葉月花梨
真面目に受けるか、と言ったがあれは嘘だ! 騙されたか? 馬鹿め!
……眠い。とてつもなく眠い。
数学なんて社会に出て使うことなんてあるのか? 二次関数とかなんなんだよ。意味わかんねえよ。
退屈だし頭の中で歌でも歌うか。
キボウノハナー ツナイダーキヅ
「ねえ」
「うお!?」
急に話しかけるなよ。心臓に悪いなあ。
声のする方へ目を向けると隣の席の小学校からの同級生、
「そんな驚かなくてもいいでしょ」
「いや、めっちゃびびった。マジでびびった。団長に止まるんじゃねぇぞって言われたけど心臓止まっちゃったもん。そんくらいびびった」
「は?」
まるで汚物を見るかのような目をこちらに向ける葉月。
……いやまあ今のは全面的に俺が悪いな。めっちゃキモかったもんな。早口だったし。
「コホン。えっと、なんか用?」
「うん、今日女の子に告白されたらしいじゃん」
「ああ、まあ、うん。されました」
「それで、また断ったの?」
「まあ」
「ふうん」
誰も彼もが恋だのなんだの、そんな話しかできんのか、高校生は。
葉月は興味なさげに視線を黒板へと戻す。興味ないなら聞くなよ、と思うが態々聞いてきたってことは興味あるんだろうな。
どうしても葉月の反応はいつも俺を勘違いさせようとしてくる。こいつ、好きな男いるとか言ってたし、そんなことないんだろうけど。というか昔、俺のこと嫌いだって言ってたらしいし。
高校に入ってからモテ始めたから俺は少し浮ついているのかもしれないな。ちゃんと自分を戒めなければ。
葉月の方へ再び視線を送る。
カーテンは開け放れており、陽射しが教室に棲み込んでいる。
俺は妙に眩しく感じて少し、目が痛んだ。
俺の視線に気付いたのか、葉月も俺へと顔を向け、目があってしまう。
なんか気まずい……。
「なに?」
「何でもない」
「そう。……良かったね高校デビュー成功して」
「……は?」
「女の子から告白されたり、沢山アプローチ受けてるのに誰とも付き合ってないのって好きな人でもいるの? それとも失恋をまだ引きずってるの?」
「ちげえよ!」
思わず机を叩いて立ち上がり、大声を出してしまった。葉月の言葉に腹が立った、というのもあるが一番は怒りよりも恥ずかしさの方だ。
クラス中の視線が俺へと集まる。数学の教師も驚き、あたふたしていた。
「えっと、どうした? 西園寺。何が違うんだ?」
「あ、いや、すみません……」
俺は静かに椅子へと腰を下ろした。教師が雰囲気を変えるために、手を叩いてみんなを授業へと戻す。恥ずかしい。今すぐ消えたい。
小さい声で隣からごめん、と聴こえたが聴こえなかったふりをする。
大丈夫。俺も急に大きい声出して悪かった、そう言えたら良いのに、そんな事を言う事もできない。どうしたって俺は根っこの部分が腐ってるんだ。この時間は机に伏せて寝ることにしよう。
もう、授業を聞く気力も起きない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
俺は白井と共に帰路に就いた。白井とは家の方向が同じでよく一緒に帰るようになった。しかし、漫画研究会に所属しているらしく毎日一緒に帰っているわけではない。
……いや、殆ど毎日一緒に帰ってるな。こいつ部活サボってるだろ。まあ帰宅部が言えたことではないけども。
今日は色々とあって疲れた。やはり一時間以上を歩いて登下校するのはしんどいな。親に自転車を
そんな事を考えている時、白井はぐぅっと身体を伸ばして大きく息を吐いた。
「いやあ今日も疲れたな!」
「ああ、そうだな」
「あれ、もしかして不機嫌?」
「そんな事ねえよ」
「ふうん。ていうかさ、六限目の時なんか叫んでたけど、どした?なんかあった?」
「いや、ちょっと葉月と話してて」
「ああ、そういや葉月さんと仲いいよね、御行は。もしかして告白を全部断ってるのってそういう……?」
「ちげえよ、馬鹿。葉月とは小学校からの付き合いってだけだ」
「小学校からの付き合いねえ。なるほどなるほど」
白井は意味ありげにクツクツと笑った。
「なに馬鹿なことを考えてんだ、よ!」
俺は笑いながら白井を体当りした。白井も笑って応じる。
やはり友達と過ごす時間は楽しい。中学の頃は友達なんて殆どいなかったからな。
それからも、白井と他愛もない話もしながら家へ帰った。
結局、六限目は眠れなかったしすぐに寝よう。
眠って昔のことも嫌なことも全部忘れよう。
……だけど、ちゃんと葉月に謝らないとな。
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