第5話仕手

諏訪の初の選挙動画配信まであと1時間程。

普段使用している諏訪の携帯電話ではない、旧来型のフリップ式携帯電話の着信音が鳴った。

動画配信の最終チェックをしていた太一は、初めて聞く着信音のメロディにふと手を止める。


「ん?健さんってもう一台持ってたのか?」


湧き上がる疑問を一旦横に置いて、太一は止めていた手を再び動かし、作業を進めた。


諏訪「おお直樹、出来てるか?」


大石「よぅ健一、相変わらずカマしてくれてんねぇ〜。一応仕込みは出来てんぜ。何人かが内容に沿った質問するからさ。まぁその辺はアドリブで宜しくな。」


地方大学に所属し、社会心理学の准教授を務める大石直樹は、IT起業家の立花裕也や諏訪とは幼少期より堅く結ばれた仲間の一人である。


諏訪「ちなみにお前んとこの学生か?」


大石「学生は…二人かな。後は流れ見て何人かこっちの連中が参加するって段取りだ。バラエティに飛んだ連中集めたからよ、その辺も楽しんでくれや。」


諏訪「お前も相変わらずだな。そういやあのNPOはどうなってる?」


大石「当然バッチシよ。オレの専門舐めんなよぉ〜。カウンター喰らわすタイミングで動かすからよ。正義に燃えた無敵の人ほどおっかねぇもんもねーわなぁ。」


諏訪「分かってるとは思うが直樹、前には出んなよ。」


大石「誰に言ってんだよ。どう捲られたってオレの名前は出ねえょ。」


諏訪「悪ぃな直樹。漸く…だからよ、ついな。」


大石「わかってるっつーの。心配すんな。全員これから出番あっからよぉ。」


諏訪「面白え絵を期待してんぞ。」


大石「お前言葉遣いに気をつけろよぉ〜。昔に戻ってきてんぞ。」


諏訪「おっと。気ぃつけるわ。じゃあまたな。」


大石「オオヨ、今日はバシッとやっちまえや。」


諏訪は大石との電話を切った。

物心つく頃からの仲間の一人。

強烈な体験を共有した、代わりの効かない存在。


椅子を大きくリクライニングした諏訪は、数十年前の記憶に思いを馳せた。

あの日、諏訪達五人の中に呪いの如く刻まれた、強さとは何なのか?という疑問。

諏訪はその具現化する形を追い求める。


太一の声がした。


太一「健さん、そろそろ準備の方お願いします。」


諏訪「ああ、そろそろだったな。」


初の動画配信で、初のライブを行う諏訪。

告知はしていないが、YouTubeには既に諏訪の演説動画が他のYouTuberより上がっており、2〜3万回程度再生されている。

そこに関連付ける形でライブ配信される諏訪の動画の開始予定には既に6千人程が待機している。


太一「上々の数字っすね。コメ欄もまあまあ賑わってるっぽいっす。」


諏訪「しかしこれ、目が回りそうだな。コメント拾えるかな?」


太一「そういや書き込むタイミングで空メール送るってましたよ。多分さっき話してたガラケーのほうじゃないっすかね?」


諏訪「なろほどね。抜かりはないって事か。直樹の野郎、そんくらい言っとけよ。」


太一「アバウトなのかキッチリしてるのか難しいとこっすよね。」


諏訪「ま、あいつらしいと言えばらしいけどな…。」


太一「じゃあ、行きましょうか。本番前です。リラックスして行きましょう。」


諏訪「ああ、始めてくれ。」


午後8時丁度、諏訪の初のライブ配信は演説の時と同じく柔和な笑顔、明瞭な発声での挨拶から始まった。

コメント欄は視聴者の挨拶で溢れてくる。


諏訪「今晩は。諏訪健一です。本日は沢山の視聴者の皆様に来て頂きまして、ありがとうございます。」


諏訪「本日のライブ配信ですが…、実はあまり予定を決めておりませんでしてね、できればリラックスして聞いていただけたらと思っております。私もなにぶん初めてこのライブ配信というのもしますので、拙い部分もあるかとは思いますが、どうぞ宜しくお願いいたします。」


上々の反応を見せるコメント欄の書き込みの流れは、諏訪の挨拶に対し、視聴者の好意的と受け取れる。


諏訪「ではまず…、そうですね。私の政策について沢山の賛否のご意見を戴いているかとは思うのですが、この件につきまして、私見を述べたいと思います。」


「この世の中ですが、端的に申し上げるのであれば、それは絶対的な正解も不正解も無い、と個人的には考えております。

勿論、数学の問題や学校の宿題等の事ではなく、いち人間の考えという面においてですね。」


ライブの初めの下の部分でいきなり諏訪がこの様な話をするとは想像していなかった視聴者達は手が止まってしまった。コメントの流れも止まる。

諏訪の次の言葉に嫌が応にも注視してしまう。


諏訪「何故ならば、誰かの都合に合う時を例にしますと、必ずしもその都合というのは他の方の都合と合うとは限らないからですね。

ですので、ではより多くの人の都合に合う様な物事の進め方をしましょう、というやり方が所謂民主主義というシステムですので、当然私もこのシステムでこれまで暮らしてきましたし、今回もそのシステムの上で立候補しております。

故に、賛否両論はおおいに結構と考えております。むしろ大事なのは皆様一人一人にそれぞれ考えていただく機会を提供したい、それが私の目指す処です。」


視聴者達の戸惑いがコメント欄に現れていた。

民主主義のシステムを否定してるとも肯定しているとも取れる諏訪の言葉。


諏訪「そういった活動を続けていけば、もっと皆様が政治に関わろう、参加しようという風に考えていただけるものと信じておりますし、投票率も上がっていくのではないかと考えております。」


「そこで現在の投票率ですが、投票権を有した方々全体の数字で、6割を切っておりますよね。と言う事は、どれだけ実は危険な事であるか、と言う事をもう一度考えていただけたらという思いもございます。」


「先程、民主主義のシステムについて少し触れましたが、凄く砕けた表現をいたしますと、民主主義というのは多数の権利を代表した少数が、全体を運営するシステムであります。

つまり、先程挙げた投票率…、仮に60%だったとしましょう。

この60%の内の51%を握れば全体を仕切れる、と言う事になる訳ですね。」


「では少しわかりやすく、全体の数を千人と仮定しましょう、この場合投票率は60%ですので、六百人の中で千人の行先を握る、と言う事になります。

そしてその六百人のなかの51%、つまりは三百一人の意見が一致すれば、残りの六百九十九人を含めた千人のこの先の運命を握る、と言う事になります。」


「つまり、総数に対しておよそ三割の方々さえ押さえればいい、というのが数字上での計算になります。結構怖い事だと思いませんか?皆さん。」


諏訪から呈された疑問に戸惑いを見せていた視聴者も、次第に引き込まれていった視聴者も、それ以外の思惑で動いている視聴者も、皆一様の反応を見せた。

諏訪の疑問視する問題に対し、概ね肯定的であった。


諏訪「そしてここからが大きな問題です。その三百人の中で、実際に立候補出来る実力のある方は皆さんはどのくらいいると想像しますか?

立候補するにはまず大きなお金が必要になりますし、選挙を実際に手伝ってくださる方も必要になりますよね。

どうでしょう?ただ出ただけでは供託金も没収されますし、日々労働に勤しんでおられる方であれば選挙活動の時間を取る事も難しいとは思いませんか?

とすれば、資金力に余裕もあり、時間的な融通も効く方以外は物理的に大変困難である、という風になりますよね。」


諏訪の話に大きく肯定の反応を見せるコメント欄。

不公平といった不満であったり、結局そういう中身だからどうしようもないのだ、と言う様な不平と怒りを呈するコメントが掲示板に溢れていく。


諏訪「そうなりますと、三百一人の中でその様な方を探すとなるととても限られてしまう、大凡で数%くらいになるかなと個人的には思われます。

ではその数%の部分で、今回は数字を仮に5%と仮定しますと、三百人の内の5%となると十五人となりますよね。

単純な数字上の計算であっても、どの様な事実が浮かび上がってくるのかを申しますと、十五人が全体千人の行先を常に握っている状態、とも言い直せると思います。

つまり両方の勢力に十五人ずつ、それらが全体千人の行く末を握れる立候補者がいたとして、全体に対しての約2%程度、これが実は残りの98%を動かしているというのがこの国で行われている民主主義の大まかな説明になります。

たったの2%程度ですよ?どうですか?皆さんこれって怖い事だと思いませんか?」


改めて言われると恐ろしい話である。

柔和な表情と、ゆっくりと聞きやすい口調で語られる諏訪の言葉が視聴者の耳に、心に深く浸透していってるかの如く、コメント欄はシステムや体制そのものに対する視聴者の怒り、またある者によっては過度の憎悪すらも感じ取れるかの様な叩きつける激情のままのコメントで掲示板は溢れていく。


諏訪「とまあ、こういう大まかな中身ですので、是非ともですね、私はもっと皆様に興味を持っていただいて、考えていただいて、投票へいって頂く為に声を上げております。」


ここで諏訪が一度頭を下げた。

虚をつかれた視聴者は、諏訪のお願いを受け取ったような心理状態になった。

諏訪のこのお願いに対し、概ね賛同のコメントで掲示板は溢れた。


諏訪「その考えていただく機会が増える事、というのは私が今回の選挙において、勝ち負けの事とは別に、皆様の為になる事であると自負しております。

ただ奇をてらって立候補し、あわよくば当選すると言う事ではなく、私と言う人間がこの選挙において、活動するにあたって、最終的に皆様の利益になるのであればそれは大いに意義のある事である、というのが私の本心です。」


諏訪の話に、コメント欄上では拍手の書き込みが起こる。

それは絵文字の表現であったり、ネットスラングでの賛辞の表現であったりした。


諏訪「勿論、ただ負ける為に活動している訳ではなくて、勝ちにいくつもりで戦っております。

その上で更に皆様に選挙とは何なのか、投票権とはなんであるかと言う事まで考えて頂けたらな、という思いでこのYouTubeを始めました。

折角のこういった機会ですので、できる限りのご意見やご質問にお答えしていけたらと考えております。」


太一はここまでの諏訪の初めてとは思えないライブ配信に舌を捲いた。

仮に相当な練習したところでこれは出来る類のものでは無い、という直感。

思うがままに喋ってこれ程の話ができるものか、という驚嘆の感覚に包まれる。


太一「(先立っての演説の内容を肯定も否定もせずに、諏訪健一というあり方そのものを自分から確定させる完璧な出だし。

最初から賛否ありきで、しかもそれこそを尊重する立ち位置にしたお陰で正攻法での揚げ足も取りにくい。

向こうが突っかかれそうなトコを狭められたのも抜群に都合が良い。

今後こっちも大分やりやすくなった。

しかしこんなに弁が立つのに、本気で天下獲るつもりが無いんだろうか…?)」


目の前で起きた出来事に対し、太一はしばし思い耽った。

そして不思議と、自分が直情的に、感覚的にこの人についていこうと思い、諏訪に対し宣言した好意そのものに対し、腹の底より喜びの感情が湧き上がるのを感じた。


ライブ開始時よりこれまでじわりと伸びてきた視聴者数は、一万人を超えた所で鈍化した。

コメントの伸びも一旦小休止の様相を呈している。


そろそろ仕込みが来るか?と太一が思った矢先の事であった。

相槌や冷やかしの様なコメント欄の書き込みにおいて、一際目を引く内容の質問が書き込まれた。


じょんT「問題を挙げてみんなに訴えかけたいのは分かったけど、議員になるなら何するつもりなのかじゃないの?結局のところさ。諏訪さんは当選したら何するの?」


その質問に賛同するかの様にコメント欄は再び盛り上がり、この場で諏訪の即答を促す為の煽動するような書き込みが、諏訪を煽る様に加速して書き込まれていく。


諏訪「はい、素晴らしいご質問ありがとうございます。確かに他の立候補者の皆様は、議員になったら何を目指します、というマニフェストと掲げますよね。」


「やる、やらないではなく、そうですね、この場合は目指しますという形ですね。

では先ほどのご質問に答えたいと思います。

私、諏訪健一が議員になった暁には、国民の皆様のご意見を代弁する政治家になります。」


このライブに関わる誰もがその時、一瞬思考を止めた。

太一ですら、いったいどう言う事だと止まってしまったのである。

諏訪はゆっくりとした口調で続けた。


諏訪「皆さん、政治の世界なり、国会の中継なりを拝見して、結局何が言いたいの?って思う事はないでしょうか。要するにどういう事なんだ?と。」


「私が政治家になった暁には、まず今行われている政治のお話、それによってどう世の中が動くと予想されるか、これをまあライブ配信できれば致しますが、この様に皆様に広くご視聴いただける様な時間帯にお送りできるとは限らないので、基本的に収録でなるべく簡潔に解りやすくお伝えする機会を設けます。」


「そしてそれによるアンケートを実施いたしまして、この様な声が国民の皆様から上がっていますが、という国会での質疑応答に用いて行きたいと思います。

平たく言えば、私の存在を通して、皆様が政治の世界に間接的に参加する状況を作りたい、というのが今回当選した暁にまず私がやりたい事です。」


ジョンT「例えば環境問題に取り組むとか、そういう話ではないの?」


諏訪「ジョンTさん、誤解しないで頂きたいのは、まず国会議員として無所属で一人、という立場では基本的に何もできないのですね。

仮にすごく良いアイデアがあったとしても、法案を作って提出し、審議してもらうことも出来ません。

数で纏まるか、どこかの政党に属するかしか、法案を提示する事は個人の一年生議員には出来ないのが現状です。」


ジョンT「いわんとする事はわかるけどもさ」


諏訪「そして仮にどこかの政党に属したとしても、そこではまた派閥であったり当選回数であったりなどと、力の原理が働きますし、更にその良い法案の中身がもしその派閥や党そのものの立場と相容れない場合、党として動く事は無くなるでしょう。」


「つまり、政治家として主体的に状況を動かしていく、という事そのものが不可能と言っても過言ではありません。

ですので、逆説的ではありますが、無所属新人の方のマニフェスト提示そのものは絵に描いた餅でしかない、という事なんですね。

勿論、政権与党の方針に沿うものであればまた違うでしょうが、それならば何故その政党の公認を受けられていないのか、という事にもなります。

つまり残念ながら、選挙に通りたいから色々言ってみた、という類のものと変わらないんですね。これはあくまで個人で出馬した場合のお話になります。」



「そういった状況下で効果的にやるにはどうすれば良いのか、という点から想像していただければなと思います。

少なくとも私がやる質疑応答の内容は、紛れもなく国民の声を代弁しております。

それをどう扱う気なのか、という点を鑑みれば、悪戯に無視することも出来ないでしょう。

そして、その無視できない存在になる、という事そのものが、一年生で派閥も何も持たない実績もない議員に出来うる最大の仕事だとは思いませんか?ジョンTさん。」


ジョンT「まー 確かにそうかもしんないけどさ」


ジョンTとの質疑応答のやりとりが行われている中で、他の視聴者が諏訪に対し、質問を投げてきた。


HAL「諏訪さん、じゃあずっと一人でそんな感じで議員するんですか?」


諏訪「HALさん、ご質問有難うございます。

その件について例えばの話になって申し訳ないですが、議員になり、皆様の声を国会に実際に届け、でも通らない、顧みられない状況であったと仮定しましょう。

そうなると私の存在意義が薄れるような気もするでしょうが、それならばそれで、私の考えに賛同して戴ける他の無所属の方々と手を組むなり、補選等にてこちら側のやり方に賛同していただける方に立候補して戴くなりして、国民の皆様の声を届けるだけでなく、議員としても無視できなくなる集団を目指す、というお話になります。」


HAL「なるほど、逆手にとっちゃうと」


諏訪「その通りです。政権与党の立場で考えてみれば、国民の中で党へのアンチをわざわざ量産し、対抗勢力を育てる切っ掛けを作る必要がないでしょうからね、普通の頭で判断するならばですが。

となれば、こちらの質問は無下に扱うことも出来ない。

この様にですね、私は最弱でも通用する戦い方を考えて今回望んでおります。

勿論、例えば某都知事の掲げた実現不可能な二階建てバスの運用案などを政権与党に対し、国民の声だなどと言うつもりは当然無いですし、あくまでも現在進行形で進んでいる日本の政策、方針について、国民の皆様からはこういう声があがっておりますがなど、政権与党の不祥事等に関しましても、私が頂ける時間の中で、しっかりと常識的に皆様のお声を届け、追求していく事を致します。」


ジョンT「その辺上手そう 元警察官僚だしね」


HAL「正義の味方が国民の味方になるという事ですか」


諏訪「ははは…、いやこれは失敬。ええと確かに元警察官僚の身でありましたので、そういった部分は確かに私の領分でもありますが、HALさんには一つ、認識の訂正についてお願いせねばなりません。」


HAL「???なんです?」


諏訪「警察官は正義の味方、という誤った認識についての件です。

これなのですが、警察官の仕事はあくまで治安維持なんですね。

つまり、社会がある程度安全が担保された状態で、適切な経済活動が活発に行われる環境の為に治安維持をする、という事ですので、悪を捕まえ、正義を助けるという内容では無いのです。残念ながら。」


この諏訪の発言には掲示板が大きく揺れた。

視聴者数は既に1万五千を突破しており、肯定と否定、罵詈雑言に賛辞までもが圧倒的に入り乱れた。


諏訪「なぜ、この事を大っぴらに言わないのか、なのですが。

その方が都合が良いからですね。勿論、治安維持の仕事の為にです。

犯罪が未然に防げるならそれに越した事はないから、効果が少しでも期待できそうなら敢えて警察官は正義の味方だと考えてもらっている方が都合が良い訳です。

要は秩序が保たれた状態であればそれで良い、というスタンスですのでね。」


ジョンT「まさかそこまでぶっちゃけるとは。。。」


HAL「なんかショックです」


二人のメインプレーヤーに同調するかの様にコメント欄が溢れていく。

同時にやっぱり警察は腐っている、と言った様な不満を撒き散らす様なコメントも多く見られた。


諏訪「例えば過去に問題を起こし、再犯の可能性が高い人が居たとしましょう。

その人がまたやりそうだからといって先回って捕まえる事は出来ません。

解りやすい例を挙げるならば、再販率が高い性犯罪者などがそうですね、出てきてもまたやるケースが非常に高いのにそれは出来ない。なぜか?

日本の法体系と運用の解釈が、人間が過ちを犯してもまた更生してやり直せる様に構築されているからです。

その運用における実務の一端を警察官は担っていますので、元々の更生する解釈を越えた法の運用が出来ないわけです。

つまり、何か起こってからでないと対処できない、というのがこれです。

逮捕権を行使できるのも法によって担保されてるからであり、その解釈を逸脱した行為が警察官には認められていない為なのです。

この事からも見える様に、あくまで警察官は治安を維持する為に逮捕権、捜査権を行使できる存在でしかない、という風にざっくりと認識していただければと。

そういう理由に付随しますが、暴力団という団体もございますが、先ほど私が述べた事を当てはめていただければ理解できるのではないでしょうか。」


諏訪が恐らくは視聴者がこの部分について最も聞きにくいけども聞いて見たい事であろう、という内容の話を自ら話し始めた。

掲示板が驚きと興奮のコメントに埋まっていく。


諏訪「何故、暴力団を全て捕まえることができないのか、という事です。

治安維持の観点において、ある程度の安全が担保された状態で、活発な経済活動が行われる環境を維持する事で暴力団関係と利害がぶつかっていない場合は、警察は何もできません、と言う事なのです。

建前は、暴力団に所属する者は、警察に登録していますからね。

誰かわからない存在ではないのですから、何か起きなければこちらからは何もできない、と言う事です。

他、別件にて大きな事案を他の部署が追っている場合、ちょっとした事は黙認される事もそう言う事です。

より大きな犯罪が行われるのであれば、それに関与が疑われる者は敢えて見逃す、と言う事。

小さな犯罪よりも大きな犯罪を優先する、何故なら治安一の観点において、より効果が高いであろうと思われる事案を優先するから、という理屈です。

この辺の捉え方については、今までよくわからんけど納得いかない!税金泥棒!というご意見を持っていた方も、何とかご理解いただけるのではないでしょうか。

あくまで、警察官という存在は、治安維持装置である、と言う事で、決して正義の味方を仕事の味方にしているのでは無い、と言う事です。」


この怒涛の展開には太一もいち視聴者になってしまっていた。

元警察官僚の諏訪から、警察組織の本音と建前についてライブ配信されているのだ。

賛否両論、誹謗中傷がコメント欄には溢れかえり、収拾がつかない状態である。

ジョンTの質問もHALの質問も遠くかき消され、諏訪への矢継ぎの質問が掲示板には溢れかえったが、もう目で追える状態では無かった。

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令和奉還 @tommy-m

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