メイド喫茶クライシス???
中間テストが終わり、全教科平均点以上を取れて安心したり白井が学年三位になってめっちゃイキってたりと色々あった中、学校は文化祭へと動き始めていた。
「よし、それじゃあクラスの出し物を決めていこうか。誰か案はあるかな?」
黒板の前に立ちクラス全体に声を届かせる青年は日山颯太。サッカー部に所属しているTHE・陽キャである。
隣にいるお淑やかな女子は
カプ厨というのは、その名の通りカップリングしたがる迷惑人である。席替えの日がなんだかんだで初めて話した機会だったのだが、あの時から姫矢さんの中では俺✕葉月になっているみたいだ。ちなみに百合や薔薇もイケるとのこと。最近は俺✕盛岡や俺✕白井とかいうえげつない想像をしていたりする。
そんな二人が文化委員として、この場を仕切っているのだ。というわけで俺は日山✕姫矢を推そうと思う。
……ネタだよ?
誰もが皆の動向を窺う中、目の前にいる白井が突然挙手と同時に立ち上がる。
「はい! メイド喫茶! メイド喫茶だろ、お前ら!? なあ!」
瞬間、静まり返る教室。
誰もが固まっている中、最初に声を発したのは姫矢さんだった。
「え、えっと……メイド喫茶ね。とりあえずメモしとくよ」
カツカツと、黒板に触れるチョークの音が虚しく響く。白井はというと、未だ席を立ったまま堂々としていた。
――すげえよ! 白井!
俺だったら恥ずかしくて到底できないことをこうも軽々と……ッ! これは尊敬に値する。一人の学生生活の終わりに敬礼。
「いや、待て。メイド喫茶ってことは女の子がメイドになって接客をするということだよな? それじゃあ男はどうする。全員裏方?」
異を唱えたのは日山だ。
日山って意外と真面目なんだな。そういや白井が学年二位は日山だって言ってたっけ。でもな、そもそもメイド服をどうするのかを考えたほうがいいと思うぞ。
「俺が考え得る限り、男全員が裏方は些かアンバランスだろう。だから俺は考えた。――男もメイドになればいいんじゃないか?」
いや、こいつアホだ。勉強ができるアホだ。
「確かに……!」
「え!?」
日山の暴論を肯定する女子がいて思わず声が漏れた。
「そうよ。女子だけ恥ずかしい思いをするのは公平じゃないわ」
「男子もメイドって面白そう!」
「このクラス、イケメンが多いし……ぐふふ」
少し、悪寒が走った。ナニコレ怖い……。
「ま、待て! 俺は女子の可愛いメイド姿が見たいんだ!」
「欲望に忠実だな」
「うるせえぞ御行! てか、男のメイドとか誰得だよ!」
日山は白井に決め顔で、
「お前もメイドにならないか?」
「嫌だあああああぁァァァ!」
教室に絶叫が木霊した。
白井はおもむろに俺の方へと振り返ると、弱々しい目を向けてきた。
……いやいや、嘘だよな? ここでのキラーパスは犯罪だぜおい。
「御行、なんとかしてくれ……ッ」
「なんでッ! こうなるッ!」
クラス全員の視線が俺に集まる。なんだか男たちが俺に一縷の望みを掛けているようだが、プレッシャーになるのでやめてほしい。
ボク、ヒトマエデハナスノニガテ。
ま、まあたくさんの人の前で劇をするのだし、これは練習だ。物怖じしない練習。
「コホン。……ええーと、まあ、その、なんだ。メイド喫茶じゃなくてさ、コスプレ喫茶とかで手を打たないか?」
俺の提案は予想以上に波紋を呼んだ。
「確かに……!」
「えー、でもイケメンのメイドだからこそ出せる味があるというか……」
「だが、これなら男も恥ずかしがらずに済む!」
「いや、どのみち恥ずかしいのには変わりないだろ……」
騒々しい教室を日山が「静かに」と言って黙らせる。これで日山の独壇場となった。
「コスプレ喫茶……確かにそれはいいな! 他に案がないならこれに決定しようか」
「いや、ちょっと待て! 提案した俺が言うのもなんだが衣装はどうする? それに喫茶って簡単に言うけど難しいだろ」
「おいおい西園寺。そんなことを気にしてたのか?」
今まで教室の隅っこで静観を貫いていた後藤が口を出してきた。
にしてもそんなことって……普通に気にするところだろう。
「喫茶店は去年も出してるとこあったし問題ない。で、衣装についてなんだが……俺たちがなんの部か忘れたか?」
「ま、まさか……」
きっとここで後藤が考えていることを理解できてしまうのは俺と盛岡だけだろう。ほとんどの人は疑問を顔に出している。
後藤はにんまりと不敵に微笑んで、出し物を決定づける言葉を発した。
「ああ、そのまさかだ! 俺は演劇部顧問! 衣装なら任せとけ!」
『うおおおおおおぉぉーーー!』
一年三組の雄叫びは他のクラスにも響いたという……。
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