第15話 空を飛べるかもしれない
ある日の昼前、カズキとカエデはいつもの草原で、カズキは魔法を使わずカエデは魔法ありの模擬戦をしている。サラは買い物で別行動である。
カズキの魔法なしのルールはカズキの提案なのだが、こうなると竜化をしなくても素の能力が高いカエデには勝てない。
現在、カズキは防戦一方となっており、魔法から逃げでは接近されての繰り返しで全く反撃出来ていない。
「くっ……!」
能力に差があるため、ガードできたところで腕や足にダメージは蓄積される。拳を繰り出そうとも、腕でガードされてダメージは与えられない。
カエデに足払いをかけられ、思わずカズキは後ろに跳び上がり、体制を立て直そうとしたのだが、跳んだのがまずかった。
「『
カズキの足に水の鞭が巻き付き、地面に叩きつけられた。
「ぐふっ!? ……やっぱり勝てないわ。何その魔法」
カズキは立ち上がって体についた砂を払う。
「勝手に名付けたけどオリジナルやで。カズキと一緒に魔力操作の訓練したら色々思いついたんよ」
カエデは既に無詠唱で魔法を放つ事も出来る程、魔力操作が上手い。無属性以外の属性に適性のあるカエデにとっては、まさに鬼に金棒である。
「まあこんな事出来てもカズキが本気出したらウチ何もできひんもん。そっちの方がずるいで」
「まあ……無属性魔法使えるのはいいけど、後から倦怠感とか体の痛みやばいんだよ」
「ウチでも『
これもカエデだからなんとか十秒ぐらいはなんとか耐えられる訳で、普通の人なら五秒もすれば体が動かなくなってしまう程に体が壊れてしまう。
体の作りはカズキもカエデもおかしいのだが、カズキはおかしいの次元を超えている。
「まだまだ時間は伸ばせると思うんだ。レベル上げたら一分ももたないし、あと何日かしたらまたあの訓練はやるよ」
今までは日課となっていた『
それでもまだ強くなり足りないカズキは、近々再開するつもりでいたのだ。
「どこまで強くなる気なんよ。底が知れんわ」
呆れつつも笑いながら話すカエデだが、カズキとしては強くなれる限界を試す気でいる。
「敵がいなくなるぐらいかな。まあそうはならないだろうけど。カエデもやる? 魔力流すのは簡単だし、回復魔法使えるなら俺よりも効率いいだろ?」
「やってもいいんやけど……一日一回でええわ。そんな何回もやる程ウチは変態やないし」
素の能力が強く、竜化も出来るカエデはカズキの訓練方法はしなくても問題はない。
そもそもカズキが特別精神力が強いだけで、普通の人なら2日も耐えられないような無茶苦茶な訓練方法をしている。これも元のスペックが低いと感じたからやっている事で、天才などカズキの他にも山ほどいるだろう。
「変態て……まあそうかもな。俺は別に天才でもないし、だから天才よりも努力してやっと追いつけるんだよ」
「天才やなくてどちらかと言えば秀才やもんなぁ。強いて言うなら努力の天才……いや、化け物やね」
「化け物は酷くね!?」
反論するカズキだが、普段の訓練の様子を見ているカエデからすれば化け物と言えるほどなのだ。
当然本当の意味での化け物と言っている訳ではなく、
「比喩やんか比喩。恋人に化け物なんて本気で言う人なんかおらんわ」
「そうか、ならいいけど」
「……あとは戦闘技術やけど、まだ判断遅かったり立ち回り悪い時あるからなぁ。そこ気いつけたらもっと良うなるんちゃう?」
「だよなぁ……あそこで跳んだのはまずかった。空飛べたらいいんだけど、まだ無理だし」
カズキは意味深な事を口ずさむ。まるでいつかは空でも飛べると言っているようだ。
「……ん? 羽もないのにどうやって飛ぶんよ」
「発想だよ発想。この世界の人達は魔法やら詠唱やらに縛られすぎて頭は柔らかくないんだよ」
やれやれと肩をすくめて言うカズキに、
「むぅ、馬鹿にしてるん?」
「いやいや、周りがそうなんだから仕方ないさ。詠唱が基本となって魔法を発動するんだから、楽な方に進んでいくのは当たり前だ」
「……それで、どうやって空なんか飛ぶん?」
「魔力って見えないけど自分で操作は出来るだろ? その要領で体ごと魔力を移動させられないかって事だ。全身の魔力をコントロールして……」
口では簡単に言っているカズキだが、これまで何度も試みてはいるも成功した事がない。
今もカエデに見せようと実践してみるが、
「……あっ!? やべっ!?」
全身を操作できる程の魔力操作はまだ身についておらず、足だけが上に上がってそのまま地面に背中から落ちてしまった。
「痛っ!? ……ほらな? 出来そうだろ?」
「……なるほどなぁ。ウチは竜化して飛んでたし、人の姿で飛ぼうとか考えた事なかったわ」
「あと二年はかかりそうだけどな。飛べるようになれば戦略の幅も広がるだろうし」
仮に敵に囲まれた場合、空を飛んでしまえば逃げる事も空から攻撃する事も出来る。元々空を飛んでみたかったというのもあり、カズキは少し急ぎ気味で空を飛ぶ訓練をしていた。
「……まあウチは飛べるんやけどな」
「ん? そりゃ竜化すれば飛ぶなんて……へ?」
カズキはまさかと思っていたが、そのまさかでカエデは宙に浮いていた。
「あっ、人の姿やと久しぶりやからちょっと不安定やな」
しばらく空を飛び回り、カエデはゆっくりと地面に降りる。
「……なんでもう飛べんの?」
「これは固有魔法みたいな感じで、
(……俺の苦労はなんなの?)
自分が苦労している事をあっさりとやってのけたカエデに、カズキは嫉妬心を抱いた。ある時は腕だけが飛ぼうとして肩が外れかけ、次は地面に頭から突っ込んだりと幾度となく訓練していたのに、目の前であっさりとやられると流石に心へのダメージは大きい。
「固有魔法ね……」
改めて考えても理不尽だと、カズキは膝から崩れ落ちてガックリと項垂れる。
「そんな落ち込まんでも……。カズキの無属性魔法だって一種の固有魔法やで?」
「納得いかねえ……絶対飛べるようになってやる」
カズキは闘志を燃やしていた。これまでありえないと思っていた事が現実になりつつあり、なんでもやってやるという気になっていた。
「さて……お腹空いたんだけど」
「なんやのそれ。ふふっ……何か食べに行こ」
そう言ってカエデはカズキの腕に抱きついた。
「歩きにくいんだけど……」
「ええやん、いつものことやし」
カズキはため息をつきながらも、満更でもない様子で街に向かった。
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