第4話 魔王と頭のイカれた四天王


 一方的に四天王からのメッセージをそっ閉じして、私は再び歩き出した。


 私がすぐに返事をするとしたら、それはユーナしかいない。相手が彼女なら秒で返事をしよう。


「なんで私がゴリッゴリのゴリラみたいな四天王に、最速で返事をしなきゃならんのだ。魔王舐めんな」


 エツィーのメッセージに、理不尽にぷんすこしながら私はぽつり呟いた。


 そうだ、今度チャンスがあったらユーナに魔導水晶板をプレゼントしよう。そうすればユーナとメールができる。


 ユーナへの恋、前向きにがんばろう。


 一度や百回、気持ちが伝わらなかったからとて、諦めてなるものか。


 たとえ100回フラれても、101回告白してやる。


 私は希望の光を胸に灯らせていた。

 だって、私はユーナを愛してるからね。


 トボトボ歩いていた足取りは、いつしか軽やかになる。


 私の踏み出した一歩が勇気となり、また、その一足が道になっていくように感じていた。


 やがて、魔王城入り口に到着すると。


「……開門だ。魔王城よ、私は帰って来た!」

「「「「おかえりなさいませ、魔王様ッッッ」」」」


 扉が開いた瞬間、私の帰りを待つ魔王軍の者たちが深々と頭を下げている。


 すると、感極まった幹部が私に勢いよくタックルしてきた。


「魔王ちゃまーっ! 勇者に手を出すなって、どういうことなんでちかっ!?」


「そうだぜ? まさか魔王様……キミが一人で勇者を倒そうだなんて考えてないよな?」


「うん、とりあえず離れてくんない? 四天王ロリエラ、そして四天王ビエルよ」


 四天王の二人が、私が帰って来た途端に抱きついてくる事案発生。


 身長ちっちゃめ、つるぺたおっぱいの猫耳少女、【ロリエラ・ジュニサイ】


 なぜか私にいつも鎖骨やら胸元やらをアピールするイケメンエルフの青年、【ビエル・フダンスィ】


 四天王が忠実なのはいいことだけど、私に少女趣味は無い。


 あと男色家でもない。


 頼むからロリエラ、私の股間に顔を埋めないでくれ。


 ビエルよ、なぜ私の耳元で囁くように語りかけてくるの? スーパーキモいんだけど。


 そんな中、ロリエラが私を見上げ尋ねてくる。


「ねぇ魔王ちゃま、まさか勇者ちゃんと何かあったんでちか?」


「ほう、なぜわかる? 実は勇者は、私が幼少期のころから恋している女の子でな……」


「ふっ……! 魔王様、そんな恋忘れちまいなよ。俺がいるだろ?」


 長い金髪をかきあげながら、ビエルが片手でシャツのボタンを外し出し、桃色吐息を私にふっと吐いてくる。


 やめんかい!


 私はぞわわ、と全身の毛がよだつほどゾッとする。


 それからビエル、俺がいるとは? 意味わかんない。


 相変わらず猫耳の方は私の股間に顔を埋めてるし、これも意味わかんない。


 二人の行為どちらも、ユーナにされたら私がいくら魔王でも悶絶必死……必ず死ぬと書いてマジで死ぬだろう。


 でも、こいつらはユーナではない。


 私が言うのもなんだけど、彼らは頭がイカれ腐った魔王軍の四天王なのだ。


 私がそんな風に考えていると、さらにもう一人の四天王が口を開いた。


「魔王様、ならばセッシャが勇者の調査に行って参ります。……勇者のはだかドキドキド……ゲフンゲフンッ、魔王様のために!」


 股間と妄想を膨らませ、サングラスの位置をクイっ、と直すのは、漆黒のスーツを着た四天王【ノゾッキー・トサッツー】だ。


 彼の手には、小さめの魔導水晶板が握られていた。


 ……ちょっと待て、こいつユーナの裸って言った?


 言ったよね?


 燃やそう。

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