episode10 怪しげな誘い
「奴さんまた現れやがった」
黒鉄が確保した安全地帯。
順調に部隊が地上降下し体制を整え進軍の準備を進めている最中。突然一キロメートル程前方にポッカリと穴が開き鳴りを潜めていた
だがこちらも備えは充分。
特殊部隊の動員には少なからず思うところはあった。あの戦いを見てれば自然に湧き上がる疑問。
彼らには戦う力があるのか。
その一点に限る。
ただ問題は機内での説明にて解消された。
「一斉放射開始っ!」
対悪魔用に用意された弾丸が放たれる。
今回参戦を断念してしまったとある接続者の能力。悪魔への対抗策となり得る武器、弾倉の生成。
かの接続者は死地へと赴く僕らの為に可能な限り手助けをしてくれたらしい。
だからこそ特殊部隊は戦いに臨める。
日本を…家族を…友達を…土地に寄り添い生きる人間を護るため。
誰かの為に戦う光景。それは……。
ジジッ…………。
『思い出せ』。
脳が焼けるようなズキズキとした痛みが突然襲い幻聴がした気がする。
そして世界は移ろい変わった。
※※※
“くそっ、キリがない”
“諦めるな!ここが最終防衛ラインだぞ”
“人間の意地みせてやれっ!”
ボロボロになりながらも映像に映し出される彼らの姿は勇ましくしかしどこか儚い。
僕の姿は見えず声は届かない。
しかも驚くべきことに彼らに触れることさえ出来なかった。透明人間。それが現状だ。
訳もわからず顔を振り回す。
この場所を僕は知らない。
正確にはさっきまでいた自然の中ではなく、荒廃した街並み。
倒壊したビル群がより一層絶望感を助長させる。小さな隙間。そこには地下へと続く階段があった。
人間を喰す悪魔と人間の対抗戦力。ここから先は一歩も行かせない。
人間の覚悟は揺るがない。
夢のような光景。けれど現実とも錯覚してしまう程リアリティがあった。
時が流れている世界は確かにそこにある。
“お待たせっ皆!”
“岬ちゃん来てくれたか”
“当たり前じゃないですか!それに私だけじゃありませんよ”
ここ最近何度も振るい手に馴染ませた剣と同じ武器を片手に戦場に立ち、僕が知る人物はそこにいた。
※※※
「ちょっと起きなさい!!!ここは戦場よ」
足立さんの声で意識は我に返り、周りを見渡せば、銃火器を装備した隊員達は攻勢に出て退けようと奮闘している。
だが湧き上がる大群は無限なのか屍を乗り越えるが如く無尽蔵に現れ戦場はやや押され気味ながらも拮抗していた。
「そうだ僕らも戦えば」
「駄目、私達の役割は中に入ってから。それまでは我慢して」
「岬の言うとおりここは堪えて」
新参者とはいえ悪魔と戦える力を身に付けたのに、その力を持て余す自分に対して言葉にはし難いやるせなさを感じてしまう。
僕以上に隣に立つ
「ヤマト、東の方向にワームの死体あるんだけど見れる?」
これまで沈黙を貫いていたヒノミが僕に語りかける。
言葉の先は黒鉄に斬られた
おそらくやったのは黒鉄さんだろう。
なにせ昆長虫は斬り殺されていたからだ。
胴体がぐちゃぐちゃに斬り刻まれた姿が放置されていた。
一見気味が悪く見ただけで吐き気を催したくなる嫌悪感がある死体の存在を教えたいのではなくおそらくヒノミが伝えたいのは別にある。
「あれは研究所の方から来ているはずです」
「本当かそれ」
目的の建物まで未だ距離はあり、その手前に現れた巨大な穴から這い出る敵。
現状を打破する活路を見いだす。
可能性の提示に僕は思わず素っ頓狂な声を出し二人は反応する。
「今度は何……どうしたの?」
ヒノミから教えて貰ったことをそっくりそのまま言伝てした。
「一か八か試す価値アリね黒鉄さん」
「聞こえていた行けるか」
「当然です。ここはお願いします」
「任された」
「さぁ決まれば私の出番
勢い溢れ声高く発動。
己が武器を顕現させた。
出現した槍斧の尖端箇所に稲妻が走り。
「“雷鳴斬神”」
槍斧から放たれた雷撃があのぶにょっとした皮膚を丸焦げに焼き付くす。
黒焦げとなった炭を残し地下へと縦に延びる全く別の穴が露になった。
ヒノミの予想通りだ。
「行きましょ」
見えない穴の底を覗きこめば、足立が先導主として飛び降り尻込みする僕をチラ見した橋本は手を引っ張り一緒に落ちていった。
穴の底は本当に暗く、頭上から漏れる日の光が少し照らすだけで辺りを確認することは出来ない。
「暗いわね」
「じゃあこれかな?」
橋本岬の接続武器、『
物体の移動を可能にし輸送面などに活用しているらしいが、彼女の戦闘を見たこともない僕は、この戦場に参加した意図を計りかねていた。
後方で援護に徹するならまだしも前線に出る意味は……。
「ライトですね」
「そう、これがあれば安全に歩ける」
もしや違う答えがあるのではと思いつつもやはりこうやって戦闘員である僕らのサポートをするのが彼女の役割なのだ。
と一人納得したところでジーっと見つめる瞳と視線が交わる。
視線の正体は橋本さんで。
どうしてそんな目をするんだと思う。
彼女の瞳は僕をとても、とても怪しむ少しばかり憐れむそのもの。
「何か違うこと考えてるなぁ……」
「勘違いしてるみたいだけど、相当強いわよ勿論戦闘員として活躍出来るというかヤバい」
「マジ?」
「大マジ」
「えへへぇ~照れるなぁ~」
真剣な足立さんに橋本さんも満足気にニヤケ面で応対する。
地上での戦闘音など一切聞こえず、別の空間を生み出すこの場所はそんな和やかな雰囲気漂い空気が緩みきっても尚、敵との遭遇なく前進あるのみであった。
昆長虫が掘った穴から続く地上に対し平行に伸びる洞窟の出口は、現代文化そのものと言える出来に僕は思わず感心する。
洞窟出口の境い目は、おそらく研究所の地下倉庫にでも位置する場所だろう。資材があちこちに散らばりその惨状はまるで、ゴミ溜めのようだった。
そこを掻き分け道を切り開き進んだ先には門が待ち構えており、大きく「ようこそ」と門上部に書き記されていた。
如何にも罠だと強調する門構えに。
「どうする引き返す?」
僕の問いに対する答えは……。
足立さんの返事は「進むわよ」だった。
今更引き返したところで、事態が好転するとは限らないならばこそ
こうして僕らは敵の巣窟深くへ侵入する。
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