第4話 竜二と大地
竜二と大地の二人がわぁわぁ騒いでいる。ゲイである僕が、知らず知らずのうちに新宿二丁目に迷い込み、発展場となっている公園で男に襲われそうになって逃げ込んだのがゲイバー「アリス」だと。出来過ぎた展開だと僕も思う。でも、仕方ないじゃん。偶然に偶然が重なってこうなってるんだから。
二人は俄然僕に興味を持ったらしい。根掘り葉掘り僕のプライベートを聞きたがる。初対面の僕にグイグイ来るんだな、特にこの竜二って子は。でも、いきなり僕のプライベートを見ず知らずのこの二人に全て教えて回るのは気が引けた。
「まずはお二人について教えてください。僕、お二人がどんな方か知りませんし」
「へぇ、結構はっきりモノを言うんだな。可愛い顔してる癖に」
竜二が目を丸くして僕の顔を覗き込む。
「竜二!」
大地が竜二を軽くどついた。僕はいきなり初対面の相手に「可愛い」などと言われてすっかりのぼせ上ってしまった。
「だ、だ、ダメですよ。僕、彼氏いますし。その・・・浮気とか、ええと、ワンナイトラブっていうか、そういうの、興味ないんで・・・」
「ワンナイトラブ」なんて、言うだけで顔が真っ赤になる。すると、二人はそんな僕の様子に笑い出した。
「冗談冗談。俺にも彼氏ならいるし。こいつなんだけどな」
竜二がそっと大地を抱き寄せる。大地の頬がポッと赤く染まった。あぁ、なるほど。そういうことか。二人で新宿二丁目に来るんだから、そういう関係でもおかしくないよね。最初から随分仲良さそうだったしな。
二人がいちゃつく姿を見ていると、急に僕も翔に会いたくなった。だが、次の瞬間、洋一さんのことが頭を過る。ふん。翔なんか恋人の僕を放って幼馴染の洋一さんとばっかり仲良くしてさ。もう知らないんだから。
僕はもう少しこの二人と時間を共に過ごすことにした。
「ええと、二人っていつから付き合っているんですか?」
二人は仲良さそうに顔を見合わせ、見つめ合い、その馴れ初めから今に至るまでを話してくれた。
高校三年生でクラスメートになった二人は、大地がゲイであることが学校でバレた事件をきっかけに付き合うようになった。英語のスピーチコンテストでゲイであることをカミングアウトしたことを校内新聞の記事にされ、全校生徒の知るところとなった。本人に許可も取らずに校内新聞でその内容を書くのは、校内新聞の編集者もさすがにちょっと迂闊だよな、と思う。ただ、そのおかげで高校入学当初から大地が気になっていた竜二が大地を守ることを決意したというのだから、禍を転じて福と為すって感じか。
ところが、一年も経たない内に、三学期、竜二が東京へ引っ越すことになった。それをきっかけに二人は一度別れたのだが、たまたまこの東京のとある私立大学に二人共合格し、大学で偶然の再会を果たしたのだという。
「で、上京してきた大地が二丁目行ってみたいっていうから、一緒に来てみたんだ。たまたまその時に入ったのがこの『アリス』でさ。ママも優しくて雰囲気もいいから今夜また来ちゃったってわけ」
「竜二も行ってみたかったって言ってたじゃないか。俺だけのせいにするなんてずるいぞ」
二人は痴話喧嘩を始めた。はい、どうも御馳走様です。
「そうなんですね・・・。じゃあ、二人とも、僕と同じ十八歳ってことですか?」
「あ、お前も?」
竜二が僕に飛びついて来る。相変わらず押しが強いな、まったくもう。
「じゃあ、俺と友達になろうぜ。俺、
「俺は
「はい、よろしくお願いします。僕、因幡一郎です」
「その、敬語やめね? だって俺たちタメなんだしさ」
「あ、そっか。それもそうだね」
僕らは笑い合った。
「で、一郎の彼氏ってどんなやつなの?」
大地が僕に尋ねた。二人が自分たちのストーリーを明かしてくれたのだ。僕も話さないわけにいかない。僕は翔との関係を全て話すことにした。
僕が翔と初めて出会った小学生の頃に通っていた水泳教室だった。その時は結局声をかけることもなく、水泳教室をやめてからはずっとお互いの居場所も何もかもわからなかった。
中学生になった僕は、翔に少し雰囲気の似たクラスの男子生徒
身体中にあざを作り、ボロボロになっていた僕だったが、耐えきれなくなった僕は、とうとう家に引きこもるようになった。母さんはそんな僕をずっと心配していたが、僕はずっと自分の殻に閉じこもり、母さんにも反抗的な態度を取り続けた。そんな中、母さんは病気におかされ死んでしまった。
全てを失った僕が絶望に駆られて思わずマンションの屋上から飛び降りようとした時、そのマンションにたまたま住んでいた翔に助けられた。翔も実は僕のことを水泳教室に通っていた時から気になっており、この出来事をきっかけに僕らは付き合うようになった。
二人で同じ高校に進学しようと約束し合い、まずは翔が、続く年に僕が同じ高校に相次いで合格した。高校生活を送る中で、僕らの関係はだんだんと変化していった。最初はずっと誰にも二人の関係を知られないように隠れるようにして付き合っていたが、他のゲイの友人に出会ったりする中でだんだん二人とも変わっていった。僕が高校一年生の二学期に、とうとう僕はクラスメートの前でカミングアウトをした。その反応は嬉しものから悲しいものまで種々様々であったが、そんな学校生活をずっと二人三脚で乗り越えて来たのだ。
そして、今、僕は翔と一緒に同じ大学に通っている。それが僕の翔とのライフヒストリーだ。
「だから、翔は僕にとって命の恩人だし、僕の全てを変えてくれた人なんだ。翔がいなかったら、きっと僕は今、この場にいない。だから、誰よりも翔のことを愛してる。もう付き合うようになって六年目になるんだけどね」
僕はそう言って自分の話をし終わった。
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