episode32 主人公VS最凶
皆とはぐれてしまったが、僕とひのみは同じ穴に落ちその先にあったのは巨大な門だった。
おそらくこれこそ僕らが追い求めた悪魔が今世に押し寄せるための冥界門。
これをひのみの力で封印出来れば目的は達成出来るのだが……。
黒衣の鎧を着こなし仁王立ちでずっしりとそこに最凶は大剣を構え待っていた。
「やはり、貴様が神楽の巫女だったのだな?。道理であの世界で俺の前に現れるのを拒んだわけか。薄々そうではないかと思いはしていたが」
「それは感謝するわ。なにせもし私をあの世界から退場させられるとヤマトを連れ戻す術が絶たれるもの」
「ハッハッハッ、勘違いしてもらってわ困る。俺は再び大空ヤマトと戦いたかったんでな。あの窮屈な檻から早く解放してほしいと願っていたよ」
「ひのみ、君は後ろに下がっていてくれ」
共に戦うと決意した彼女だったが、今回は僕の頼みに応え後方に退いてくれた。
「やり合おうか主人公!」
互いの魔気を纏わせたオーラが肥大化し衝突するのを皮切りに両者動き出す。
くっ……。
歯を食い縛り大剣の重みで吹き飛ぶ姿勢をぐっと堪える。
そんな中で黒騎士を空中で捉えれば。
“水龍”。
黒騎士二度目の大振り。
斬る対象がまだにも関わらず空を裂くと水龍は見えない壁に阻まれたかの如く何かにぶつかり弾け飛んだ。
「やっぱ遠距離系統だと決め手にかけるか」
次に備え剣を構えればほらっ!
見えない引力に誘われ身体が、勝手に引き寄せられる。
抵抗したところで変わらない。
だけど安々と思惑通り行く訳には行かせない。
『神水』から『神風』へ移行。
後ろ向きに強風を吹き荒らし、背中を押す形で間合いを一気に寄せる。
目つきが若干驚きの姿に変わるも僕を待ち構えた。
距離は僅か三メートル弱まで迫り、あと数秒で互いの剣の間合いに入る。
大剣と僕の剣では尺が違う。故にめいいっぱい腕を伸ばしたとしても斬っ先が届くのは向こうが速い。
だけどここにひと工夫加えた。
『神風』から今度は『神土』へと移し、黒騎士の地面を一気に盛り上げさせる。
足場のぐらつきプラス盛り上がった地面が距離の間隔を狂わせ、大剣の動きが鈍ればそうなることを予め知っていた僕は容易に虚を突く。
三度、その剣は姿を変える。
“一閃・烈火”。
狙いすました炎の斬撃が黒騎士を斬り裂こうとするも……。
漆黒の鎧の前に弾かれた。
接触部分が多少傷つくもすぐに闇のオーラがその箇所を覆うと何事も無かったかの如く綺麗に元通りの姿を取り戻す。
“烈火・連撃”。
防がれたからといってそこで終わりではない。
魔気を焚べ続け烈火の炎を殺すことなく、二撃目、三撃目と繋げていく。
後手に回らされた黒騎士であったが、連撃には対応し大剣を軽々と振り回し防御に徹した。
クソっ、重そうな鎧を身に纏っているわりに機敏に動いて……。
「“
小さな黒点が不意に黒騎士の左手に現れる。片手で簡単に“烈火・連撃”に対応しつつ暗黒物質を創ったことに腹が立つ。
すかさず土壁を張ろうと展開するも、度重なる『神楽』の変形と魔気の供給が追いつかず不十分な出来のものしか作れなかった。
暗黒物質は形状を変化させ鋭く尖った棘が無数に滅多刺しせんと伸びる。
結果脆かった土壁はあっさり崩れ利き手を庇い出した左腕に棘は突き刺さり血が滲み出た。
警戒していた筈なのに大剣の方に気が囚われ頭から抜け落ちていたばかりに、喰らってしまうとは……少しばかり勘が鈍ったように感じてしまう。
腕の痛みを無理矢理忘れ振るった剣で棘を切断。勢いよく刺さった棘を抜く。
「ヤマト!後ろっ!」
ひのみの声に振り返ると眼前に居た黒騎士は背後に回っていた。
手に持つ暗黒物質で造られた棘を投げるも届く前に溶けて液状の物質に変わる。
自身の手で生み出したもの等効かないと分かっていてもたった一秒でも時間を稼げたら……、その一心で僕はそれを実行した。
そして得られた時は振り向き構えるだけの余裕を与える。
二度目の鍔迫り合い。
吹っ飛ばされた一度目とはうって変わり持ち堪える。
というより本来黒騎士相手に距離を空けることは決して許されない。何故ならば…。
「思わず期待外れかとつい考えが過ったぞ」
「それは謝るよ。意外と囚われていた時の影響は響いているみたいなんでね。貴様の『断絶』を最も警戒すべきだとアレで思い知らされたよ」
「ふっ、この場で笑みが溢れるか」
指摘されて初めて気付かされる事実。
どうして笑ったのか分からなかったけど、一つの確信を得る。
孤独な戦いは人の目を曇らせる。
だがそれは人間だけではない。
悪魔側もそれは同じだ。
大空ヤマトは黒騎士と戦い、衰えていた戦闘の勘を取り戻しつつあった。
そして今!その手に掴んだ!
戦況は一時的に拮抗する。
ここだ。頼むぞひのみ!
彼女はそれに応えてくれた。
黒騎士も蚊帳の外に放り出された接続者など眼中に無く、待ち望んだ者との対決に一心の想いを注いでいた。
故に場外の出来事に気付けなかった。
ひのみを中心に魔法陣が光り輝き、彼女は詠唱を続けていた。
その先には未来が待つ。
その未来は希望で溢れている。
その実現には奇跡が必要なり。であれば、私は贄となり彼の者に希望を与えん。
第一の鎖解放を承認。
その道程は過去を指し示す。
その過去は勇気で溢れている。
その歩みは軌跡となり。であれば、私は贄となり彼の者に勇気を与えん。
第二の鎖解放を承認。
その位置は彼の者の現在を現す。
その現在は努力の積み重ねによるもの。
その今は奇蹟となり。であれば、私は贄となり彼の者に努力を与えん。
第三の鎖解放を承認。
過去、現在、未来。
全ての鎖の解放を確認。
彼の者にその資格あり。
述べよ汝の願いを。
ひのみの最後の詠唱に入る。
それに僕は応えた。
「僕に力を!」
瞬間より一層の輝きが魔法陣より溢れ出す。ついに第四の鎖の縛りが解ける。
「なんだ!その輝きは!」
黒騎士は驚嘆した。
幾度にも及ぶ戦いの中、一度も見たことのない力を目の当たりにした。
そして力負けし退いてしまった己自身に。
どういうことだ?奴の力は四つの独立した属性を使い分けて戦うことに長け、力勝負では拮抗したことがあるとはいえ剣の押し合いでこれ程までに後退したことはないぞ。
しかも押し負ける刹那映り込んだ輝きは、四属性を示す色ではなくそれが混ざりあった全く別の代物。
速いっ!
何がどうなっている?
黒騎士の問いに答える者はいない。
力を増したヤマトを前に防戦を余儀なくされた。
だが一つの仮説を立てることは容易だ。
力の上昇を促したのは巫女の力によるもの。結論づけると暗黒物質をヤマト目掛け放ち、彼はその対処にあたる。
狙い目はそこ。
たとえ距離が離れていたとはいえこのフロアに巫女は立っていた。
云うなれば黒騎士の
ヤマトは暗黒物質の排除に動き対処に遅れる筈。黒騎士が次に構えた先に居たのは…。
「“断空斬”」
飛ぶ斬撃がその場にあるものを全て呑み込みひのみへと迫る。
黒騎士の大剣『断絶』。
見た目は何の変哲もない大剣に見えるが、一度望み振るえばその空間がこの世から削り取られる。
そして元々存在せずこの世から消えた世界を埋め合わせるが如く収束する。それこそがブラックホールに吸い込まれる引力と化す。
”断空斬‘’が向かう先。
削り取られた世界は収束を始め、
ヤマト……!
彼女の瞳が訴えかける。
これでお別れだと…。
そんなの駄目だ。やっと逢えたのに。
間に合わない。
そんな考えが頭を過ぎった。
そして、忽然とひのみの姿はこの世から消え去る。
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