第5話 魔王は勇者のレベルを上げさせない



「いいかおまいら、ユーナに対してスケベな感情を少しでも抱いてみろ? 四天王ノゾッキーのように消し炭にしてやる」


「は、はは~ッ……」


 四天王エツィーは汗を垂らして膝まずくが、ロリエラとビエルはまったく気にしていないそぶりを見せる。


「あたちは、魔王ちゃまにしかエチい感情湧かないから、関係ないでちね」


「俺もロリエラに同意見だ。俺は魔王様……君にしかときめかない。安心してくれ、俺は女の子に興味はない」


 何を安心しろというのか。


 不安しかないわ。


 ロリエラとビエルは顔を見せ合い、うんうん、と頷いていた。


 狂気の沙汰だ。ここは地獄なのだろうか?


 少女やメンズに貞操を狙われる魔王など、いったいどこにいるというのか……!



  ☆★



 私たちはいったん、消し炭を放置して玉座の間に入る。


 玉座に座ると、肘掛けにロリエラが、逆側の肘掛けにビエルが私にもたれかかるように腰を掛ける。


 謎、マジで謎すぎるこいつら。

 いちおう、私は魔王なんだが?


 フランクすぎて草なんだけど。


 反対に、ゴリラ顔のエツィーは私の前で、やはりというか、しっかりと膝まずいていた。


 うん、きちんとできているのはお前だけだなエツィーよ。お前のゴリッゴリのゴリラな雰囲気は苦手だけど、そこには好感が持てるよ。


 それに比べてこいつらの馴れ馴れしいことといったら。


 すると、一拍おいてロリエラがきょとんと首を傾げて言う。


「ねぇ魔王ちゃま。勇者ちゃんに手を出さないなら、今後あたちらどうちたらいいの?」


「ウム、それなんだが……」


 四天王たちは、私がユーナに恋していることは説明済み。


 それについて反対の意見などない。


 うん、言わせない。


 私は今考えているアイデアを、四天王たちに告げることにした。


 一人消し飛んだからもはや四天王ではないのだけど。


 そして私は彼らにこう付け足した。


「勇者のレベルが上がらないように、魔王軍として工作する、というのを考えている」


「ふうん、それってどういうことだい?」


 ビエルがはだけた胸を強調しながら言う。


 なんだろう、次はこいつを燃やしたらいいのかな?


 とりあえずボタン締めてくんないかな。


「レベルが1のままなら……ユーナも我々と戦おうとしなくなるんじゃないか? 私はユーナと戦いたくない。それどころかずっと一緒にいたいほど、大好きなんだ」


「だからどうちて人間なのー? 気持ちはわかるけど、ねえ魔王ちゃま! 勇者ちゃんじゃなくてあたちを見てほちいのー!」


 ジタバタぶんぶん! とオーバーリアクションでロリエラが駄々をこねる。


「ロリエラ、少し落ち着けよ」


「えぇ〜? ビエルはそれでいいの? 魔王ちゃまは、あたちらじゃなくて、人間の女の子が好きなんでちよ?」


 ビエルが私の頭ごしに、ロリエラをなだめ始める。あとなぜか私の顔に、はだけた胸をぐいぐいと近づけていた。


 あのな、ひとつ言わせてもらいたい。


 ビエルよ、まずお前が落ち着くべきでは?


 私は男の胸に興奮は覚えない、興味ない。


 いい加減にしないなら、ノゾッキーの後を追わせてやろうかな。


 …………それにだ。


 もし私が興奮するならば、それはユーナの真っ白で柔らかそうな肌……コホン! 


 願望が漏れるのを抑え、私はビエルに向けた殺意を堪えて言う。


「とにかくだ、神託の勇者ユーナ・ステラレコードのレベルを上げさせないように、今後の魔王軍としては行動していく……異論は認めない」


「……はぁ、ちかたないな。魔王ちゃまの言うとおりにちます。でもね、勇者ちゃんに魔王ちゃまを譲るわけではないでちからね?」


「俺も同じさ。魔王様……君の心、勇者から必ず奪い返してみせる」


「いや、奪い返すも何も、私の心がお前に一度たりとて奪われたことはないんだが」


 気持ちの悪いことを言うビエルと、少女からの熱烈な愛に私はやや恐怖する。魔王なのに。


 すると、ここまで空気だったエツィーが口を開いた。


「魔王様。ですが……どうやって勇者のレベルを上げさせないようにするのですか? 手をこまねいていたら、あっという間に勇者もレベルが上がってしまうゴリッ。……しまいますよ! 魔王様、何か策がおありで!?」


 エツィー、お前言い直したな?


 語尾がゴリとか聞こえたんだが。


 ほんと、なんで魔王軍のヤツら変なのばっかりなんだろうか。


 頭が痛くなっちゃうよ。


 私はやれやれ、といった感じで答える。

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