第7話 翔の本当の性格
気まずい。僕の隣に、あの洋一さんが座っている。何を話していいのかもわからず、僕は教科書を読んでいる振りを続けていると、
「お前、一郎だったよな?」
と洋一さんが僕に話しかけて来た。
「はい、そうですけど?」
「翔と何かあった?」
僕はドキッとした。
「・・・別になにも・・・」
「そうかなぁ? 午前中の授業、翔と一緒だったんだけど、ずっと機嫌が悪くてさぁ。一郎が、一郎がってずっと気にしていたぜ? もしかして、翔と喧嘩でもしたのか?」
「してないですよ。そもそも、洋一さんに僕と翔が喧嘩しようが仲良くしようが関係ないじゃないですか」
僕は思わず洋一さんに対する当たりが強くなる。そんな僕に洋一さんは苦笑した。
「なんか、俺、すっかり翔の彼氏くんに嫌われちゃったみたいだな。でも、俺が翔に彼氏と喧嘩でもしたのかって聞いたら、今の一郎と同じ様な反応をしたよ。お前ら二人って結構似てるよね」
これは喜んでいいところなのか? でも、洋一さんに言われるとちょっとムカつく。
「でもさ、何があったのかは知らないけど、翔と仲直りしてやってくれないかな。あいつ、すっかり参っていたよ?」
ふぅん。勝手に参っておけばいいんだ。僕のことを放ったらかしにしたのは翔の方じゃないか。何で勝手に翔が参っているんだよ。僕は拗ねてむっつり黙りこくっていた。
「翔はさ、ああ見えて実はすげぇ淋しがりやなんだよ」
黙ったままの僕に、洋一さんが話し始めた。
「あいつ、最初はすげぇ人見知りでさぁ。幼稚園に入った時もなかなか友達が俺の他にできなくて、俺が誰かと遊びに行こうとすると泣きながら俺の腕を引っ張って引き止めて来るようなやつだった。俺と付き合ううちにだんだん人付き合いもできるようになって、友達もたくさんできたけど、友達をそれだけたくさん作ったのも、翔は本当のところ、独りになるのが怖かったからなんだ。だから、頑張って皆に合わせてはしゃいでみせてさ。頑張りすぎなんじゃないかってくらい頑張っていたよ、あいつ」
へぇ。僕の知らない翔をこれだけ知ってますよって自慢かよ。面白くもない・・・。
でも、翔がそんな過去を持っていたなんて意外だ。小学生の頃はずっと友達が多くて社交的な性格なんだろうなって見ていたから。
洋一さんは続けた。
「でも、俺が中学に入るのと同時に引っ越して、翔とは離れ離れになった。最初は連絡を取り合っていたんだけど、ある時からぷっつり連絡が取れなくなった。俺、何か翔にあったんじゃないかと思って心配して、人づてに翔の様子を探ってみたんだ。そしたら、翔が中学校でゲイであることが噂になって、友達がみんないなくなっちゃったんだって聞いてさ。そんな時に俺、あいつのそばにいてやれなくて、本当に歯痒かった。でも、俺にはどうしてやることもできなくてさ。翔に話をしたくても、翔の方が俺と連絡を取るのを拒否してる。俺から翔の元へ行こうかと思ったけど、俺の方も学校や部活が忙しくてついついタイミングを逃しちゃってさ。それから、中学高校と、あいつがどうしていたのか、俺は全然知らないんだ。でも、そのタイミングで翔は一郎と付き合い出したんだよな? だから、俺、翔と再会して、その翔が一郎のことが大好きで、俺の前でもずっと一郎の話ばかりしているのを聞いて安心したんだ。翔のそばにはいつも一郎がいてくれたんだって。だから、あいつは大丈夫だったんだってな」
僕は黙って洋一さんの話を聞いていた。翔の本当の顔か。確かにあいつは社交的だけど、人見知りで内気な僕と通じ合うところがあったのは元々そういう性格だったからなんだな。というか、付き合い出してからは、時折僕の前では弱気な部分を見せたりしていたしな。実は滅法弱気な性格なのかもしれない。
その時、授業の開始を知らせるチャイムが鳴った。
「とりあえず、この授業が終わったら翔と会って話せよ。今のままじゃ、翔が落ち込み過ぎて、俺も近寄り難い。何があったのかは知らないけど、いい加減許してやってくれよ。頼むよ」
洋一さんはそう言うと、前を向いて授業を受け始めた。
翔が落ち込んでいる、か。勝手なやつ。僕を怒鳴って泣かせて気まずくさせたのは翔の方じゃないか。それを落ち込んで近寄り難い雰囲気を醸し出しているなんて、どこまでも自分勝手なやつ。でも、翔が僕を怒ったのも、僕が夜遅くまで翔に連絡もしないで出歩いていたからなんだよな。汗だくになって僕を探し回ってそれでも見つからなくて、最終的に駅の改札の前で僕がいつか帰って来るんじゃないかと一縷の望みをかけていたんだろう。僕もちょっと翔に悪いことをしちゃったな。
今日はこの授業が終われば家に帰るだけだ。洋一さんに言われた通り、一度翔と会って話そう。僕はそう心に決めた。
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