episode21 北海道/大阪での戦場

 北海道。

 季節は夏だというのに、北海道の地ですらあり得ない猛吹雪振り撒く光景がここ北海道の玄関口「函館」に広がっていた。

 まだ悪魔が現れる前のあの頃の景色は微塵もなく、見渡す限り雪に覆われた白い大地と化したこの場所には悪魔の巣窟があり、鶴見舞菜率いるチームはこれから攻撃を仕掛けようとしていた。


「じゃ!行くっす。ミッションスタート!」


 舞菜の号令を皮切りに上空からのスカイダイビングを結構した。

 何故空から攻めるに至った?

 理由は、「氷の魔女」が巣窟を守る為に張った結界である猛吹雪ブリザードの壁。

 真正面から向かったところでこの壁の前に視界は奪われあっという間に敵に包囲されてしまう。

 ただそれでも勝ち目がないわけではない。

 何故ならばこの地には相性抜群の接続者が配置されていたために。

 けれど、彼女の力を以てしても中枢に辿り着く前に力が底をつく為無理をして攻める時ではないとの自衛隊との会合により留め置かれた作戦があった。

 それを自衛隊の助け無し実行に移した。

 無謀にも見えるがこれが一番合理的と北海道チームは断行する。

 空からの降下作戦は案の定、猛吹雪の嵐に視界は阻まれ加えこれまで以上に荒ぶき身体が吹き飛ばれそうだ。


「まだよまだ!」


 舞菜の左手首には、こっそり自衛隊より拝借した特殊仕様の高度計が目まぐるしい速さで数値が下がっていく。

 自由落下する彼女の背後に仲間を引き連れ降下していけば作戦高度へと達したことを報せるアラームが鳴った。

 

接続コネクト、『鳳凰の篭手ガントレット』」


 起動と共に舞菜の両腕を覆い隠すように武器が顕現した。

 そして右腕を地上へと向ける。

 

「“焔渦”」


 舞菜を中心に炎の渦が現れ、彼女を含む地上へと降下していく仲間をも猛吹雪から守り視界の確保の役割を果たす。

 この技を猛吹雪の壁突入時から発動する手も検討されていたが、敵からの発見を遅らせる為にも敵の居城ギリギリまで迫った場面での焔渦。

 仲間には申し訳ない気持ちがありつつも、ここまで留められたことは好機。

 敵もまだこちらには気づいてない様子。

 

「侵入者捕捉。迎撃体制へと変更」


 敵にこちらの動きが察知されてない内に次なる一手。

 着地点の安全性の確保に移る予定だったがそれを許すほど敵の行動は遅くはなかった。

 本来であれば隊を分断したくはないところ。けれど、こう盤面が動いたのであれば自ずと選択肢は決定される。


「散開!」


 指示通り各々分かたれる中舞菜は加速度的にスピードを速め落下していく。


「燃え滾れ鳳凰の篭手」


 地面衝突の刹那。

 超高温度の熱風が彼女を中心に放出され、舞菜を迎撃すべく氷の城に設置されていた数多の兵装が融解していった。

 ただそれに唯一抗い立ち尽くす者がいた。


「久しぶりすねぇ、護衛騎士ガーディアン

「鶴見舞菜。不遜にも我が君の城に何用で参られた?」

「そりゃ〜氷の魔女をぶっ倒しに」


 ニカっと笑い彼女はこの城の門番足り得る力を持つ護衛騎士との戦闘を開始した。


※※※


「神糸“縛”」


 低級悪魔であるスクロール相手に戦いをしているのは、何を隠そうオリジナル接続兵器の所有者にして友美から全てを託された男羽柴蓮。

 

「夏恋すまん一匹取り逃がした。そっちに行く任せた!」


 張り巡らされた神糸の網をすり抜けスクロールが一匹だけ夏恋のもとへ走る。

 ご自慢の白い触手が伸びてきた。

 

「はぁ~やれやれ、疑似接続コネクト“槍”」


 顕現した槍捌きで伸びる触手を斬る。

 斬られた触手は一時的に反り返ったが、すぐに再生し二度目の攻撃を試みた。加え二度目は両腕の触手が左右から襲いかかった。

 だが夏恋は連撃に戸惑うことなく、一度深く呼吸をし正面を向き相手を確実に視界に捉えると。

 魔気マギを脚部に集中させ後方に跳躍。

 触手のスピードよりも素早く下がり距離が出来る。スクロールは獲物を逃すまいと更に追撃してくるが…。

 捕らえること叶わず。

 伸び切った触手は逆に、方向転換し突っ込んでくる夏恋に対しては対応が間に合わない。

 故に、距離は目と鼻の先まで詰めることが出来る。


王手チェックメイト


 構える武器。

 間合いは零距離。

 スクロールは奥の手である光線を放とうとするも、既に何度も視ており夏恋にとってしてみれば何でもない一手に過ぎない。

 放たれる光線よりも早く。

 槍の尖端に収束された魔気が一直線の閃光となりスクロールの脳天を貫き空へと走り抜けていった。

 

「お見事さん流石は夏恋だな」


 夏恋に破れたスクロールは灰となって散りそこに蓮が飄々とした笑みを浮かべやって来た。

 夏恋は自分の戦闘で見ていなかったが、勿論蓮はさっき捕縛させたスクロールの群れを処理した上でだ。

 半ば呆れつつもやはり彼の強さには単純に驚かされるばかりで、活躍には情けなさを覚える。

 けど本音を言えば調子に乗るのは目に見えているので敢えて言うつもりは毛頭ない夏恋であった。


「蓮が取り零さなければ無駄に魔気を消費せずに済んだんだけどね」

「わりぃすまなかったな」

「ま、それはさておきどう思うこの状況」

「至って順調。むしろ順調過ぎるくらいだ」

「良かった同じ認識で…。さっき舞菜達に連絡してみたら向こうも似たような感じ。ただ、氷の魔女が一向に現れないらしくそれが不気味だって」

「拭い切れない違和感の正体はそれだ!」

 

 蓮は戦い始めてから今に至るまで底知れない違和感を感じていた。

 だがその正体が分からずにいたが夏恋との会話で掴むことが出来た。

 黒騎士の不在。

 敷いてはが居ない。


「夏恋!これは罠だ急いで退避を!」

「えっ…………!?」


 気づくのが一歩遅かった。

 夏恋の前には大男が立ちはだかり。

 魔気の防御障壁を張るが咄嗟のことで強度は弱く、奴の怪力の前に脆く砕けた。

 

「フシュュュュューーーーーー」


 大きく息を吐き大男、猛獣王ビーストが戦場に現れた。

 

「思い返せばお前が居ないことを最初から怪しむべきだった」

「ようやくの許可がおりたんでな。待ちくたびれたのはこっちの方だぜ」


 傍らに倒れる夏恋には目もくれず蓮を真っ直ぐ見つめる猛獣王を前に判断が鈍る。

 夏恋を助けたいところだがどうする?

 

「姫さんって一体何者なのか教えてくれないか?」

「残念それは口が裂けても教えられない。だがなぁ〜人間、今この場は妨害電波ジャミング?でお得意の通信は出来ないことだけは教えてやるよ」


 バレてる!

 何か策を思いつたわけではなかったが、この状況を仲間にも伝えるべきだとポッケにしまっていた通信機器に手をかけていたのをあっさりと見破られた。


「てなわけで邪魔者は入らない。さぁ〜やり合おうぜ接続者コネクター、羽柴蓮!」

接続コネクト、神糸!」


 猛獣王が地を踏み締める度割れる大地そして轟音と共に荒波の如く押し寄せる。

 ただ蓮も手を拱いて待つだけではない。

 心配の種であった夏恋についてももう気にする様子も皆無でならば奴にだけ集中が出来るというものだ。

 そして猛獣王に対して抗うには技ではあまり効果がない。

 ならば……。

 

「力押しは好みじゃないんだけどな!」


 蓮と猛獣王の拳がぶつかる。

 両者揺るぎない拳と拳の衝突に俄然やる気を出したのは蓮のほうだった。

 見た目の雰囲気的には猛獣王優勢にも思えるが蓮が負けずに勝負出来る秘訣。それは勿論神糸によるものだ。

 力勝負で負ける気等毛頭ないが戦闘を長引かせたくはない。

 神糸“纏”。

 夏恋が纏った魔気の収束による身体強化の強化版みたいなもので、互角に戦えるだけの力を発揮した。

 だが互角じゃ駄目なんだ。

 敵は俺の素性を知った上で挑んできた。

 となればおそらく他の戦場でも似たようなことが起きている。もしくはこれ以上の困難に立ち向かっていることだろう。

 戦局の要たる俺がこんなところで時間を浪費させれば、結果は「東京第二次大戦」の二の舞。否それ以上の敗北に繋がりかねない。

 そうなれば最悪人類は…絶望の淵に立たされることになる。

 

「蓮!」

 

 咄嗟の叫びは力の均衡を崩す。

 猛獣王の怪力は蓮の足を折らせ膝を着かせた。けれど負けじと身体が潰れることはない。

 このまま何もしなければ負けるだろう。

 そうこのまま何もしなければ

 両者譲らない戦闘は彼女の歩みに気づかせなかった。

 後藤寺夏恋など鼻から眼中にない。

 猛獣王にとって挑むべき相手は羽柴蓮唯一人。その筈だった。

 押される蓮は偏に夏恋を見ると彼女が何をしようとしているのか瞬時に理解する。

 それを確実なものにするために。

 神糸を操り猛獣王の足を固定させた。

 ただ走る度に地面を割る力を発揮した図体のデカさは並ではなく、蓮を押し切ろうと力を込めるたびその場ですら割れ始め足場はグラつく。

 つまり足場を固定したところで無駄な努力にも思える蓮の行為なわけだが…。

 

「上出来!!」

「何っその怪我で動けたか人間」

「鼻っから私のことなんて眼中なんてなかったくせに」

「抜かせ真っ先に貴様を行動不能にしたのを忘れたと言うのか?」

「へぇ〜蓮との勝負に集中出来るようにを最初に片付けたの間違いじゃなかったんだ」


 邂逅一番猛獣王の手により、動けなくなった彼女がそこに立つ。

 勇ましくそして凛々しい佇まい。

 なにより彼女の瞳に宿る闘志はまだ燃え尽きていなかった。


「「接続コネクト」」


 “貸してあげるだけだから!”

 ライバルから告げられた一言。

 接続兵器“神糸”を賭けた決闘を周りから観ていた者にはそれが負け惜しみにしか聞こえなかったが、蓮は別の意味で捉えていた。

 気を抜きもしだらけるようであれば、本気で盗られかねない。

 そんな雰囲気ただ漏れだった。

 別に隠していたわけではないが“神糸”には秘密がある。それはが扱えるということ。そして人以外にも纏わせることが可能なのである。

 “神糸×槍”。

 半透明色の神糸が纏わりつき色を黄金へと変化させる。

 一時的に所有者が変わった。

 けれど蓮が猛獣王の動きを制限するために仕掛けた罠は継続しているままだ。


「神槍“一対”」


 身体強化された肉体で脱兎の如き疾走を魅せた夏恋はそのまま猛獣王の肉体を穿つ。

 普通だったらここで敵も敗北を認め消滅するところだが目の前の敵は一味違う。

 気合いで踏ん張り消滅を堪え足を縛る神糸を力づくで振り解き睨みを利かす。


「貴様……羽虫だと放置しておけば…」

「油断は大敵だぜ猛獣王」


 再び神糸の所有者は蓮へと移された。

 つまりはこの場にて最も警戒すべき相手が瞬時に入れ替わったことを告げる。

 膝を地面につけ屈した筈の男が己と拮抗した力を伴って舞い戻っていた。

 

「ちっ、こんなことなら始めから忠告を聞いておくんだったな」


 最期の台詞を前に蓮はただ自身が誇れる最強の一撃を以て武を示し、名持ちネームドである猛獣王を倒した。

 しかし……その代償は大きかった。

 本来正式な儀式を行い譲渡される神糸を簡略的に受け渡すには魔気が多く消費されるため、蓮と夏恋両名はかなり疲弊していたのである。

 そしてそこを付け狙う影がいた。

 この戦場に居てはならない勢力。その邂逅にやはり罠だったと実感せざるを得なかった。

 名持ちネームド、百鬼丸。

 福岡を根城にする強者の一人である。加えて蓮らを囲むように鬼の群れが立ち並ぶ。

 

「逃げるぞ!」


 とても逃げ切れるとは思えなかったが、それでも蓮は夏恋を連れて走り出す。その傍ら妨害電波により使い物にならなくなった通信機に必死にこの危機的状況を語りかけていた。

 

 

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