第13話 依頼を先に終わらせた

 夜が明けて、盗賊の相手で目が覚めてしまっていたカズキは、ユンゲルと火の番を変わってからはずっと一人で起きていた。

 そしてそのまま朝食の準備に取りかかる。


「……殆ど朝食二回戦って感じだけど」


 ベーコンと卵を一緒に焼き、パンも火で軽く焼く。パンでベーコンと卵、余っているレタソとトメトを挟んでホットサンドの完成。これを人数分繰り返すだけだ。

 あとは紅茶を淹れようとカズキはお湯を沸かそうとしていると、丁度カエデが目覚めて馬車から出てきた。


「おはようカエデ。紅茶はすぐ淹れるから先食べてていいぞ」


「おはよう。……で、一人で何処行ってたん?」


 いきなりストレートに聞かれたカズキは、体をビクリと反応させる。


「ウチに寝ながら『探知ディテクション』をずっと発動出来るほどの魔力はないけど、普通に使うんなら問題ないねんで?」


「……カエデは魔力の扱いが上手いもんな」


 誤魔化すように笑いながら話すカズキに、


「別に適性がない属性でも魔法は使えるんよ。ただ魔力が普通の何十倍もいるし、火力も殆ど無い。魔力の消費量があんまり変わらんのは無属性だけ。それでももともと燃費は悪いし体に負担は大きいけど、ウチかてちょっとやったら使える」


「へぇ、流石だな」


 ここまで来たら殆どバレていそうなのだが、カズキはゴクリと唾を飲みながら平然を装う。

 そこにカエデは追い打ちをかけるように、


「ウチらに気づかれんように『気配遮断サインブロック』も使ったやろ? おかげで気づいた頃にはもうおらんかったし」


 確かにカズキは盗賊達が『探知ディテクション』の範囲に入ったのを確認して、サラ達が起きないように気配を消して盗賊の方に向かった。

 使った魔法まで当てられて、カズキは諦めてため息をつく。


「はぁ……かなわないな」


「別に一人で行くんはカズキやったら大丈夫やろうけど、声かけてくれたらええんよ。急におらんくなったら心配するやん?」


 自分で解決すればいいと思い、カエデやサラの気持ちを考えていなかった事に今更気づいたカズキは、


「……悪かった。次からは声をかける」


「うん、許す」


 話が終わってカズキとカエデがホットサンドに手を付けるところで、ユンゲルが目を覚ます。

 ユンゲルは木にもたれかかったまま座って寝ていた為、立ち上がって首と腰を軽く回す。


「あぁ〜……首寝違えちまった……」


 首を傾かせて寝ていたせいか首を寝違えたユンゲルは、適性に回復属性がないので回復魔法が使えない。

 そこでカズキは、


「おはようございます。カエデ、ユンゲルさんに回復魔法かけてあげてくれ」


 カズキのお願いに、カエデはユンゲルの首元に『回復ヒール』をかけた。


「おお、有り難え」


「結局ずっと馬車使わしてもろたし、これぐらいせんとバチ当たるからなぁ」


 そう言って食事に戻るカエデに続き、ユンゲルもホットサンドを食べ始める。

 カズキはサラがまだ起きてこない為、馬車に入ってサラを起こそうとする。


「サラ、朝だから起きて」


「ん〜……」


 一度反応があって起きるのかとカズキは思ったのだが、カズキはサラに腕を掴まれて隣に転ばされる。


「いてっ!」


「んふふ〜……」


 夢でも見ているのかサラは嬉しそうに笑い、カズキを思いの外強い力で抱きしめた。

 

「……」


 どちらにせよサラが朝に弱い事はカズキも理解している。

 とはいえ、起きるまで待っていると予定している時間に狂いが生じてしまうため、カズキは強硬手段に出る。


 バチッ!


 サラのおでこに軽くデコピンを当てる。

 軽くとは言っても、既に力普通ではない程あるカズキのデコピンは結構な威力があるようで、


「痛っ!? ……あれ……もう朝?」


(あ、赤くなってる……ちょっと強かったかな)


 自分が想像以上に強くなっているのか、地球にいた頃のカズキよりも力加減が難しい。

 実際家にいる時も、カズキは何かの拍子にコップを強く持ったりすると、簡単に壊れてしまう事もあった。


(うむ……強くなってもコントロール出来ないと意味ないな。魔力のコントロールだけじゃなくて力加減も体に覚え込ませないとな)


 サラは指が当たった部分をさすりながら、「もう少し手加減してよ。結構痛かったわ」と言ってゆっくりと立ち上がる。


「ごめん、次は気をつける」


「次もあるのね……。私ももう少し朝に強くならないと、またやられちゃうわね」


 しばらくして全員朝食を食べ終わり、カズキ達は再び村に向かって進んだ。




  ◆




 村に向かう途中、カズキが馬に付与魔法で『身体強化ブースト』をかけると、馬の歩くペースが少し上がり、予定よりも早く進んだ。

 その代わりに馬車の揺れも大きくなる訳で、カズキは更に気持ち悪い思いをした。


「うっ……サラ、あと少しで村につくよな?」


 あと一時間もすれば日が暮れるであろう時に、カズキがサラに問いかける。


「ええ」


「村の近くにアースドラゴンがいる洞窟があるなら、もう先に倒してしまえば良くないか?」


 カズキの提案を聞き入れ、一度馬車を止める。

 そしてカズキは『探知ディテクション』を発動して、村の周囲に反応があるか確かめた。


「……あ、いる。確かに村から結構近い。ここからは……三百メートルぐらいか」


 村はこのまま真っ直ぐ進んだところにあるのだが、カズキ達がいる場所から右に五百メートル程進んだ洞窟にアースドラゴンの反応があった。


「数は三か……じゃあ手っ取り早く俺が」


「いや、俺が行く」


 カズキは馬車から身を乗り出してアースドラゴンのもとに向かおうとしたのだが、それをユンゲルが止める。


「どうせお前が倒したら俺とサラが来た意味ねえじゃねえか」


 そう言って立ち上がるユンゲルは、まさしく戦士と言うに相応しいような雰囲気が出ている。


「そうね……私達が受けた依頼だし、私達でやるわ。もし危なかったら手を出していいから」


 サラもかなりやる気のようで、結局カズキ達は馬車でアースドラゴンがいる洞窟の近くに向かう。


 こうして村に話をつける前にアースドラゴンのところに向かうのは、ある意味正解でもある。

 村の塀の周りには結界石が設置されており、魔物が嫌がる波動のような物を放出している為、普段なら魔物が村に寄り付くなんて事は殆ど無い。

 だが、アースドラゴンのように討伐ランクの高い魔物となると、結界石が効かない事が殆どで、村の近くにいるとなると村が襲われる可能性も高い。

 

「……ここからでも村が見えるじゃねえか」


 アースドラゴンのいる洞窟の近くに来たのだが、村のある方向を見ると、村の建物がいくつが見える。

 普通なら今すぐにでも、村が襲撃を受けている可能性があったのだ。


「道からもそんなに離れてないし、これなら街に行こうにも危険すぎるな」


 行商人が街に何かを売りに行こうにも、いつアースドラゴンが道に出て来てもおかしくないこの状況では、村を出るのはリスクが高い。


(これなら指名依頼になるのも頷けるな)


 カズキは周囲に魔物がいないか警戒する。


「よし、魔物はいない。取り敢えずサラとユンゲルさんはアースドラゴンに集中して、もしなにかあれば援護します。カエデは周囲を見張っておいてくれ」


「分かったわ」


「よし、いくかサラ」


「ええ」


 ユンゲルは持ってきていた大剣を構え、サラは魔法の準備をする。

 カズキ達の前にいるアースドラゴンは、二体が洞窟の前にいてもう一体は洞窟の中にいる為、早めに二体を片付けてその後に洞窟にいるもう一体を倒す作戦だ。


「『疾風ストーム』」


 アースドラゴンの近くに激しい風が吹き起こり、周囲に砂埃が立ち込める。アースドラゴンは一瞬驚いているような反応を見せるも、すぐに砂埃によって見えなくなった。


「よし!」


 ユンゲルがアースドラゴンに向かって走り出す。予め場所は把握している為、一直線に向かっていく。

 

「うおぉぉ!」


 ユンゲルは目の前にアースドラゴンが見えた瞬間、上段から大剣は首元に振り下ろし、太い首が斬り落とされて鮮血が吹き出ると共にボトリと首の落ちる音が聞こえる。

 サラはもう一匹のアースドラゴンに『風弾エアバレット』を放ち、頭に命中する。

 サラの高威力の魔法は、アースドラゴンの脳を揺らして気絶させ、アースドラゴンにユンゲルは近づいて大剣を振るい、首を切り落とす。


(いいコンビネーションだ。何回か一緒に依頼でも受けてるのか動きに迷いがない)

 

 カズキの心配も杞憂に終わり、残りは洞窟の中にいる一体だけになった。


「やだ、服に血がついちゃった」


 不快感に顔を歪ませてサラは腕や服についた血を払い落とす。


「派手にやりすぎたぜ。思ったより血が吹き出ちまった」


 ユンゲルは血が吹き出ている箇所の直ぐ側にいたせいで、全身が血で汚れてしまっていた。


「ユンゲル君そういうとこやで? 女の子ちゃんと気遣ってあげな」


 そう言ってカエデはユンゲルに回復属性魔法の『清潔クリーン』を使う。本来ならこの魔法は人や物の汚れを落とす魔法だが、この後の戦闘でまた汚れることを考えて、カエデは服についた血の色だけを落とした。

 サラもこの魔法は使えるので、既に血の汚れは取っている。


「へぇ、そんな魔法もあるのか」


「便利やろ? これ使ったらお風呂に入らんくてもなんとかなるんよ。サラとユンゲル君はまた後でかけ直すわ」


 ユンゲルはカエデにお礼を言い、最後の標的である洞窟の中にいる奴の方を見る。


「あと一体ね」


「ああ、油断せずにいくぞ」


 ユンゲルがそういった途端に、カズキは発動していた『探知ディテクション』に魔法の反応があり、二人の前に『守壁シールド』を張る。

 洞窟の中から放たれた魔法は、アースドラゴンによる『石弾ロックバレット』で、拳ほどの大きさをした石が無数に飛んでくるが、カズキの張った魔力の壁に阻まれ、石の弾は粉々になっていく。


「うおっ!? ……そういやアースドラゴンは魔法が使えたな。カズキ、助かったぜ」


「ありがとうカズキ」


 カズキに守られた二人は、切り替えて洞窟の中を見る。

 薄暗い洞窟の中から現れたアースドラゴンは外にいた個体よりもかなり大きく、見た目だけでもさっきのアースドラゴンより強い事が分かる。


「多分あのドラゴン魔石を食べているわ。ここは魔鉱山だし、恐らく穴の前にいた二匹は見張りのようなものね」


 アースドラゴンは仲間が殺されて怒っているのか、今すぐにでも向かってきそうな程に殺意がむき出しになっている。


「ギャアァァァ!!」


 アースドラゴンは魔力を乗せた咆哮を放ち、サラとユンゲルを怯ませる。


「くっ!? こんなアースドラゴンは初めてだぞ!?」

 

「まずい!? 来るわ!」


 二人が怯んだ事を確認したアースドラゴンは、一直線に二人の方に向かっていく。だがカズキにとっては咆哮など怯むまでには至らず、一瞬にしてアースドラゴンの頭上に移動する。


「残念、魔力も声量も足りない」


 アースドラゴンはカズキの姿を確認できないままカズキの拳によって頭部を粉砕され、ビチャビチャと血が辺りに飛び散る。


「うわぁ……なんかあと時のこと思い出してくるわ」


 カエデは一度カズキに頭を殴られた事がある為、アースドラゴンが殴られた場所が同じで記憶が掘り返され、殴られてはいないものの思わず頭をさする。


「ありがとう……と、大丈夫?」


「お前、俺達よりも酷いな」


 超至近距離で血飛沫を浴びたカズキは、先程のサラやユンゲルよりも血で真っ赤に染まっていた。


「うえっ……生臭い。カエデ、頼む」


 カズキはすぐにカエデに『清潔クリーン』をかけてもらう。

 倒したアースドラゴンはユンゲルが部位ごとに解体している。持ち運ぶのも、カズキが『収納ストレージ』を使うので馬車がパンパンになる心配もない。


「普通この人数でドラゴンを持って帰るなんて少量しかできないけど、カズキがいるから問題ないわね。これはかなりお金が入りそう」


 ドラゴンの肉は、地球でいう牛肉そのもの。無論、牛肉もあるにはあるのだが、ドラゴンの肉の方が圧倒的に高い。

 カズキも何度かサラが買ってきたドラゴンの肉を食べて、衝撃を受けたものだ。


「あっちに戻ったらユンゲルさんに渡します」


「ああ、有り難え。依頼と素材の金も入るし、これでしばらくは無理に依頼受ける必要もないぜ」


 ユンゲルはかなり上機嫌でアースドラゴンを解体していく。

 ドラゴンは強ければ強い程肉も美味しいというのがこの世界の常識な為、三体目のドラゴンは納入額も肉の旨さも期待値が高い。


「そういえば、カエデは魔物のドラゴンとはなんか繋がりでもあったりするのか?」


「竜化したら確かに見た目は似てるかもしれへんけど、何の繋がりもあらへんよ。魔物は魔物でウチらの真似してるだけやわ」


 カエデの発言で、カズキはカエデが竜化していた時の姿を思い出す。


(……まあこのアースドラゴンは言ってしまえばデカくなったトカゲだもんな。カエデの方がカッコよかったし)


「……どうしたん?」


「いや、カエデの方がカッコよかったなぁって」


「それ、女の子に言う褒め言葉ちゃうで?」


 と言いつつもなんだかんだで嬉しそうにしているカエデに、カズキはほっこりする。


「よし、解体終わったぞ」


「了解。じゃあウチとサラで血抜きするから、あとはカズキ頼むな」


 サラとカエデは『清潔クリーン』で無駄な血を全て取り除き、カズキは異空間にどんどんドラゴンの肉を入れていく。

 カズキは異空間の容量に少し心配していたのだが、特につっかえるなんてことはなく、全て入れることが出来た。


「よし、全部入った。じゃあ村に報告に行きますか」


「ありがとう二人共。二人がいなかったらもっと時間がかかっていたわ」


「ほんとだぜ。マジで助かった」


 カズキとカエデは気にしなくていいと言ったが、結局後でユンゲルからもお礼をすると言われた。


 少し予想外の事もあったが依頼は無事に終わり、カズキ達は村に依頼の報告に向かった。

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