対決

(どうしよう……コインランドリーで露出狂なんて信じられない……)


 そう考える春美の胸はドキドキしていたが、わずかな高揚感に包まれていた。これからこの男はどうやってくるのだろう、そんな何が起こるか分からないことに対する期待が入り混じっていた。


 春美は自分が思わず足を止めてしまっていることに気づくと、自分が動揺していることをさとられないように、その男とは離れた洗濯機に移動して、利用する洗濯機やメニューを選んでるフリをした。


 大丈夫だ、これくらいなら不審というほどでもない。それに露出狂なら今頃私がそれに気づいてるかどうかを楽しんでいるに違いない。


 そんな風に考えて春美はいくばくかの冷静さを取り戻すと、自分の洗濯物を洗濯機に詰め込んでスタートのスイッチを押した。もちろん、その間もその男に細心の注意を払っていた。それは襲われたときに逃げるためでも身を守るためでもなく、露出に驚く乙女を演技しながらしっかりと観察したいという邪推した気持ちからであったが。


(それにしても、防犯カメラが設置されてるのになんて大胆なんだろう……)


 春美は男から離れたイスに座って、待ち時間を潰すために持ってきたミステリ小説をカバンから取り出すと、栞の挟んであったページを開いて読書にふけるをし始めた。もちろん、ページに印刷された文章は一切頭に入ってこなかったが。


(さぁ、いつでも来い。あんたの望むような恐怖に怯える女を演じてやる)


 *


 しかし、それから3分経っても男は行動を起こさなかった。


 3分というのは短い時間のように聞こえるかもしれないが、ターゲットとして狙える女性が一人だけというこの絶好の機会を露出狂の人間が逃すはずがない。それが春美の経験則だった。


(なんで、こいつはこないんだ?)


 春美は、自分がターゲットとしては不足であるとこの露出狂が考えているのではないか、そんな推理が頭の片隅によぎり始めていた。


 実のところ春美は露出狂がターゲットをどれだけ選ぶかということについては無知だった。そもそも、会おうと思っても露出狂にはめったに遭遇できるものではないし、露出狂だと明確に判明するのは後だから知りようが無かったのである。


(こいつ、もしかして私に魅力がないと思ってるのか?)


 春美は自分で言うのもあれだが、容姿にはかなり自身のある方だと自覚していた。いわゆる美人とまではいかないが、かなり可愛らしい雰囲気を漂わせていたし、こういった日常生活においても最低限のオシャレは心がけていた。まぁ、本当の乙女ならコインランドリーなんかに来ないだろうが。


(くそ、それならちょっと仕掛けてやるか……)


 そうやって心の中で決意すると、春美は羽織っていたガーディガンを脱ぎ捨て、それをキレイに畳んでから自分の隣にそっと置いた。これで春美の上半身はTシャツだけになり、そこから色白い腕をのぞかせる格好となった。屋内とはいえさすがに肌寒く感じる格好ではあったが別に耐えられないような寒さじゃない。


 そして春美はその格好で歩きだすと、コインランドリーに設置された雑誌コーナーで読み物を物色するフリを始めた。男との距離は2メートルちょっとで、それは確実に男の視界に入る場所だった。露出狂が露出した女性に興味を示すのかは分からなかったが、自分が若い女性であることは十分にその男に認知させられたはずだ。


(これでどうだ?)

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