第6話 アリューン、アイドルになる。

ギルドで話し合いと模擬戦を終え、スズランとアリューンの2人は帰路についていた。

「それにしてもスズランが勝っちゃうなんてね〜」

「なんやそれ私が負けると思ってたんか?」

「正直に言うと、絶対勝てないと思ってた」

「…まぁそうやな、それにランも本気出しとるわけでもなさそうやし」

「えっ、なんでわかるの?」

「単純に考えて、ただの模擬戦に本気で戦うわけないからな」

「…本気でやるって言ってたじゃん」

「…まぁ全部が全部本当とは限らんしな」

「…むぅ」



酒場にて

「なぁ、サザンカ」

「はい」

「どうやって国盗りしたらええと思う?」

「…さぁ?」

「さぁ?って」

「でもアリューン様は武力を行使しない方法で国盗りするおつもりですよね?」

「そうやな」

「でしたら国民の支持は必要なのでは?」

「…どうやって稼ぐ?」

「単純に『こんな国にしてみせます!』って」

「…まぁ、うん」

「あとは『アイドル』とか『歌』で人を惹き付けるとか?」

「…アイドル?」

「どうでしょう?アリューン様はとても美人ですし、いけるのでは?」

「皇女がアイドルって…」

「でもおとぎ話とかでも『歌姫』っていますよ?」

「…う〜ん」

「まぁどうするかはアリューン様しだいですね」

「そうやな」

「ねぇ何の話?」

風呂上がりのアリューンがスズランたちの背後から話しかけてきた。

「ん?あぁアリューンか、実はカクカクシカジカ」


「…私がアイドル?」

「そ」

「なんで?」

「国民の支持を得るため」

「別にアイドルじゃなくても良くない?」

「まぁたしかに」

「ですがアリューン様、アイドルとなるとかなり知名度が上がりますよ」

「私死んだ事になってるんだけど?」

「そこは偽名で」

「…サザンカさんはなんで私をアイドルにしようとするの?」

「…」

「…サザンカ?」

「え〜っと…」

「さては良からぬことを考えとったな?」

「うぐ、アリューン様がアイドルになればうちの店が儲かると思って…」

「よう皇女を呼び込みにしようと思ったな」

「だって!ここ最近全然客が来ないんですよ!」

「だからってなぁ…」

「ねぇスズラン」

「なんや」

「私サザンカさんのためなら店の中限定でアイドルになるわよ?」

「…健気やなぁ…」

「ううアリューン様…」

サザンカは感激のあまり泣き出した。

「それに泊めてもらってるのに働かないってだめでしょ?」

「しっかりしてんなぁ」

「そうですよ姐さん」

「私が働いてないってか?」

「違うんですか?」

「私をなんやと思っとるんや!」

「スズランはどこで働いてるの?」

「私はこう見えてなこっそりレジに金入れとるんやぞ」

「あ〜どうりでお金が増えてると思ったら姐さんの仕業でしたか」

「仕業てなんや仕業て」

「というかスズランはお金持ってたんだ」

「まぁ、家一軒買えるレベルで持ってるで」

「「…」」

「まぁ、昔の報酬金やな」

「何があったらそんな大金が手に入るんですか」

「ちょっとした戦争に参加して成果を上げたからやな」

「でもここ500年戦争の話は聞いてませんよ?」

「スズランいったい何歳よ」

「レディに年齢聞くのはタブーやで」

「あなた性別無いでしょ」

「精神はレディや」

「そう…」

「アリューン様とりあえず我が店のアイドルとして頑張ってください!」

「頑張ります!」

「…それでええんか皇女様」



夜の酒場にて

「それではアリューン様まずはカスミを見ててください」

「カスミさん?」

「はい、カスミは歌が上手いんですよ」

「へぇ〜」

会話をしているとホールでカスミが歌を歌っていた。

「おぉ〜すごい」

「でしょ?ですがカスミ一人では少し大変だろうと思っていたんですよ」

「そこで私が」

「そうです、カスミとアリューン様のデュエットで!」

「ノリノリねサザンカさん」

「そりゃあもう、それとアリューン様は歌は得意ですか?」

「歌は軟禁されているときにメイドさんと少し歌ってたくらい?」

「なるほどなるほど」

「あとはお部屋にあったピアノで少し曲を弾きながら歌ってたよ」

「えっ、ピアノあったんですか?」

「一応ね?」

「…なるほど、アリューン様がピアノを弾きながらカスミが歌う…最高ですね…」

「それにカスミさんが歌ってる曲…聞き覚えがある…たしかメイドさんと歌ってピアノを弾いてた曲?」

「ほほう…ならアリューン様ピアノ弾いてきては?」

「え、良いの?」

「えぇカスミも怒りはしないでしょう」

「じゃあ、行ってきます!」

そう言いながらアリューンはカスミの後ろにあるピアノを演奏し始めた。

「♪〜…アリューン様?」

「シッ、本名バレちゃう」

「…なにを?」

「演奏するの」

「…弾けるんですか?」

「えぇ、任せて」

「…わかりました」

カスミの歌いだしと同時にアリューンはピアノを演奏する。

「おっ、何だ?一人増えたぞ」

「ピアノだ!それに上手い!」

「あぁこれは…」

「まさに」

『神秘…』

客たちはカスミとアリューンが織りなす音色に取り込まれていった…

「ん〜?なんや?」

「姐さん〜…見てくださいよ…あれ…」

「なんで号泣しとんねんサザンカ」

「だって〜…美しいんですもん…」

サザンカは二人の音色に感動し号泣してしまった。

「お〜めっちゃ綺麗な音色やなぁ」

「すごいです!アリュ…『アリス』さん」

カスミはとっさにアリューンの偽名を決めた。

「えっ…あっありがとう」

アリューンも即座に理解しノリに合わせた。

「おい!姉ちゃんたち!もう一曲頼むよ!」

「おう!アンコールだ!」

『アンコール!アンコール!』

アンコールが上がった。もちろんアリューンとカスミは断る義理もなく。

「それではもう一曲!…アリスさんいける?」

「はい!それで何の曲ですか?」

「『星の華』って曲です」

「それなら弾ける!」

「では…それでは皆様!続いては『星の華』です!」

「『星の華』…か…」

「う〜…姐さん?」

「懐かしいな…」

スズランの表情はその時、懐かしむ様な表情でもあり、悲しむかのような表情であった…

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