第49話 お泊まり?

「ふう。もう大丈夫だよ」

「宮永君、どうしてここに?」

「あ、いや、ちょっと手伝いで、ね。それより九条さんこそ、なんで?」

「……」


 何から説明したらいいのかと迷っていると、とりあえずと言ってお茶を出してくれたのでそれを飲み干す。


 そして一息ついてから、おじいちゃんにアルバイトとして勧められたと事情を説明してから外の様子を覗いてみると、ようやくギャラリーが帰ったところだった。


「いやあ、参った参った。メーカーに文句言わないとだねえ」


 いつもいる店員さんが頭をかきながら事務室に入ってくる。


「あかねさん、お疲れ様です」

「ああ、宮永君おつかれ。なんか大変なことになったね」

「すみません。あの、彼女の壊した機械ですけど」

「あの! 私、弁償します!」


 宮永君が庇ってくれてたのをそのまま訊いていることもできず、私は自ら頭を下げる。


「あはは、弁償しなくていいよ」

「……え?」


 お店の機械を壊して撮影を無茶苦茶にしたのに、なぜか店員さんはご機嫌そうに言う。


「さっきテレビ局の人がさ、すごいものが撮れたって喜んでて。撮影中のトラブルだから新品に交換してくれるって。それに、また撮影も来てくれるらしいし問題ないどころか大盛況だよ」

「そ、そんな。でも」

「しっかし宮永君、あんたの彼女さんめっちゃハードパンチャーだねえ。かっこいいじゃん」

「かっこ、いい……」


 私は、生まれてこの方かっこいいなんて言われたことはもちろんなかった。

 だからちょっと驚いたというか、自分のこの力が褒められるなんて、変な気分だった。


「九条さん、よかったね」

「で、でも」

「あかねさんもああやって言ってくれてるんだし、素直に甘えよう。それに、誰がいけないかっていえばおじいさんでしょ。急にこんな変な企画に応募するなんて」

「そ、それもそうだね。うん、おじいちゃんに文句言ってくる」


 私は、もう一度店の人に頭を下げてから店を出ることに。

 宮永君はこの後、壊れた機材の片付けなんかを手伝って帰るらしく、私は早足で一人先に帰宅した。



「ふう、終わったかな」

「おつかれ宮永君。はい、ジュースどうぞ」

「ありがとうございます」

 

 九条さんの破壊した機材の損傷はすさまじく、しかし不幸中の幸いとしては他のゲーム機なんかが壊れてなかったこと。

 もう、九条さんの住む場所にはパンチングゲームの類を置かないでほしいと思いながら重たい機材を運び出して破片とかを掃除してひと段落すると、あかねさんがクスクスと笑っていた。


「どうしたんですか?」

「いや、宮永君って相当あの子のこと好きなんだね」

「え、そ、そんなに顔に出てました?」

「出てる出てる。だって、彼女が姿見せた瞬間、すっごい嬉しそうだったし。彼女が壊したものとあってか、今は掃除してても嫌な顔一つしないし。いい彼氏じゃん」


 そう言って、あかねさんは自分の缶コーヒーをぐびっと飲む。


「そんなことないですよ。俺、まだ彼女に大したことできてませんから」

「ふーん。でも、あの子見てたらすっごいコンプレックスの塊みたいな感じだったし、宮永君に救われてると思うよ?」

「だといいんですけど」

「自信持ちなって。ほら、それ飲みながらでいいからさっさと帰ってあげなよ。今日はありがとね。バイト代はこれで。またよろしくね」


 封筒には、一万円札が一枚。

 こんなにもらっていいのかと思ったが、「彼女のおかげでお客さん増えそうだからサービスで」ということらしい。


 ありがたく頂戴し、俺も店を出た。


 そして自転車に乗って暗い夜道を一人、走る。

 一度家に帰ってから、九条さんに連絡を入れようと急いで帰宅すると、玄関先に九条さんとすずねの姿があった。


「あれ、九条さん?」

「あ、おかえり宮永君」

「おかえりおにい。遅かったね」

「う、うんただいま。どうしたの?」

「うん、それがね……」


 少しもじもじしながら、なぜか照れる九条さん。

 そして彼女にかわってすずねが事情を説明してくれる。


「実はね、帰った後にお姉ちゃん、おじいさんと喧嘩になったらしくって。それで家を飛び出してうちにやってきたってことなの」

「なるほど……でも、大丈夫なの?」

「う、うん。だっておじいちゃんったら自分勝手なことばっかり言うんだもん。だから頭にきて……」


 よく見たら、九条さんが一番お気に入りだというシロクマのぬいぐるみが玄関に置かれていた。

 連れてきたんだ……。


「で、どうするの? 謝るなら俺も一緒に」

「き、今日はおじいちゃんも門の鍵閉めちゃってると思うし、えと、そういうわけで、ええと」


 また、九条さんが照れる。

 さっきより顔を真っ赤にして、目を回してる。

 

 そんな彼女にかわって、これまたすずねが俺に説明を加える。


「というわけで、今日はお姉ちゃんはうちに泊まりまーす」

「ああ、それはよかっ……ええっ!?」


 思わず大きな声を出してしまった。

 近所迷惑だよっとすずねに怒られたが、開いた口が塞がらない。


 九条さんが、泊まる……?


「ええと、それって、あの」

「おにい、変なこと考えないの。お姉ちゃんは私の部屋に泊まるんだから」

「あ、ああ。そうだよな。うん、それがいいよ。うん、それがいい」

「ごめんね、迷惑じゃないかな?」

「そ、そんなわけないよ! ほら、立ち話もなんだし、家に入ろっ」


 慌てて玄関をあけて二人を中に。

 そして最後に家に入って鍵を閉めて、靴を脱いだところで三つ並んだ靴を眺めて、状況を自覚する。


 今日、九条さんがうちに泊まるんだ……。

 

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最恐と呼ばれるヤンキー九条龍華が、実はただの可愛い女の子だということを俺だけが知っている 天江龍 @daikibarbara1988

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