俺たち神校演劇部!
俺は今、部室から出て廊下の隅に座っている。
決して気まずさから逃げ出してきた訳ではない。俺くらいになれば多少の気まずさ、耐えられないことはないのだ。ではなぜ、俺は今、部室から出て廊下に居るのだろうか。それはこんな回想を観てもらえれば分かるだろう。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あ、えと、そうですね……」
「天気、いいですね」という俺のしょうもないその場しのぎに水野心美は、伏し目がちにそう答えた。
……この状況どうしたらいいんだ?
取り敢えず色々と話し掛けよう。今日から同じ部員になる訳だし。
「水野さん、だっけ? おんなじ一年って聞いたけどクラスはどこなんですか?」
「ニ組です」
「ああ、そうなんですね」
「はい」
「……」
「……」
「ああえっと、今着てるのって衣装? ですよね。ああ、その可愛いですね!」
「え!?あ、ぅ、え!?」
やっべ、ミスったあ!
初めてあった女の子に可愛いですね!は駄目だろ!やばいどうしよ。最近じゃ可愛いって言うだけでセクハラになるみたいだし。流石に話題が無いからと言って、今の発言は絶対に良くなかった。水野さん、顔真っ赤にしておどおどしてるし。と、取り敢えず弁明しなくては。
「ああ、いや、今のはその、違くて! いや、違くは無いんだけど!」
俺が必死に弁明していく毎に水野さんの顔が赤くなっていく。そして、その赤くなった顔をようやく俺の方へ向け、叫ぶかのように言葉を発した。
「あのっ! 着替えるので出ていってください!」
そして今に至る訳だ。
次、顔を合わせる事を思うと本当にしんどいな。何やってんだ、俺。
それにしても水野さん、とても可愛かったな。衣装は似合ってたし、言っちゃなんだが恥ずかしがってる姿も可愛かった。うん、俺キモイな。
まあでも惚れた訳ではないから勘違いするなよ。一目惚れとかするわけ無い。人を好きになるのは、もっと順当な理由がある筈なんだ。容姿だけで好きになるなんて有り得ない。そんなの、今の俺も昔の俺も許さない。
だから今、ずっと水野さんの事を考えてるのも胸の高鳴りも全て恋から来ているものではない!俺はそんな人間じゃない!
右拳を握りしめ、左胸を叩き、自分を戒める。
「何やってんの? お前?」
「うひゃい!?……せ、先生、か」
後藤が俺へと軽蔑の籠もった視線を向けている(気がする)! なんか恥ずかしい!
うわああ、独り言を聞かれた時みたいな恥しさだ。もうお家帰るぅ……。
「なんでそんなとこに座ってんだ?」
「ああ、今、水野さんが着替えてまして」
「ふうん。あ、そうだ。基本的に女子はこの部室で着替えて男子は隣の空き教室に着替えることになるから。まあ衣装なんて普段着ないがな」
そう言いながら後藤は俺にプリントを手渡してきた。
「これ、演劇部の活動内容な。ま、今にでも目を通しとけ」
「あ、了解っす」
俺はプリントに目を落とす。
日曜日、土曜日、祝日以外は毎日活動しているみたいだ。
毎日三十分ずつ発声練習、筋トレを行い、残りの時間で演劇について色々と(脚本書いたり練習したり)するみたいだ。
ていうか演劇部って筋トレするんですね……。予想以上にハードだ。
そんなことを思っていた時、高身長の男女二人がこちらの元へ歩いてきた。
男の人はシュッとした顔立ちでナチュラルマッシュ。知的なイケメンである。女の人は茶髪のショートで見るからに陽気な人だ。
「あれ? 先生じゃないですか。そちらの人は?」
「おう、お前らか。紹介する。今日から演劇部部員になる一年の西園寺御行だ。まあずっと演劇部として活動するかはまだ決まってないけどな」
先生の紹介に俺は、どうもと頷く。
「そんでこの二人は三年で、男の方が
「よろしくね」
「あ、よろしくおねがいします」
副部長がこちらに手を振って笑いかける。これでこの場には先生しか知っている人がいない状況になった。コミュ障からしたら辛すぎるぞ。
そんな中、部室から、もう着替え終わりました。と、か細い声がこちらに届いてきた。
俺達は部室へ入り、ちょっとしたミーティングからスタートした。
「改めて、紹介する。今日から演劇部部員になる一年の西園寺御行だ。勉強が嫌で部活を始めた意気地なしだが、色々と支援してやってくれ」
「え、いやちょっと待って下さい。俺は別に勉強が嫌だからという訳では」
「活動してるのは今いるメンバーで全員だが、所謂、幽霊部員というのも四人いる。西園寺はそうならない事を祈るよ」
「あ、はい」
少しは俺の話を聞いてくれても良いのでは? まあ後藤が言ってることは何一つ間違えてはいないが。
「それと十月には神校祭がある。神波高校の文化祭だ。そこで劇をするから一層、練習に力を入れろよ」
はい! と、俺以外のみんなが力のある声で返事をする。
なんか俺だけ凄い場違いな気がしてきたぞ。
取り敢えず部活動初日だ。明日も出るかはさておき、ちゃんとやるか。
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