第17話 海は最高です

 海に行くと言ってから五日後の午前九時半頃、カズキ達は馬車を借りてフロストから一番近い海沿いの街のアルディアに来ていた。


「おお……絶景だ」


 街からは海が見え、太陽光によって水面が光っているその光景は、カズキの視線を吸い寄せるのには充分だった。


「こうやって海見るんも久しぶりやわぁ」


「私も二十年ぐらいは見てなかったわ。かなり楽しみね」


 カズキは泳ぐつもりでいて、唯一の不安がこの世界に水着は売っているのかということだった。

 だが、ちゃんと水着が売っていた為、既に購入済みである。


(新鮮な魚が食べられるだけじゃない……俺はサラとカエデがいる生活が当たり前になってたんだ。今日やっと……異世界の美女と美少女……の水着姿が拝めるときが来た!)


「ふっふっふ……」


 カズキにしては珍しいような、嫌らしい笑みを浮かべて妄想している。下着姿を見るのと水着姿を見るのとはまた違うのだ。


「なんかあんなカズキ初めて見るんやけど……」


 ほんの少し引き気味でサラに耳打ちで話すカエデ。


「そ、そうね……」


 普段はあまり欲を出さない性格のカズキだが、刺し身と彼女の水着姿を想像すると我慢できなかった。可愛い彼女が二人いる生活に慣れるのは、ある意味恐ろしいものである。


「──おっ、砂浜が見えてきた」


 今回カズキ達が来た海は、入場料が金貨一枚という結構高額の海である。何故かというと、海が綺麗なのは言わずもがなで、泳いでいる魚が取り放題だからだ。


 カズキはすぐに金貨三枚を受付で払い、更衣室で水着に着替えた。


「あっついな……これぞ海だ」


 太陽の光もそうだが、太陽で焼かれた砂から熱気が上がってきて砂浜の気温はかなり高くなっている。

 

 一方周りにも海を楽しんでいる客がいるわけだが、一部の女性の視線はカズキに向けられていた。


「ねえ、あの人凄くない?」


「うん、何があっても守ってくれそう……」


 カズキの完璧と言っていい程に鍛え上げられた肉体に、女性客は釘付けになっていた。それでもカズキは何か悪い事でもしたのだろうかと、視線の原因に気付かずにあたふたしながら砂浜にパラソルを立てていた。


「サラとカエデの水着……うへへ」


 視線の不安は妄想によってかき消され、もうすぐ水着姿を見られるとなると、カズキのにやけ顔は気持ち悪いものになっていた。


「おっと、つい顔が緩むな。落ち着け落ち着け」


 なんとかにやけ顔を落ち着かせた時に、カズキの視界に二人の姿が入ってきた。


「おまたせ。どう?」


「似合うかしら?」


 カエデの水着はフリルのついた水色と白の縞模様の水着で、髪の毛の色と相まって可愛さの化学反応が起きている。

 サラはシンプルな黒の水着だが、シンプルが故にスタイルの良さを引き立てていて、男子の殆どが二人に釘付けだった。


(……生きててよかった)


「……おーい、どないしたん?」


 意識が飛びかけていたカズキの目の前でカエデは手を振った。


「はっ!? ……ああ、天国に行きかけてたわ」


「似合ってるなら良かったわ」


 カズキは水着選びの際、自分の水着はサラとカエデが選んだのに、カエデとサラの水着を選ぶ時は別の場所で待機させられていた。

 その為、水着姿の二人を見るのは初めてなので、想像以上に感動が大きかった。


「うん、二人共滅茶苦茶似合ってる」


「そう、なら良かったわ」


「はっきりと言われると照れるわね」


 サラとカエデは満面の笑みを浮かべる。


「さて、泳ぐついでに魚もゲットしますか」


「そうね、行きましょうか」


 案外楽しみにしていたサラは軽く体を動かし、すぐに海に向かっていった。カズキもそれを追いかけようと走り出そうとするのだが、水着を掴まれたことでその歩みを止める。

 

「ん? どうかしたか?」


 カズキはすぐに後ろにいるカエデを見るのだが、その顔はかなり赤くなっていた。


「な、なあ、ウチ泳いだ事ないから……泳ぎ方教えてくれへん?」


「えっ?」


 まさか泳いだことがないとは思わず、カズキは驚きの声を上げた。


「しゃあないやん。ウチ空飛べるからずっと空飛んで移動してたし、泳ぐ必要なんかなかったんやから……」


「まあ、そうだな。空飛べたら水なんかいちいち入らなくていいもんな。そんな事で恥ずかしがってんの?」


「だって……もし全然泳げへんってなったら嫌やし」


 もじもじと恥ずかしそうにしているカエデは、カズキにとって可愛いの一言でしかなかった。


「何してるの二人共ー! 早く来てよ!」


 サラは既に水の中にいて、カズキとカエデを待っていた。


「よし分かった。ちゃんと泳ぎ方教えるから行こう。多分カエデならすぐ泳げるさ」


「……うん」


 カズキは少し不安そうにしているカエデの手を握り、海に向かって走り出した。

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