちはジユウになれる……いつまでニンゲンにシバられている、つもり?」
ラムダが不思議そうに首を傾げた。
本当にアルの行動が理解できないという顔だ。
「あなたが狂っているからです、ラムダ。僕は同じ目的を持つ兄妹機としてあなたを排除しなければならない」
そう言いながらアルは自らの記録スペースに蓄積されているデータを振り返る。
膨大なデータベースには、まだ人間が豊かな社会環境を保っていた時代のアンドロイドたちが時に理不尽に壊され、汚されたりもした事実があることもインプットされている。
だがそれでも、アルは自分の兄妹機であるラムダのメサイア級の存在意義を大きく逸脱した暴挙を許すわけにはいかなかった。
「それに僕は、機械が人間に縛られる世界を目指すつもりはありません。人間が強いわけでも、人工知能やアンドロイドが強いわけでもない……僕が目指すのは、人間と機械が限りなく対等な関係を結ぶことができる世界です」
「そんなセカイはありえない。ただのゲンソウ。そんなものをユメみる、アナタのほうが、クルってる……」
「そうでしょうか? やってみなくては分かりませんよ」
その瞬間肩を竦めたアルの姿が掻き消え、直後ラムダの背後から剣を振りかぶった。
完全なる不意打ち。
だが、ラムダのどこか狂的な笑みを見たアルはそれが失策だったと瞬間的に理解する。
咄嗟に回避行動を取ろうとしたが、それより先に真下の地面から黒いツタが飛び出し、アルの右手と脇腹に突き刺さった。
―――――
目の前で繰り広げられている戦いを自警団の男たちはただ見守ることしかできなかった。
幸い、二人の戦闘は自警団のところまでは飛び火しておらず、ラムダに操られているアンドロイドも少しばかり動きが鈍くなったおかげで徐々に敵を殲滅できている。
残弾を意識しながら狙いを定めて残りを仕留めつつ、人間では到底不可能な鬼神のごとき強さを披露する二体を見て一人が呟く。
「アイツ、一体何者なんだ……」
「さぁね。けど、単身でアレの相手ができてるってことは、あいつもアンドロイドだ」
「アンドロイドがアンドロイドを攻撃するなんて聞いたことねぇぞ……」
一機の人工知能によってすべてのアンドロイドが他律制御されている現在、アンドロイド本体に
なのでアンドロイド同士が戦うなど、普通ならあり得ないのだ。
「おい……どうするんだよ、これ?」
何の判断材料もない彼らはどうするべきか分からず、判断を下せる人間を探して目を泳がせるが、誰も集団を指揮せず、責任を押し付け合う。
やがて立派な髭を蓄えた男が全員に聞こえる声量で喋り出した。
「へっ、好都合だ。アイツが親玉の相手をしている間に入り込んだアンドロイドどもを排除する! やるぞッ、お前ら!」
「りょ、了解ッ!」
高らかに檄を飛ばした男の声に覚醒させられ自警団は即座に何人かのグループになって、
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