第19話 刺し身は美味しい

 クラーケンを倒したカズキは、サラとカエデに頼んでクラーケンを魔法でバラバラにしてもらい、一部は観光客に分けて異空間に収めた。

 

 今日のカズキはもう歩くぐらいしか出来なくなっている為、サラとカエデもカズキの事を心配してこの後の時間は宿で過ごす事に決めた。


「ごめん、なんか退屈させちゃったな」


 クラーケンを倒す為とはいえ、自分が動けないせいでサラとカエデが遠慮しているのではないかと、カズキは二人に謝罪するが、


「気にせんでええよ。充分楽しめたしなぁ」


「そうね、後は夜を楽しみにしておけばいいのよ」


 ここの宿は街の中でもかなりお高めの宿で、料理を部屋で食べる事が出来る。そこでカズキは、宿に魚を何種類か提供する代わりに、生のまま切って持ってきてほしいと提案した。

 宿側としては魚がタダで手に入ったこともあり、快く了承し、夕食の時間は予定していた料理よりも高めのものを提供すると言った。


「まだ時間あるし、お風呂入りに行かへん? 露天風呂っていうのがあるらしいわ」


「よしすぐ行こう」


 思いの外風呂好きなカズキは、露天風呂というワードに惹きつけられてすぐに立ち上がった。

 まだ午後四時頃で風呂に入るには早い時間だろうが、昼をパンで済ませていた三人は夕食の時間を少し早めに頼んでいる為、入るなら妥当な時間である。


「あ、混浴露天風呂もあるらしいから一緒に入るわよ」


 サラに混浴の存在を知らされ、カズキは動き出そうとしていた体を止めた。


「……」


「ウチらは成人するまで待つつもりやけど、今のうちに裸ぐらいは慣れとかんとあかんで?」


「心を読むな!」


 未だにまだ一緒に入る事に恥ずかしさが湧いてくるカズキに対し、サラとカエデは少し顔を赤らめながらもまだ余裕がある。


「もう! いいから行くわよ!」


「あー……」


 サラに手を掴まれたカズキは、そのまま風呂に連行されてしまった。




  ◆



 露天風呂を堪能した三人は、部屋にゆっくりと歩いて向かっていた。


「はぁぁ〜、サッパリした!」


「温泉っていいわね。肌が若返ったみたい」


(……まだ若いじゃん)


 サラとカエデは機嫌がいいようだが、カズキは自分で洗うと言っているのに二人に体を洗われて軽い放心状態になっていた。

 残念ながら浴衣はないようで、カズキはサラの浴衣姿を拝むことはない。


「はぁ……カエデはずっと浴衣だな」


「そうやね。前も言うたけど、浴衣がしっくりくるんよ」


 カエデはフロストに来た次の日から服屋に行き、浴衣と同じ服を作ってもらっていた。おかげで柄は違うものの、カエデ専用の浴衣が何枚もある。


「俺ももう浴衣じゃないと変な感じするわ」


「そうね、すっかり見慣れちゃったもの」

 

 カエデの場合は、もはや浴衣が一番似合う服と言ってもいいレベルで浴衣が似合っている。それをカズキとサラは今までで分かっている為、むしろ浴衣を着ない方が変に見えるレベルまできていた。


「お客様、夕食の準備が出来ていますが、ご用意いたしましょうか?」


 宿の職員がカズキ達を見かけ、声をかけにいく。


「あ、お願いします」


「かしこまりました。少々お待ち下さい」


 返事を聞いた職員はすぐに料理の準備をしに向かった。


「楽しみやなぁ。カズキが言うには絶対美味しいんやろ?」


「アレルギーでもなければほとんど気にいると思うぞ」


「早く部屋に戻りましょう」


 部屋に戻り、しばらく待っていると次々と料理が運ばれてきて、カズキが待ち望んでいた刺身の盛り合わせも人数分用意されている。


「あの、魚は生でご用意いたしましたが、本当によろしかったのでしょうか?」


「大丈夫ですよ」


「分かりました。ではごゆるりと」


 しばらくすれば食器を下げに戻ってくるらしいので、それまではゆっくりと食事が楽しめる。

 カズキは事前にある二つのもののがあるかどうか宿に聞いていたのだが、無事にあるようで、小さめの皿に入れられている。


「刺身はこのソウソースっていう黒いやつにつけて食べるんだ。お好みでこの黄緑のワサビってやつもつけたらいいし」


「じゃあ……早速食べてみようかしら」


 サラは箸を使って上手くグロマの刺身を掴み、ソウソースにつけて口に運んだ。


「……んっ! 美味しい!」


 どうやらサラの舌にあったようで、他の刺身にも手を付けていく。

 カエデもそれを見て警戒心はなくなり、結局名前がそのままだったタイを食べる。


「んー! ほんまに美味しいわ! 魚生で食べた方が美味しいやん」


「だろ? 流行るぜ、これは」


 その他の料理も流石高いだけあってどれも味のレベルは高く、あっという間に全ての料理を食べてしまった。


 その後は各自でのんびりの過ごし、夜は三人で川の字になって眠る。

 ハプニングもあったが、三人にとってとても有意義な旅行となった。

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