恋愛リミテーション

福山慶

高校一年一学期

西園寺御行

 陽射しを遮る校舎裏、昼休みの喧騒が包み込むこの場所に二人の男女がいる。校舎の陰からこちらの様子を覗っている女子が何人かいるが、それはひとまず無視しよう。

 ともあれ、今ここに居るのは頬を朱に染め、決意を瞳に宿した女子高生と気持ち悪い程完璧な作り笑いをしている男。この俺、西園寺御行さいおんじみゆきだ。


◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 五限目の終わりを告げるチャイムがなり、号令をして教師が去る。その直後、俺の元へ男共が一斉に押し寄せてきた。


「おいおい、二組のつむぎさんに告白されたってマジなのか!?」

「返事はしたのか!? 付き合い始めたのか!?」


 なんでこんなすぐに情報が出回るかなぁ、面倒くせえ、と心の中で悪態をつく。

 危うく口に出しそうになったが、深いため息と共に空気へと吐き出した。

 ……ていうか名前も知らない話したことのない奴まで来てるんだけど。俺、元はコミュ障なんだから勘弁してくれ。


「まあ、告白はされたけど断ったよ」

「はあ!? なんでだよ! 紬さん、可愛いだろ!」

「いや、話したこともない人に告白されても普通は付き合わないだろ……」


 というかあの女子、紬って名前なのか。初めて知った。確かに可愛かったが、一目惚れなんて一時の気の迷いだ。ああいう子はすぐに新しく好きな人ができて彼氏もできるだろう。

 そんな益体も無いことを考えていると、色白で眼鏡をかけたヒョロガリの男、白井太一しらいたいちは顎に手を当て語りだした。


「御行、お前勿体ないことしたな。紬さんは一年生の中でも取り分け美少女って評判で先輩達も狙っている人は少なくないのに」

「ふうん」

「ふうんってお前な……。ていうか御行って入学してから告白されたの何回目よ? もう五回されてたりするのか?」

「三回だよ」

「いや、三回でも十分多いが……。まだ七月になったばっかだぜ?」

「そんな事を言われてもなあ……」


 小学生のときに初めて告白されたときは訳も分からず逃げ出してしまった。

 あの時は本当に申し訳ないことをしたなと思う反面、最近は告白されるのに慣れてきている。そんな現状に違和感を覚える。

 俺が告白されている理由は唯一つ、顔がいいからだ。それ以外ありえない。

 自分で言うのもなんだが俺はそれなりに素材がいい。中学の時は髪をボサボサに伸ばしてニキビだらけだったが身嗜みを気にするようになり、だいぶ変わった。中学のクラスメートが今の俺を見たら誰かわからないだろう。

 つまりは、みんな人を顔で選んでいるということだ。誰も俺の本質をみていない。そんな世界に辟易してしまう。

 俺は醜く腐ってる人間なのにな。


 六限目の始まる一分前に教師が教室に入ってきて騒いでいる生徒を適当にあしらい席に座らせる。

 今日はこれで授業は終わり、家に帰れる。

 やはり学校は退屈なものだ。友達といる時は楽しいが勉強するのは面倒くさい。まあ今日の最後の授業だし真面目に受けるか。



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