第14話 面倒くさくてもいいじゃない

 依頼が終わり、カズキ達は村で一泊させてもらった後、すぐに街に帰った。

 街に戻ってすぐに、ナタリアにアースドラゴンの査定を頼み、カズキ達は一気にかなりのお金を手に入れている。


 この世界のお金は小銅貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨と順に価値が上がっていき、日本円に置き換えると十円、百円、千円、一万円、百万円となる。

 そして今回のドラゴンの査定額は、どちらも倒し方よく、血抜きも済ませていたおかげで白金貨六十枚にもなった。


 ユンゲルは少なめでいいと言ってくれた為、白金貨十枚だけを渡して残りはカズキ達の共同資産として貯金した。

 最後に倒したアースドラゴンは食材として異空間に保管している為、どうせなら依頼を達成したということでささやかなお祝いをしようとなった。

 そこでサラの家でナタリアとユンゲルも呼んで、五人でドラゴンの肉を焼いて酒を飲んでいる。

 勿論まだ未成年のカズキはお酒が飲めないので、その分ドラゴンの肉を食べているのだが……、


「なぁカズキ、ほんまにウチのこと好き?」


「カズキー、私の事好きだよねぇ?」


「……はぁ」


 まだドラゴンのステーキを食べているカズキの両隣に酒に酔った女が二人。とても正気を保っているとは言えず、目も虚ろになっている。


「ウチはたまたまカズキを選んだんやないでぇ? ちゃぁんと心も記憶も覗かしてもらったし……」


「私、まだ老けてないよね? もう捨てたりしないよね?」


 カズキはこの話を何度聞いただろうと、思い返してカエデとサラの二人に呆れ果てていた。

 カズキは事前に二人にあんまり飲みすぎるなと忠告していた筈なのだが、ユンゲルとナタリアもいて話は盛り上がってしまう。

 その勢いでお酒も進んで、結果はこのざまである。

 

(肉は柔らかくて旨い。グレープージュースも完全に葡萄ジュース。ちゃんと高いやつ買ってるから美味しい。そりゃ盛り上がるのも分かるよ? ……でも面倒くさい)


 二枚目の肉をゆっくりと食べようと大事に切って食べているところに、カエデとサラは両腕に抱き着いてきてベタベタとスキンシップをとってくる。

 何もしていないときならまだしも、肉を切っているのに腕に抱きつかれては上手く肉を切れない。


 助けを求めようにも、既にナタリアとユンゲルは酒を飲みすぎて寝てしまっている。結局、カズキは二人の相手をしなければいけないのだ。


「ウチはぁ……カズキに捨てられたら世界中破壊して回るから」


「いや怖えよ! 捨てないから!」


「捨てるなんて言わないでよ……。カズキに捨てられたら私……売れ残っちゃうじゃない!」


「捨ててないし! 捨てる予定もない!」


 そんな素振りは何も見せていないというのに、酒を飲んで酔っ払うとこんな感じで大袈裟な話ばかりになってくる。


(酒癖酷いな……。まあ、地球にいた時よりは楽しい……かな)


 野球をしていた時は楽しそうにしていたものの、殻を取り除けば空っぽ。ただ一人で努力して、上辺だけの関係のクラスメートやチームメイトには超高校級のスラッガーという外面しか見られない。

 

 今となっては自分を理解してくれている彼女が二人。二人の他にも自分の努力を知ってくれて知る人もいて、カズキの生活と心の持ちようは断然今の方が良くなっている。


「こんな旨い肉だって、地球にいたら食べれてなかっただろうな。塩胡椒だけでもう最高」


 あとここに米さえあれば、と米がないことに悔やみつつもカズキは肉を頬張る。


「学園に行けば米も輸入してるらしいし……おっと思わずよだれが」


 この街に米はなく、輸入すらしていない為にカズキは二年以上米を食べていない。

 毎食パンばかりで、そのパンも言っては悪いが地球の物より劣る。調味料も簡単なものしかなく、マヨネーズなんてものはない。


「マヨネーズとかケチャップがあればなぁ。オムライスとかピザトーストとか……駄目だ、想像したら止まらん。やっぱり自分で作るしかないのか?」


 チーズはこの世界にもちゃんとある為、あとはケチャップさえあればピザトーストも作れる。

 マヨネーズもあれば更に料理の幅が広がり、ポテトサラダも作れる。ピザトーストもポテトサラダも、カズキの好きな食べ物の一つで、米も含めてそれらの味を二年間も味わっていないのだ。


「……結局俺にもたれかかって寝てるしこの二人は」


 少し落ち着いたかと思えば、カエデとサラは安心しきったような顔でカズキの肩に顔を乗せて眠っている。


「でも……悪くない、な」


 面倒くさいとは思うものの、真に自分と向き合ってくれている女の子達が自分の彼女だということは、今のカズキにとって生きがいでもある。


「よくこんな年下を好きになったもんだ。人生って分からないな」


 確かに体の成長は早いとはいえ、まだ成人していないのに成人済みの二人はカズキに惚れている。カズキは未だに夢なんじゃないかと思う事もあった。


「今じゃすっかり戦闘狂みたいになったし……。学園にいけばもっと強い人もいるのかな」


 街から殆ど出たことが無いカズキは、強い人や魔物と戦う妄想に浸っていた。


「なんか強くなってる実感が湧いてから戦うのが楽しくなってきてる。野球も上手くなってるって分かったら嬉しかったもんな」


 細胞破壊と超回復を繰り返しているカズキの体はとてつもなく丈夫になっていて、そんじょそこらの鍛冶屋が打った刃物では切り傷など付けられない程だ。

 筋力や敏捷に関しても地球にいた頃とは比べ物にならない。そんないくらでも強くなれる肉体に、カズキは味を覚えてどんどん強くなろうとしてここまで成長できたのだ。


「ま、入試までは何とか頑張るか。……さて、この状況はどうすればいいんだ?」


 カズキ以外が寝てしまっているこの状況で、カズキは全員をベッドに連れていくべきなのか考えた。

 だが、それも面倒くさく感じたカズキは、


「……うん、寝るか」


 思考放棄したカズキは、机に突っ伏して目を閉じる。なんだかんだで深夜まで起きていた為、眠気が来てすぐにカズキは寝た。

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