第6話 努力の成果

 カズキとサラは、ギルド職員であるナタリアも連れて街の外に来ている。

 そして今は街から少し離れた森の中で、丁度ゴブリンの群れを見つけたところだった。


「あれがゴブリンか……想像通りのビジュアル」


 痩せ細った体に気味の悪い顔。そしてギャアギャアと訳の分からない鳴き声で、六匹いるゴブリンはコミュニケーションをとっている。


「あれなら簡単に倒せるでしょ」


 そう言ってサラはゴブリンがいる方向に手をかざし、


風弾エアバレット


 サラは当たり前のように二つの空気が圧縮された球を構築して、殆どのラグもなく二つの風弾は放たれる。

 途轍もない速さで飛んでいく風弾はゴブリンを貫通していき、五体のゴブリンの腹に穴を開けた。


「あら、一体残っちゃったわ」


「やっぱりサラさんの魔法凄いですねぇ。流石Aランク冒険者です」


 サラと行動する機会もよくあったナタリアだが、サラの魔法には何度も驚かされてきている。

 今回改めて見たサラの魔法に、ナタリアは再び驚かされた。

 そもそもAランク冒険者はこの世界ではかなり少なく、その中の一人にいるのだから強くて当然なのだ。


「まあこれは生きてる年す……んんっ……まあ訓練の差ね」


(……そういえばサラさんが何歳か知らないな。『鑑定アナライズ』でも使って……)


 これ程完璧なスタイルと顔を保っているが、彼女はエルフなのだから当然寿命は普通の人間よりも圧倒的に長い。

 単純にサラの年齢が気になったカズキはこっそりと『鑑定アナライズ』を使おうとするが、


「カズキ君」

 

「は、はい?」


「女の年齢をそう簡単に知ろうと思わないほうがいいわよ?」


「……はい」


 珍しくお怒りの様子なサラに、カズキは素直に従うしかなかった。


「カズキ君、あそこであたふたしてるゴブリン倒してみる?」


 サラは少々不安に思いつつ、カズキにゴブリンを倒してみるか提案する。ギルドでの出来事といい、怪我をすることはないだろうが、何かあればすぐに助太刀出来る場所にはいる為、ここでカズキが戦えるか見ておきたかったのだ。


「あ、やってみたいです」


「武器はどうする? 弓か短剣があるけど……」


「私も長剣は持ってますけど」


 武器の使用を提案してくる二人だが、カズキは今日のゴブリン討伐に武器を使う意志はなかった。


「いえ、武器はいらないです」


「カズキ君? 無理な事は言わない方がいいですよ? 一応ゴブリンと言ってもやられる人なんていくらでもいるんですから」


 武器を使わない事を心配に思い、ナタリアはカズキに忠告する。だがその心配はカズキには必要のないもので、攻撃手段については既に考えている。


「まあ、大丈夫ですよ」


「カズキ君……」


 カズキはサラとナタリアの不安げな顔を変えるように目付きが変わった。


「『守壁シールド』」


 カズキは球体の魔力の壁を構築した。


「あれは……『守壁シールド』?」


「あんな球体の『守壁シールド』見たことないですよ!?」


「──『衝撃波インパクト』」


 本来、『守壁シールド』はあくまで自分を守るための魔法であり、攻撃魔法ではない。

 無論、攻撃も一応可能ではあるが、より威力を上げる事を可能にした魔法がこの『衝撃波インパクト』。これによって前方に発射する速度を格段にアップさせる事ができ、球体の壁は物凄い速さでゴブリンに放たれた。


「うん、いい感じ」


 球体の壁は見事にゴブリンの頭に命中し、粉砕した。

 ただ、衝撃が自分の体にも伝わる為、まだまだ体を鍛える必要がある。


「……まさか魔力を球体にしてから詠唱するなんてね」


「攻撃魔法なら定義されている魔法で充分ですけど、俺のは攻撃に有効な形にしただけです」


 攻撃魔法ならその攻撃方法に適した魔法が定義されている為、態々魔力を他の形にしなくてもいい。だが、無属性魔法となると攻撃に適した魔法がほとんど存在しない。


「無属性だけしか使えないですし、こんな事しか出来ませんけど」


「十歳でこれ程魔法が使えたら充分です! カズキ君は凄いですよ!」


 そう言ってナタリアはカズキをギュッと抱きしめる。

 何をとは言わないが、柔らかい物は目立っていなくても存在感は物凄かった。


(柔らかい! ってなんでこの世界の女の人こんなスキンシップ激しいの!?)


「……でも本当に驚いたわ。ここまで戦えるなら大丈夫ね」


 何とか及第点をもらえたカズキは安堵の表情を浮かべる。まずは戦えるようになるというカズキの目標は成し遂げられた。


「……ナタリアさん、俺も冒険者に登録出来ないんですか?」


 冒険者になればお金を稼ぐ事も出来るようになり、少しでもサラの力になれる。そう思っていたカズキだが、


「それがカズキ君の年齢じゃ無理なんだよねぇ。成人が十五歳だからその時まで登録は出来ないの」


「そうですか……」


 街を歩く子供に武装している子が一人もいない事から察してはいたカズキだが、やっぱり登録は出来ないようだ。


「……でも、十五歳になれば学園に通えばいいんじゃない? そこでも冒険者登録は出来るし、強い人も沢山来る筈だから学べる事も多いかも」


「学園……ですか」


「そうね……カズキ君なら王立リアルアル学園にでも通えそうだわ」


 現時点の実力を見て判断したサラだが、カズキからすれば聞いたことがない学園でいまいちピンとこなかった。


「あの……」


「ああ、カズキ君は知らないわよね。王都にあるのだけど、貴族から平民までいろんな種族が通っているの。まあ、騎士団や冒険者になる為の育成する場所みたいなところね」


「そんな学園が……」


「確か序列制度があるのよ。それで上位にいれば王家直属の騎士団に推薦してもらえるし、冒険者になるのなら色々融資してもらえるわ。学生寮もあるし、今のカズキ君にうってつけね」


「そうですか、いい学園ですね」


 カズキはそこに行くか少し悩みつつも、半分はもう王立リアルアル学園に通おうと思っていた。そこに通えばサラにこれ以上迷惑をかけることなく、自分がどこまで強くなれるのかを確かめる事が出来る。


「でも大丈夫ですかね? 筆記も実技も良くないと……まあカズキ君なら大丈夫でしょうけど」


「そうね……カズキ君はあんな魔法使わなくても近接戦闘の方が得意でしょ?」


「……気付いてましたか」


 サラが言っていることはまさにそうである。元々攻撃魔法がない無属性魔法を無理やり攻撃の手段にしているのもあり、それなら『身体強化』を主にした近接戦闘の方がカズキの戦い方に合っていた。

 その訓練は見せていないつもりだったのだが、サラには何故かバレていた。


「だって、夜中に抜け出して訓練行ってるのを何度かこっそり見に行ってたしね」


(マジか……全然気が付かなかったぞ)


 サラがある程度気配を消して覗いていたのもあるが、カズキは一つの事に集中し過ぎてしまう癖もある為、今後の課題とも言える。


「どちらにせよあそこには知り合いがいるし、今度情報は手紙で送ってもらえるように言っておくわ」


「ありがとうございます!」


 サラとナタリアの提案によって今後の目標が決まってきたカズキは、見て分かる程にやる気に満ちていた。

 地球にいた頃は、野球が好きだったのと、単純に負けず嫌いだったのが努力する為の原動力になっていたが、この世界では違う。単純に妄想の世界の筈だったこの世界で、自分がどこまで強くなれるのかが知りたいのだ。


(頑張ろう……勉強に訓練。あとは……恋愛も)


 これまで勉強と野球にかけてきた人生では、色恋沙汰などこれっぽっちも縁がなかった。

 女性へのアプローチについてはほとんど無知なカズキは、転生出来たのだから恋愛も頑張ってみようと思ったのであった。

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