第4話 無属性の可能性
カズキが転生してから三ヶ月が経過したが、ここでカスキの予想とは外れたかなり嬉しい事が起こった。
「……もうエレンって分からないよな」
風呂から出たカズキは上半身裸で等身大サイズの鏡の前に立つ。
ランニングと筋トレによって鍛えられた体は贅肉がなくなってスッキリとしていた。顔はそれなりに整っていて、デブの頃のエレンの面影はこれっぽっちもない。
服に関しても、持ってきていた服は既にダボダボになって着ることが出来ず、前にカズキはサラと服を買いに行っている。その時で既に言われなければエレンとは分からなかったほどに痩せることが出来ていた。
「まあこの体ならこれくらいだろ。ただ十歳にしては結構身長伸びるの早いな……もしかすると十三歳ぐらいには成長止まるかも」
今のカズキの身長は大体中学二年の平均身長程度。これならそろそろ本格的に鍛え始めてもいいかもしれない。
「問題は身体能力か。まだまだ頑張らないと」
なぜそう思ったのか。それは、サラが何気なく本がパンパンに入った大きめの箱を、片腕で二つずつを簡単に持ち上げていた事だ。
それを見たあとにカズキもその箱を持ってみたのだが、重いとは感じたのだ。当然持てない事はないが、サラはあまりにも簡単に持ち上げすぎていた。
「女の人に負けてられないよな……」
自分の部屋に戻る際にブツブツと自分に対して文句を言うカズキ。
「はあ……まあなんとかなるだろ」
カズキが割と軽く考えてるのには訳があった。
何故かというと、単純に努力したからである。
「無属性の適性も案外馬鹿に出来ないから……多分だけど」
最初にカズキは魔法書に載っていた『
この魔法は相手に微量の魔力を送り込んで自分とリンクさせ、その魔力で相手の情報を分析する魔法。
魔法書には人や物の名前が分かるとしか書かれていなかったが、カズキは物や人の名前だけでは無く、どういった物なのか、何をしている人なのかが詳しく脳内に浮かんできたのだ。
ちなみにカズキはサラに『
「まあ見た目がもうあれだし、数値化しても分かるよな……。そんでもってすごい発見がこれだよ。『
カズキが詠唱すると魔力による透明な壁が構築された。
ただし、一般的に知られている四角い壁ではなく、
「痛っ……ふぅ……魔力を球体に圧縮して『
カズキはこの球体の形の『
ただ詠唱するだけでは予め定義されている魔法しか発動しないが、こうして外に魔力を放出してから発動すると、魔力が形どった形状のまま構築出来たのだ。
ただし、これも毎日ひたすらにイメージしながら訓練をした結果だ。加減を間違えて何度も魔力が暴走しかけながらも、訓練をして得られた結果だった。
「魔力で構築されてるから多分魔物にも効く……筈だし。サラさんには危ないって言われてから止められるけど……」
カズキは不満に思いながらも、サラが心配してくれている事は分かっていたので、今はサラの言う事に従って魔物とは戦わないつもりではいる。
「魔法書見てたら結構無属性にも種類があるからな……。全部燃費悪過ぎだけど」
他の魔法も使い方ではかなり強力だと予想するカズキだが、無属性魔法は適性関係なく燃費が悪過ぎる。
体に負担が大きく、すぐに魔力も枯渇して動けなくなる。
魔力が枯渇すれば体が空気中の魔素を取り込む。その魔素を体の中で魔力に変換するまで待たなければいけない。
そんな燃費の悪い無属性魔法の弱点を、カズキはゴリ押しで対策したのだ。
「無属性が魔力滅茶苦茶使うなら滅茶苦茶魔力あればいいじゃんってね。なんかこれずっとしてるとドMって間違われそうだけど……『
カズキは魔法を向かい始めた頃、『
普通は相手に触れて使う魔法だが、カズキは『
これを魔力が満タンの時にやると容量オーバーして、これまた魔力が暴走した時と同じように体に痛みが生じた。
しかし、これをした後にもう一度『身体強化』を使い続けたら、持続時間が二十秒程延びた。
普通は魔法の訓練などで魔力を使い、減った魔力を魔素で補う過程から徐々に魔力総量を増やすのが一般的だ。しかしカズキは無属性適性だったが故に、かなりの時間短縮を可能にしたのだ。
「痛っ!? ……ふぅ……体もある程度鍛えたから耐えられる程度には痛みが抑えれたし、魔力の総量が増やせるならそりゃあ増やし続けるでしょ」
この世界で『
「無詠唱でも出来ると思ったけどまだ無理だし」
理論上イメージ力が重要となるならば、無詠唱でも魔法を使えると踏んだカズキだったが、まだまだ魔力のコントロールが上手くないカズキには無理だった。
「でも今でも一応戦えそうだ……やっぱり明日サラさんに依頼の手伝いしてもいいか頼んでみようかな」
カズキにはまだ調べたい事があった。それは、魔物を倒せば自分の身体能力は上がるのか。
異世界ではステータスが見れるみたいな事がある筈だが、少なくとも『
一応『
だからといって身体能力が戦闘訓練やトレーニングだけで上がるとは限らない。既にここは地球ではないのだから、魔物を倒せば身体能力が上がるみたいな現象も起こりうる。
「色々動きは確認したから大丈夫だろ。……問題はサラさんが同行許可してくれるかだけど」
サラならいいと言ってくれるだろうと期待して、カズキは夜遅くまで魔法の訓練に取り組んだ。
◆
サラが寝静まった頃であろう時間に、カズキはこっそりと部屋を出て街の外へ。
そして街から少し離れた草原に向かう。
「さて、お楽しみの時間といきますか」
カズキはこれまで一度も全力で走ったり動いたりはしなかった。日常生活での感覚のズレはなんとか直したものの、やはりズレを直すのであれば痩せてからの方がいいと考えたからだ。
「えっと、まずはあの岩まで全力で……」
カズキは走り慣れていた盗塁の構えをする。一度息を整え、自分のタイミングで……、
「……ふっ! あっ! うおっ!?」
まだ大して鍛えていない筈の体なのにも関わらず、感覚のズレは酷かったようで、一歩目を出そうと左足で地面を蹴ると想像の二倍ぐらい体が前に進んだ。
そのまま二歩目を上手く出せずに、カズキは顔面から地面にダイブした。
「いったぁ〜!? 顔が……ヒリヒリする!」
カズキはおでこの真ん中辺りに擦り傷が出来て、そっと触れてみると血が出ていた。
「は……ははっ……これ、『
感覚のズレを直すのもまた課題となってくるが、ここまで速く動けるとなると、今度は目も慣らさなければならない。
幸い見え方はそこまで変に見えるなどは無く、この世界の種族達は地球の人間達よりも圧倒的に脳の処理能力や身体能力も違うことが分かった。
「徐々に慣らすしかないか……はぁ」
ここまで自分が速く動ける事には凄いと思っているのだが、ズレを直すのにどれ程時間がいるのだろうとカズキは憂鬱になる。
「まあ、自分が成長してるのが嬉しいのは野球でも一緒だな」
カズキは三割ぐらいのスピードで走り出す。その顔は、初めてホームランを打った時と同じように楽しそうな顔をしていた。
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