鬼のこうべ

 とある神社へ足を運んだ商人が、あるほこらから目を放せなくなった。

 祠の中から漂う不穏な空気にてられて、商人は思わず祠の戸を開いてしまった。

 祠の中にはひとつのこうべまつられていた。


 首は、およそ人のものに在らず。

 額には角が――見間違いでなければ――一本、生えていた。


 商人は、さてこれはどうしたものかとくびを傾げる。

 この祠は何かを祀るには大変、おごそかで。

 鬼のこうべなど祀るような祠ではない。

 この祠には地蔵様やお稲荷様といった神使しんしを祀るべきだ。

 商人はその道の人間ではないが、そこに祀られるべきは鬼ではないと考えた。

 商人は鬼の首の代わりに、先日由緒ある神社の宮司より頂戴した地蔵でも祀ろうかと、首に手を掛けようとした。


 しかし、商人は思い止まる。

 この鬼の首はいったい、いつから祀られているのだろうか。

 もしも長い年月、祠の中に首があったなら、それは神格化していたとしても不思議ではない。

 ”器物は百年経ると化ける”と昔の人はった。

 だとすればこの鬼の首は”付喪神”として祀られているということになる。

 神に触れることは禁忌だと考える商人は、思い止まり、静かに祠の戸を閉めた。


 さて。

 神社をあとにして、次の目的地に向かおうか。

 商人がその場から立ち上がった瞬間とき


 パキッ――


 木の枝を踏み割った音が背後から聞こえてきた。

 背後から忍び寄る。急激に気温が下がり、霧が立ち込める。

 商人は早くこの場から立ち去ろうと、振り返った。


 そこには

 姿


 とある神社へ足を運んだ宮司が、あるほこらから目を放せなくなった。

 祠の中から漂う不穏な空気にてられて、宮司は思わずその祠の戸を開いてしまった。

 祠の中にはひとつのこうべまつられていた。

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