第31話 運命と使命


 悲鳴が聞こえた方へ急ぐ。

 走りながら敵に気づかれないように魔法の準備を始めた。



 ここは森。

 となると火はだめか。

 そうなると……



「――ナット」



 身体強化の魔法。

 全力で地面を踏み込む。 



「っは!」



 ゴブリナは速すぎて自分が殺されたのだと理解できないだろう。



「グギァァァァ!」

 


 倒しきれなかったヤツにめがけ、懐からナイフを取り出し、ゴブリナヘ一匹また一匹と片付ける。

 大したことなかった。


 一通り片付いた頃、先程の悲鳴の人物を探す。



「………え?」



 倒したゴブリナの下敷きになる形でその人はいた。

 ゴブリナをどかしているときに気づいた。



「この人、腕…、」


 

 そう。

 片腕がない。

 ゴブリナの血で分からなかった。


 急いで治癒魔法をかける。



「――ヘイル」



 体全体から異常なほどの血が出ており、関節が本来なら曲がらない方向へ向いている。


 こんなの治るわけ……


 私はこの人を助ける義理など無い。

 普段の私だったら恐らく見捨てている。



 なぜ見捨てない。

 自分に問いかける。


 この人が可愛そうだったら?

 違う


 なんとなく?

 違う


 師匠の言葉を思い出したから?

 ………

 そうか。


 これが私の運命。

 いや、これが私の使命。


 そうだ

 そうだ

 これが……



「――ヘイルスト」

 


 私ができる最大の回復魔法をこの男に使う。


 この人を死なせてはいけない

 この人を繋げなければならない。


 体中の切り傷、骨折がみるみるうちに治っていく。



 「ふぅ」


 

 安堵のため息をついた時気づいた。

 右腕だけが一向に治らない事に。


 集中的に魔法をかけたが治らない。

 再びかけたが治らない


 それはまるで呪いのように私の魔力を弾く。

 呆気にとられていたが右腕以外の部分は全て治癒が完了した。



 彼の右肩部分を見る。

 分からない。

 だが、

 魔力を弾いた。


 いや、私の魔力を拒んだのか?


 これは……治せない。



「ごめんなさい」




▼△▼




 その後、家へ転移し彼をベットに寝かせた。

 3日経っているが目を覚まさない。


 時折見に行くのだが、いつもうなされている。

 私にはただ手を握ることしかできなかった。



 少し気になる事がある。

 この短刀だ。

 これは腕が千切れてもなお握り締めていたのだ。


 彼にとって命の次に大切と言っても過言ではないだろう。

 


 取りあえず刃を磨いておく。


 うん。


 決して好感を持ってほしいとか

 そう言うのではない。


 うん。


 断じてない。




▼△▼




 あれから4日。

 この家に寝かしてから一週間未だ彼は目を開けていない。

 心配になり、心臓の音を確認したがちゃんと音がした。



 部屋に居たいのだが、

 起きたときに知らない所で知らない人がいたら、私だったら悲鳴を上げる。

 

 怖がられたくない。 


 なのでもし起きたら落ち着いたお姉さんになろう。

 そう思いながら、優雅に紅茶を飲んでいた。


 すると突然



「うぁぁぁぁぁ」



「ぶへっ」


 

 悲鳴が聞こえびっくりして口から出てしまった。

 そんなことはどうでもいい。


 慌てて彼がいる部屋へ駆け込んだのだった。


 

 

 




 





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