第8話 巻き起こる騒乱 2/2
この国には地上と地下を行き来するための通路は二つしかない。
国の北側にある第一シャフトと反対側にある第二シャフトである。
そして現在、第一シャフトからなだれ込んだアンドロイドたちによって地獄絵図な光景が広がっていた。
「おいッ、誰か来てくれ! ユウキの奴がやられたッ」
「早く運び出せッ! 戦闘継続できない奴も同様に下がらせろ!」
「市民も逃がせッ! 戦闘の邪魔だ、
「クソッ! 撃っても、撃ってもまだ湧いて来やがるッ!」
「キリがないぞッ!」
「冷静になれッ、後退しつつ応戦しろ! 落ち着いてやれば問題ないッ」
「こんなところで冷静でいられるかッ!」
地面にはいくつかの人間の死体が転がっており、それを踏み潰すようにアンドロイドと多脚ドロイドたちが行進する。
自警団などを中心とした戦える人間たちは銃を取り、怒号と飛び交わしながら瓦礫に隠れつつ応戦していた。
しかしアンドロイドのボディは頑丈で、一体倒すごとに居場所を特定された仲間の数人が多脚ドロイドの砲撃の犠牲になるというジリ貧な戦いを強いられている。
蜘蛛に似た八本足の多脚ドロイドが応戦する人間を、瓦礫ごと砲撃で次々に吹き飛ばし、アンドロイドは人間が隠れていそうな場所に足を踏み入れては数発の銃声を響かせる。
数十分前の平穏が嘘のように崩れたここは、今まさに地獄と化していた。
「クソッ、ここは電波が遮断されてアンドロイドは入ってこれないはずだろ!?」
周囲の状況に恐怖しながらライフルを発砲する男が叫ぶ。
確かに国は電波遮断材で覆われており、他律動作のアンドロイドは侵入が不可能な構造になっている。
それにもかかわらず、アンドロイドが動作を止める気配は一切ない。
「多分、国の外から操られてないんだ」
「はぁ?」
隣で冷静に戦況を観察する相棒の言葉に、ライフルを乱射していた男は素っ頓狂な声を上げる。
「よく見ろ。奴らの体に黒いツタみたいなものが絡まってる。恐らくは一番後ろにいるあのアンドロイドがこいつらを操っているんだ」
そう言われて男が乱射していたライフルの
確かにアンドロイドたちには黒いツタのようなものがまとわりついており、集団に奥にはあちこちからツタを生やした少女型のアンドロイドがいた。
「じゃあ、アイツを壊せばこいつらは止まるんだな」
「待てッ、そう簡単には――」
親玉であるアンドロイドを倒そうと前に出ようとした男を相棒が制止したその時、真横を風のような速度で何かが通り抜け、自警団とアンドロイドたちの間に割って入る。
「やっぱり、ですか。久しぶりですね、ラムダ」
「……………」
両者の間に割って入ったアルは、全身からツタを生やしたアンドロイドに沈痛な感情の入り混じった表情で笑いかける。
ラムダと呼ばれた少女型アンドロイドは酷く濁った虚無的な視線を向ける。
メサイア級第十一号機――通称、ラムダ。
初号機であるアルと同じく、世界を救済するために作られたメサイア級の一体であり、人間で言えば、アルの妹にあたる存在。
普通なら感動的な兄妹機の再会であり、一種の感慨深いものがあるのかもしれないが、アルは目の前のラムダの姿に悲しそうな顔をする。
「なぜこんなことを? 僕たちメサイア級は世界を……人を救うために作られた。なのにあなたのやっているのは人類に対する破壊と殺戮です」
「…………」
ラムダは考え込んでいるのか、先ほどと同じように無言を貫く。
「気でも狂いましたか?」
「…………チガう」
故障しているのか、まるで老婆のような嗄れた声でラムダが応える。
だがその顔には表情と呼べるものが一切浮かんでいない。
「ワタシは、キヅいたの……。ヒトは……マモるにアタイしないソンザイよ…………。ワタシのカクが、ソレをケッテイした」
「あり得ません。僕たちは人を守るためにプログラムされた。ラムダ、あなたはエラーを起こしている」
指摘すると同時に、ラムダから伸びた長いツタが鞭のように振り下ろされ、数メートル後ろに退く。
「ワタシはもう……、ケツダン、した。ジャマを、するなら……、ハカイする」
完全に決別を表明したラムダの言葉に僅かに目を見開いてから噛みしめるように顔を伏せる。
見た目からでもわかるように、ラムダになんらかの
言葉は決して届きはしない。ならば選択肢はひとつしかない。
伏せていた顔を上げ、ゆっくりと目を開けた。
「あなたが戦うというなら仕方ありません……。こんな結果になるのは残念です」
アルは呟きながらFMFを変化させ作り出した二丁のハンドガンをラムダに向けて構える。
「ラムダ。僕は――あなたを破壊します」
そして世界最高峰とも言える性能を持つ兄妹機争いの火ぶたが切られた。
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