第7話 /初めての顔合わせ~付録)大解剖・これがおばけちゃんのダンジョンだ~



 決着がついたので、全裸な人たちに挨拶をしておく。


「ねぇねぇ、イカサマしたのにボロ負けして、今どんな気持ち?」

「く、くそが!」


 ぶるぶると肩を震わせる全裸一同。


「お、覚えていろよ……借金を返済し終わったら、こんなクソダンジョン、即刻ぶち壊してやる」

「来ないよ、そんな日は」

「け、言ってろ。どうせしばらくここで働くんだ、ルーレットの攻略法を掴んでやるぜ」


 ああ。まだ勘違いしているんだ?


「違う違う、そっちじゃないよ」

「あん?」

「あなたたちが借金を完済する日なんて、一生来ないって話」

「……は?」


 あ、やっぱり気づいてなかった。


「賭けるお金がないから、負けたら借金。返済の当てがないから、その金銭分、働いて返してね、って話だったと思うけど、ここまではいい?」

「……ああ」


 警戒心マックスで、バルガスがうなずく。ついでに全裸のおっさんズも詰め寄ってきた。むさくるしいうえ、汚らしいけれど、がまんする。


「借金してるわけなんだから、利子もつけてね、っていうのも大丈夫?」

「……大丈夫だ」

「借金は200日の労働時間と等価で、利子は10日で1割」

「……それが、どうした?」

「バルガスさんや、本当にまだ気づかないの?」


 彼らの借金は200日分の労働時間で、10日後には1割増える。

 つまり10日後の残り労働時間は190日+利子=209日。最初より増えてるよね?

 そう、借金返済できる日など、一生来ないのだ。

 ……ということを、懇切丁寧に説明してあげると、全裸ズがぶちぎれた。


「てめえだましやがったな!」

「詐欺だ詐欺!」

「可愛い顔してやることえげつねえぞ、このガキ」

「はいはい“静粛に”」

「ぐっ」


 私の一言で、ぎゃーぎゃー喚いていた全裸ズが強制的に口を閉じる。

 よしよし、契約はきっちり守られているね。


「そもそもお金がないのに賭け事をしようとするから、こんなことになるんだよ」

「……」

「“返事は?”」

「ハイ、ワカリマシタ」

「よろしい」


 ものすごく睨まれてる気がするけど、手出しできないでしょ。ま、出されても当たらないけどね?

 挨拶も終わったので、マルガの方に振り向いたら、マルガとテイドリーさんが頭を抱えていた。どったの?


「ああもう、どうしてこうなるのよ……」

「大剣亭のみんなになんて言えば……」

「大丈夫?」


 マルガもテイドリーさんも、顔色がよくない。


「もしかして、迷惑かけちゃった? 契約解除したほうがいい?」

「そんなことない、契約もそのままで問題ないわ。ただ、あの馬鹿共のせいで、いろいろと厄介な状況に追い込まれたなぁ、って思っただけよ」

「馬鹿ってのは、俺たちのことか?」

「他に誰がいるのよ?」

「ちっ」


 バルガスが舌打ちする。だけど拗ねてる子供みたいな、弱弱しい反抗だった。

 私に負けて奴隷落ちしたからかな? どうでもいいけど。

 そうこうしていると、全裸をまぬがれた人たちが、のそのそと集まってきた。その中で、一番年上そうな男がバルガスに話しかけた。


「バルガス。このことは、団長に伝えておくよ。独断専行した挙句、有り金全部巻き上げられて奴隷落ちしたってな」

「て、てめぇこの! ふざけんな!」

「ふん、ダンジョンを舐めるからそうなる。冷静さを欠いた、お前の負けだ」


 なお、彼はパンツ一丁の姿である。

 君、よくそれでそこまで言えるね?

 ちなみに、前回全裸にされた4人は、みんな全裸はまぬがれている。パンツ一丁だけどね?


「いいようにやられたなぁ、お前ら」

「俺たちさんざん注意したよな、このダンジョンは普通じゃないってよぉ」

「こんな新築ダンジョンに負けるはずがない、って言ってたのはどこのどいつだ、あ?」

「パンツすら守れないとか、恥ずかしくないのか」


 パンイチ4人組は、バルガス達に復讐とばかりに詰め寄って、あれこれと罵声を浴びせている。君たちも人のこと言えないからね?

 まぁ、彼らなりの挨拶だと思うとしよう。




 マルガを連れて、姉妹の待つ部屋へと向かう。もちろん護衛のテイドリーさんも一緒だ。


『おーい、もみじ、あおば! ちょっと来て』

『はい』


 もみじが緊張気味に部屋から出てくる。尻尾の先だけぴくぴくと小刻みに振っていた。

 それに充てられてか、あおばも不安そうにもみじに抱きついている。


『大丈夫大丈夫、顔あわせするだけだから』


 それに、いきなり直接対面させるわけじゃない。

 姉妹の不安軽減と安全面に考慮して、ガラス越しでの会ってもらう。

 もちろんマルガが何かをするとは思っていない。でも、万が一ってあるし、もしかしたらほかの冒険者がマルガに何かを仕掛けてるかもしれない。

 何もないとは思うけどね。

 そんなわけで、姉妹を隣の部屋に連れていく。隣の部屋はダンジョンのエントランスとはガラスと扉で仕切られており、勝手に侵入できないように作られている。

 ビルとかの窓口を想像してほしい。あんな感じでガラス張りの小窓と、その隣にドアを設置した。

 これなら来客の対応をしても、危険にさらされることはない。怒鳴りつけてくる失礼なやつが来たら、さっさと奥の部屋に戻ればいいし。


「紹介するね。この子がもみじで、妹のあおば」

「この子たちが、保護した子?」

「うん」

「少し、痩せてるわね。食事はちゃんと取れてる?」

「微妙かなぁ。この前の保存食しか食べてないから」

「なら次は食料もたくさん必要ね」


 私たちが話し合っている間、護衛としてついてきたはずのテイドリーは、


「か、かわいい」


 と、手のひらをガラスに押し付けて、もみじとあおばに熱い視線を向けていた。指紋がつくからやめてほしいんだけど。

 もみじとあおばはその視線に身の危険を感じたのか、警戒するようにテイドリーから距離をとる。


「あーうん。気持ちはわかるけど、あんまり怯えさせないでね?」

「す、すみません」


 消えそうなか細い声で謝罪し、ガラスから離れるテイドリー。それでも名残惜しそうにもみじとあおばを見つめていた。

 まぁ、悪い人ではないみたいだし、いいか。


『紹介するね、こっちがマルガ。行商をしてるから、これからは食料とか服とかいろいろ持ってきてくれるよ。こちらがテイドリーさん。大剣亭の冒険者だって』

『こ、コンニチハ』


 がちがちに緊張した声と顔で、もみじが挨拶をする。あおばが背中に張り付いていることにも気づいていないようだ。


『そこまで緊張しなくても大丈夫だよ。優しい人だから』


 とは言ったものの、知らない人にすぐ心開けるとは思っていない。まぁ、これから何度も顔合わせの機会はあるんだし、ゆっくりと慣れていけばいい。

 ただ、まぁ。

 操り人形のようにガクガクと頷くもみじを見ていると、そうとうな時間がかかりそうだけど。


「そういえば、お二人さん。この子たちの言葉、わかる?」

「いえ、私は王国語しかわからないので……」


 即答したのはテイドリーさん。相変わらず、私に対しては距離を開けるような態度で接してくる。

 それにしても、困ったな。このままだと、姉妹と冒険者たちで意思疎通ができないんだけど。


「私はわかるわよ」

「え、ほんと?」

「ええ。私は勇者の末裔だから」


 なにそれ?


「私も詳しくはないんだけど“ちいとすきる”をもつ異世界の英雄らしいわ。なんでも300年くらい前、魔王を討伐するために多くの勇者が召喚されたとか」


 なんだか美談みたいに話してるけど、それって攫って鉄砲玉にしたってことだよね?

 まぁ、言わないけど。


「その勇者はあらゆる言語を理解し、しゃべることができるとされてるの。私の祖先がその勇者らしくて、私もその能力を持ってるわ」

「へえ。じゃあ、マルガはチートスキルも持ってるの?」

「残念だけど、そっちはないわ。勇者の末裔といっても、かなり血は薄いから。私はたまたまその力を持って生まれたけど、親も祖父母もそんな力は持ってないわ。貴族様や王様は今も勇者の血を守って“ちいと”を受け継いでいるらしいけど」


 チートスキルと呼ばれるだけあって、とんでもなく強力な能力だったらしい。当時の騎士が100人いても、勇者様には手も足も出なかったとか。

 そんな強い勇者様を、当時の貴族たちが放っておくはずもない。男には自分の娘を、女には息子をあてがって、積極的に異世界の勇者様と交わり、チートスキルを一族に取り入れたそうな。


「もしかしたら、おばけちゃんも勇者なのかもね」

「そうかなぁ?」


 確かにその可能性はある。私がダンジョンに詳しいのも、チートスキルの影響と言われればそうかもしれないし。


「もみじちゃんとあおばちゃんの故郷も、勇者様の影響を受けていたはず」

「そうなの?」

「なんでも“米”を探すために、多くの勇者様が東方の地へ向かったらしいから。とくに親交の深かった獣人族は、今でも勇者様の国の風習が色濃く残っているみたいよ」

「あれ、こっちには勇者様の文化は残ってないの?」

「勇者様のほとんどが貴族様になったからなのか、残っていないわね。強いてあげるなら、名前かしら」

「名前?」

「私のマルガって名前も、祖先の勇者様の名前からつけたらしいし。エレンのテイドリーって苗字も、当時の勇者様の名前から拝借したらしいわ」


 マルガの話を聞いて、うーんと考えてみる。まるが、ていどり……もしかして、丸賀と千鳥?

 そういえば紅葉も青葉も、日本語だよね。ってことは、勇者様は日本人?

 さすがに断定するには情報が不足しているけど。私自身の知識と合わせると、勇者様は日本人であると考えても問題はなさそう。

 それよりチートスキルというのは、いったいどんなものなんだろう?

 私が考え込んでいると、マルガがのんきに言った。


「ま。いまじゃもう、勇者様は文献にしか残っていないから。気にしなくてもいいと思うわよ? 貴族様もわざわざダンジョンに出向いたりしないと思うし」


 ……だと、いいけどね?





 付録)これがおばけちゃんのダンジョンだ!



 エントランス

 とは名ばかりの、何もない空間。右側に温泉のあるエリア、姉妹の暮らす部屋へ続くルート。左側にカジノルームへの道がある。

 とくに仕掛けもへちまもない、ただの広い場所。将来的にはホテルのラウンジ的な構造にする予定。


 4連4つ扉

 入り口は鍵がかかっているため、開けることはできないが、入り口の前にある赤いボタンを押すことで開くようにできている。

 扉が4つ並んだ壁が、4回続く、それだけの部屋。扉には特にカギがかかっているわけでもなく、普通に開けられる。一見何の変哲もない扉にみえるが……

 実際には、各壁に並んだ4つの扉のうち、1つだけ当たりの扉がある。すべての壁で、当たりの扉を開かなくてはカジノルームの次の部屋には到達できない仕掛けである。

 言い換えると、はずれの扉を開けた時点でアウト、である。

 これだと攻略不可になってしまうので、ちゃんとリセットボタンは準備してある。それが入り口前の赤いボタン。

 このボタンはカジノルームの“貯金箱”にも連係しており、押すと今まで集めた砂が排出される。また、赤いボタンを押すたびに当たりの位置が変化するため、すべてのパターンを試せば必ず開くわけでもない。



 カジノルーム

 たくさんの(予定)ゲームが置かれた部屋。現在はルーレットのみ。

 中央に配置してある砂時計の上側だけ切り取ったような、漏斗のようなオブジェに、規定以上の砂が溜まることで次の扉が開く。通称“貯金箱”

 砂時計状からわかるように、底は開いていて、砂が流出するようにできている。流出の速度は現在の砂の量に比例しており、溜まれば溜まるほど速く空になる。

 この速度は前の部屋で当たりを引いたときのみ、上限に達する。なので一定の砂を溜めれば、当たりか外れかが判断できる。

 ようするに、前の部屋で当たりを引いていないと砂が溜まらない、のである。


 砂を溜めるには玉が必要となり、以下の2つの手段がある。

 1)所持品を売り払う。

 2)玉をかけたギャンブルを行う。

 なお、1)のみの場合、不可能判定になる(全裸の攻略者が現れた場合、絶対に攻略できないため)ので、隣に採掘ポイントが設置してある。これをホリホリすることで玉が稼げるので、全裸でも問題ないな! という判定。

 2)は難易度調整用。採掘だけで開けようとすると、馬鹿みたいに時間がかかるため、高難易度判定になる。なので時間短縮できるようにカジノが作られた。

 玉をいっぱい集めて36分の1チャレンジをすれば、一発でクリアも夢ではない。当たればな!



 姉妹の部屋

 2重扉になっており、入ってすぐは来客に対応するための部屋。一部がガラス張りになっており、ビル受付のように、部屋の外に出なくても客の対応ができるようにできている。

 さらにその先の扉が姉妹の部屋に繋がっているので、プライバシーもばっちり!


—――—――—――

ご無沙汰しております。

今後は週に1度の投稿ができれば、と思っております。

よろしくお願いいたします。


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