錆椿
君は僕にとって、多分、大切な友人であったと思う。
幼い頃は家が近くて、よく川辺に集まっては川に入って釣りをしたものだ。
大きくなってからは会わなくなった。
家の事情。奉公先。結婚。
それらが全て重なった。
10年。10年もの間、僕は君と会うことはなかった。
まさか会えるとも、思っていなかったのだから、そりゃあ最初は驚いたものさ。
君は変わっていなかった。容姿も、話し方も、全てがあの頃のまま。だからすぐに君だと分かったよ。
君が目の前に座っている。
僕は君の後ろに立っている。
僕は、ふと、君が以前話していたことを思い出した。
椿の花は、とても美しいけれど、それでいて残酷な花なのだと君はいつか教えてくれた。
椿の花が落ちる瞬間を、昔の人は「人の首が落ちる様子」に似ていると連想していたそうだ。
だから僕は、
君を椿に見立て、
そして、
ひと思いに、振りかざした。
力を失った君の体は地面へとゆっくりと横たわる。
僕の手は椿色に染まっていた。
不思議なことに、僕はその色が君を表しているようで、少しだけ安堵したのだ。
まだ君が、僕から離れないようにと、言っているような気がして。
愛着すら湧く始末。
あれからまた3年。
今度は僕がこの場所に座っている。
君の愛で満たされた僕の手は、椿色に染まり続けた。
だから、
きっと僕も、君と同じように、椿になれる。
もっとも。
僕の花は、錆び付いてしまったけれどね。
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