第18話 クラーケン襲来
カズキは久しぶりの海を満喫していた。唯一の不満はゴーグルがない事で、そこに関しては『
「もう結構泳げるようになったな」
「コツ掴んだら簡単やったわ。おおきに」
初めは両手を持ってバタ足から始めたのだが、水に顔をつける事に少しだけ苦労しつつも、慣れてからはスムーズに進んだ。そして十分もすればカエデはセンスを発揮して、スイスイと泳げるようになった。
泳げるようになった時の無邪気で嬉しそうな顔にカズキは癒やされつつも、水中にいる小さな魚と泳ぐのを楽しんだ。
「カエデも泳げるようになったし、そろそろ魚でも捕まえる?」
カズキと一緒にカエデに泳ぎを教えていたサラが、泳ぐのは満足したと言うような顔で聞いてくる。ビーチボールなどの遊べる道具があればよかったのだが、残念ながら無い。流石にずっと泳いでいるのは疲れる為、気分転換も兼ねての食べられる魚探しだ。
「毒持ってる魚もいるかもしれないし、『
カズキは『
「んー……おっ、寄生虫持ってるやつも毒持ってるのもいないぞ。これならまじで捕り放題だ。それじゃあ、この網の中に入れていこう」
荷物の中に入れていた網を人数分用意して、カズキはサラとカエデに渡す。
「じゃあ早速何匹か仕留めてくるわ」
そう言ってカエデは颯爽と海の中に消えていった。
カズキはさっきから思っていた事があり、サラとカエデは目が痛くならないのかという点だ。二人は魔法で目を守っている訳ではないのに、海の中でガッツリと目を開けていた。
「じゃあ私も行ってくるわね」
カエデが行ってすぐに、サラも続いて海の中に消える。
やはり異世界人は体の作りそのものが違うのか、とカズキは釈然としない気分のままサラに続いて海に潜る。
(さて……鮭捕りたいけどここでは川でしか捕れないらしいし、狙うなら鯛もどきかマグロもどきだな)
カズキは思い切って沖の方でかなり深くまで潜った。海藻や岩の間には小魚や熱帯魚らしき魚がうろちょろとしているが、カズキの狙いでは無いので今はスルーする。
肺活量も前とは雲泥の差で、地球では三十秒潜れればいいところだったのが、この体では何分でも潜れそうなほどだ。
(おっ、あれめっちゃ鯛っぽい!)
しばらくカズキが潜り続けていると、タイのような見た目をした赤い魚の姿が目に入る。体長は大体五十センチ程の大物で、これをカズキが逃がす訳がなかった。
ここで詠唱しては気付かれる可能性がある為、カズキは成功率の低い無詠唱での魔法を試みる。
ゆっくりと近付き、魔力を球体の形にしてイメージする。今回は成功したようで、球体の形をした魔力の壁が完成した。
(気絶させる程度に……)
威力を制限した『
(このやり方もいいけど、やっぱり殺しちゃった方が楽かもな。サラとカエデもやっちゃってるし……)
サラは光属性魔法の『
(順調なのはいいけど、魚の種類はあんまり詳しくないんだよな……今度勉強しとこ)
適当な考えで魚を捕ると言っていたカズキは、勉強不足だったことに反省しながらどんどんと砂浜から離れたところに潜っていく。
「おぼっ! あれぶぁ!」
カズキは偶にテレビに見ることがあるあの巨体に似たような魚を目にした。それは自分の身長よりも大きく、かなり肥えているマグロのような魚だ。
(……間違いない! あれがグロマ!)
マグロと言い切ってしまいたいのだが、この世界では『
(ええい! そんな事はどうでもいい! 絶対あれゲットする!)
マグロは海の中を超スピードで泳いでいる為、カズキもそれに対抗して『
(よっしゃー! テレビで捌き方は何回も見てたし多分捌ける! これは嬉しい!)
網に入り切らない程大きい為、尻尾を掴んで水面に上がる。
「ふぅ……このズッシリした感じがいいな。油ものってそうだ」
鯛もどきが本当にカズキが思っている鯛なのかは後々確認するとして、カズキは目標を達成したので砂浜に向かって泳ぎ出す。
サラとカエデは既に砂浜に上がっており、網の中にかなりの量の魚が入っていた。
「あれは異空間に収納するとして……ん?」
あと少しで砂に足がつくというところで、後ろから大きな波が押し寄せてくる。後ろを振り返るとだんだんの一部の水面が上がってきていて、嫌な予感がしたカズキは急いで砂浜に向かう。
「やばい! みんな逃げろ!」
『
だが、時すでに遅し。盛り上がった水面と共に、超巨大なイカのような生物が出現した。
砂浜一帯に観光客の悲鳴が響き渡り、一目散に逃げていく人や、恐怖によって足がすくんで動けない人がいる。
「サラ! あれは何なんだ!?」
「クラーケンよ。それも討伐ランクSのね」
サラはクラーケンの存在を知っていたようで、驚きはしているものの冷静さは保っている。
「へぇ、あれがクラーケンなんや。初めて見るわ」
カエデに関しては少し驚かなさすぎなのだが、恐らく自分なら倒せるという自信からきているのだろうとカズキは予想した。
「……滅茶苦茶でかいな、あれ」
カエデがドラゴンになった時よりも大きいその体は、足で叩かれれば一溜まりもないだろう。
「ほなカズキ、相手頼むな」
「え?」
てっきりカエデも一緒に戦ってくれるのかと思っていたカズキは、あっさりと自分に相手を任されて呆然とする。
「そらそうやん。竜化したらなんとかなるかもしれんけど、今ここで竜化したら騒ぎになる。今のウチじゃとてもとても……」
「私も無理よ。あんなの相手にするなんて死にたいって言ってるのと同じだし……」
「俺任せかよ……。正直俺もあれ倒せるかって言われたらちょっと分からないんだけど……」
不安はあるにしても、頼られているのだから答えないカズキではなかった。
「──よし!」
カズキは『
くねくねと足を動かしているクラーケンにカズキは正面から向かっていき、思い切りその無防備な胴体めがけて拳を繰り出した。
「ハアッ!」
拳が胴体に命中するも、ブニュンという音と共に軽く仰け反るだけで、クラーケンは直ぐに起き上がってきた。
「あっ、大して効いてないんだ」
落下しながらクラーケンの防御力にあ然としているカズキに、クラーケンの足による突きが飛んでくる。
「ゴフッ!?」
思った以上に速さのある突きに、カズキは防御が間に合わずもろに一撃を食らい、砂浜に頭から突っ込んだ。カズキは情けない格好で体をピクピクとさせている。
「か、カズキ!? 大丈夫なん!?」
カエデの隣に飛ばされたカズキに駆け寄るカエデ。すぐにサラもカズキのもとに向かう。カズキが簡単に吹き飛ばされた事に、流石の二人にも不安の色が隠しきれなくなっている。
しかしカズキは砂から腕を出し、引っ張り出してくれとジェスチャーする。意味を読み取った二人は二人で片方ずつ足首を持ち、思い切り引っ張った。
「ゲホッ! ゴボッゴホッ! クソ、やりやがったなあいつ……」
ダメージはあるのか腹を抑えつつも、ピンピンとしているカズキに二人は安堵する。
カズキは口に入った砂を唾液と共に吐き出したあと、
「もう分かった。全力でいく!」
いつの間にかその場にいる観光客からも、カズキに声援が送られている。
カズキは『
「殺して食ってやる!」
ドンッと地面を蹴る音共にカズキの姿が消え、クラーケンの目の前にいた。
「うらぁっ!」
先程とは桁違いの威力の拳がクラーケンにヒットし、今度は完全に後ろに倒れていく。そこに畳み掛けるように、『
そして魔力の壁を思い切り蹴り、そのまま足をクラーケンに向けて突き出した。
ドパァン!
スナイパーライフルでも撃ったかのような音がして、クラーケンの胴体を貫いた。
「……あれなんて言うんやったっけ?」
「えっと……オーバーキル? じゃなかったかしら」
ピクリとも動かなくなったクラーケンを見て、歓声が湧き上がる。
(……うん、体動かない)
持続時間が切れ、魔法の代償として体が殆ど動かなくなっているカズキは、クラーケンの隣でプカプカと水面に浮かんでいる。
「さ、カズキ迎えに行ったろ。体動かんようやしね」
「そうね」
サラとカエデの二人は、動けなくなっているカズキのもとに向かった。
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